第35話 探索続行
何とか粘って頷かせようと長期戦に持ち込もうと考えていたのだが、波食が頷いた事で今に至るのだが――
「分かりました。 では、探索するに当たって私が指揮を取っても大丈夫ですか?」
要の波食が転移トラップで姿を消し、非常に不味い事になった所で三ノ婀がそんな事を言いだした。
様子を見る限りではあまり心配しているようには見えない。
一瞬、薄情な女だと思ったが、よくよく考えればあの強さなのでまずは自分の心配をした方がいいと判断したのだろうと思い直した。
さて、彼女の判断については納得したが、果たして指揮官としての資質があるのかと聞かれれば実力を把握していない三上としてははい分かりましたとは言えない。
「それは構わないのですが、三ノ婀さんはそういったスキルを持っているのですか?」
暗にちゃんとできるのかと尋ねると三ノ婀は小さく肩を竦める。
「魔法が少し使えるだけなので、指揮官としての資質を問うているのなら微妙ですね。 ――ただ、ここにいるメンバーの中では私が一番マシかなって思いまして」
「おい! 何だその物言いは!」
そう言って彼女へと詰め寄ったのは前衛職の一人だ。
三ノ婀は自分よりも体格のいい男に詰め寄られても一切の表情を変えない。
ただただ白けたと言った様子の視線を向ける。
さっきまでとは別人のように感情が抜け落ちた表情に三上は背筋が冷える感覚に襲われた。
「うっせーな。 なるべく死なねーようにしてやるって言ってるんだから従えよ」
彼女の投げ遣りな言葉に男は手を伸ばしかけ――それよりも早く三ノ婀が手を翳す方が早かった。
掌から火の玉が現れ男の鼻先を焼こうとしている。
「残念。 あと一歩踏み込んでくれたら頭蓋骨を焼けたのに」
ゾっとするほどに冷めた眼だった。 視線が合った男は恐怖に顔を引き攣らせて一歩下がる。
怒りが消え失せたと判断したのか彼女の掌から火球が消えた。
「本当ならこんなイキるようなやり方、嫌いなんだけどこっちもあんまり余裕ないの。 ごちゃごちゃいうなら私、一人で帰るけど?」
「波食さんの代わりをあなたが務めてくれるという事で良いのですか?」
「良くないけどそうかな? ただ、蓑鋤が居ないから探索はこのフロアだけになるけど問題ないよね?」
欲しい素材が揃えば問題はないのだが、そうでないなら困る。
「ビッグアント、スラッシュマンティス、ラッシュビートル、ウォールセンチピード。 このメンバーで狩れるのはギリギリそれぐらいね」
このダンジョンに出現するであろうモンスターの名称を並べる。
中には必要な素材を持っているモンスターもいたが、まだ足りない。
「ジャイアントアントとポイズンマンティスはどうですか?」
「一個下に出る奴かー。 ニ、三人死んでもいいならジャイアントアントは行けるかもね。 ポイズンマンティスは最大限上手くいっても半分は覚悟した方がいいけどやる?」
即答。 考える素振りすらなかった。 三上は判断に迷う。
答え方がナチュラルだった事もあって知っている感じは強いが、ハッタリの可能性もある。
話を優位に進める為に適当な事を言っているかもしれないとも思っているが、三ノ婀の場合は判断がかなり難しい。 最初の印象に従うのならハッタリで片付けたのだが、今の状態を見ると何とも言えなかった。
「あなたの指示に従えば我々は勝てますか?」
「さぁ? 最善は尽くすけど絶対はないから死ぬときは死ぬよ」
三ノ婀は肩を竦めて見せる。
投げ遣りな態度には不安しかないが、明らかに知識量では自分達よりは上だ。
仮に突っぱねて自分達だけでやったとする。 成功するか?
内心で首を振る。 あの人数でダメだったのだ。
とてもではないが三上には責任を持てない。
「……分かりました。 指示には従いますが、必要な素材の収集だけは行います」
それで構いませんかと付け加えると三ノ婀は少し悩むような素振りを見せたが、まぁいいかと呟いて頷いた。
「ポイズンマンティスとジャイアントアントの話をしてるって事は下位種のビッグアントとスラッシュマンティス狙いでいい?」
三上が必要な魔物の名前を挙げる前に言い当てる。
話が纏まった後の三ノ婀の動きは早かった。 即座に全員の装備から配置を指示し始める。
「はい、槍とかの長物持ちは前、剣は後衛のカバーに入れる位置。 このマップは基本的に前か後ろからしか来ないから、罠にさえ気を付けてれば簡単には死なないはず。 蟻とかの突進系は槍で止めて、カマキリみたいな殴りに来る奴は囲む感じで処理。 複数出たら狭い所まで下がる。 これ徹底ね」
「それで勝てるんですか?」
「んー? 私を含めた後衛の火力次第かなー? まぁ、出てから判断して」
それに従う形で長物を持った者達が前に出て地面を突きながら罠を警戒して進む。
彼女の投げ遣りな態度に露骨に反感を抱く物も多い――というよりは大半だったが。
地面を小突く作業を実に嫌そうにこなしていたが、重要である事を理解するにはそう時間はかからなかった。
小突いた地面が爆発したからだ。
それだけに終わらず、定期的に謎の光を放ったりと罠が次々と起動する。
そして奥に行けば行くほどに頻度が上がっていた。 一面に張り巡らされているという訳ではなかったが、広い道には必ず存在しており、解除している者達が徐々に顔を引きつらせる。
「あぁ、一度解除したら次の変化までは同じ場所には出ないから時計は常に気にしてね」
彼女はそんな事を言いながらほれキリキリ歩けーと前を歩く者達を急かす。
罠の看破に関しては彼女が優れている事は分かった。 なら指揮官としてはどうか?
それに関しても直ぐに明らかとなった。 彼女曰く、このフロアのモンスターは基本的に部屋から出てこない。 外に出る時は獲物を追いかける時だけとの事。
事実、入口から伸びる広い通路は不吉な空気を漂わせるだけで罠以外の脅威は見当たらなかった。
裏を返すせば脇道に入ると高い確率で遭遇する事となる。
最初に入った脇道から奥へと進むと居た。 黒い特徴的な形状は見間違いようがない蟻だ。
3m近い巨体ではあるが、恐らくあれがビッグアントなのだろう。
それが十数匹、薄暗い空間で蠢いている。 虫という生き物は巨大化すると何故こうも悍ましく見えてしまうのだろうか? 三上は思わず身を竦ませてしまう。
「魔法を使える人は準備。 回復職はいつでも撃てるように。 まだ気付かれてないから取りあえず撃ち込んで先制するよ。 撃ち終わったら入れ替わりで前衛組が前に出て食い止めて」
三ノ婀は特に気負いも恐れも抱いている様子もなくテキパキと指示を出すと手の中に火球を生み出した。




