第28話 他者を助けるという行為は尊いがリスクを伴う
他人なんて基本的に利用してされるだけの関係なのにそんな連中を助けるなんて何てイケメン。
私としては素直に同意したい所だけど、残念ながら他人の善意はあんまり期待できないのよね。
悪意は警戒しても襲って来るから基本疑ってかかった方がマシなのよね。 悲しいなぁ……。
大局的に見るなら人間は一人でも多く生きていた方がいいのかもしれない。
この世界を元に戻す事ができるのはダンジョンを全て攻略する事なのでプレイヤーは一人でも多い方がいいんでしょうね。
そう考えるなら蓑鋤の判断は正しい。
でも、はっきり言って私はダンジョン攻略とか不可能と思っているし、死ぬまで世界はこのままって根拠なく信じているから自分と自分の周りの世界の平和だけ守れればいいかなとしか思わないのよ。
だから、蓑鋤やおばさんにはずっと元気でいて欲しいし、その代わりに顔も知らない連中が何人不幸になっても知った事じゃないのよね。 寧ろ、他人の不幸で幸せが買えるなら喜んで他人を蹴落とすだろう。
ここはそう言う世界なのよ。 それに今回の一件で面倒な事になったわ。
蓑鋤が派手に暴れた所を見られた。 本人はその意味をどの程度理解しているかは分からないけど、私は似たような状況になった奴を何人か見た事がある。
ちょっと目立った活躍を見せて注目された人が周囲からどんな扱いを受けるのか?
決まっている。 神輿のようにわっしょいわっしょいと担ぐのだ。
英雄だ、天才だと持て囃し、続いて君しかいない、君だけにできる事とか何とかほざく。
そんな連中が強者に求める者は何か? 搾取だ。 これには大きく二パターンあると私は思っていた。
共通するのは自分の利益の為に利用する事ね。
まずは権力を得る為の暴力装置として手元に置きたいと考えるゴミ。
闘技場やら人身売買とか、へらへら笑って他人を襲って略奪を考える倫理観が終わってる連中がそれに該当するわ。 まぁ、私も大概である自覚はあるけど、積極的にやらかそうと思ってないだけマシのはず。
もう一つは身の程知らずのカス。 ダンジョンを攻略できると本気で夢見ているアホな連中よ。
ステータスっていう分かり易い判断材料があるにも関わらず頑張れば行けるとか、気合でどうにかなるとか精神論をブンブン振り回して周りを巻き込んで行く自殺志願者。
この手の連中の性質の悪さは死ぬなら一人で行けばいいのに他人を乗せて道連れにする事だ。
しかも当人は本気で出来ると信じているのか善意でやってます感を出して憚らない。
私に言わせるなら実益を兼ねて配信の為に潜っているストリーマーの方がまだ理解できた。
そんなしょうもない連中に蓑鋤が食い物にされるかもしれないという事を考えると頭がおかしくなりそうになる。 少なくともそんな奴が現れれば私はどんな手を使ってでも八つ裂きにするだろう。
……あぁ、だから魔法使いを選んだのか。
鑑定でのサポートではなく、攻撃手段の確立を選んだ理由にようやく腑に落ちた。
何故なら蓑鋤を守れるのは自分だけなのだから。
――助ける必要はない。 必要以上に目立つな。
婀唯の主張は至極真っ当だ。 その点に関して蓑鋤にも異論はなかった。
倫理観を試される場面、法という制約が取り払われた世界では人は何処までも利己的になれる。
人間を信じていないという点に於いては蓑鋤と婀唯の思考は一致していた。
ただ、こんな世界だからこそ、味方は貴重なのだ。
ピンキリこそあるが、レベルの増加によって誰しも等しく強くなれるこの世界。
正しく仲間を見つけ、しっかりと鍛え、信頼関係を構築できたのならそれは得難い財産だ。
本音を言うなら今の状況をずっと続けていくのも悪くはないと思っていた。
防御変換のお陰で延命の目途は立ったが、絶対ではない。
未だに蓑鋤の寿命はこの異形度というステータスによって常に脅かされている。
減らす為に他のステータスを犠牲にしている上、肝心の異形度が下がる確率は低い。
そんな現状では楽観は非常に危険だった。 あくまで延命であって問題が解決している訳ではないのだ。
だから、婀唯には自分以外の味方が絶対に必要だった。
蓑鋤が居なくなった後でも彼女に寄り添える味方が。
だからあんな目立つ真似もした。 あまり良い手ではないが、何かしらの接点を作らなければ話にならない。 最初は自分を通してでもいい。
少しずつ、彼女が自分以外の人間に頼り頼られる状況を作っていくのだ。
別に彼女の事を重荷に感じている訳でも迷惑に思っている訳でもない。
好きか嫌いかなら間違いなく好きであり、こんな自分にいつまでも構ってくれるのだ。
そんな奴は後にも先にも彼女だけだろう。
蓑鋤は婀唯に感謝しており、そんな彼女の為にできる数少ない事がこれなのだ。
彼女の思惑からは外れるが、やる価値は充分にある。
疑問を浮かべた彼女の視線を感じながらも蓑鋤は家路を急いだ。
――ほらぁ! だから止めろって言ったのにぃ!
そんな事を言いかけたがぐっと堪えて私は目の前の現実と向き合った。
あれから数日後、場所は家からそこそこ近い位置にある喫茶店。
隣には蓑鋤、そして向かいには見慣れない男女。
正確には初対面ではなく、先日の万博記念公園の騒ぎの時に居合わせた人達みたい。
テーブルの上には出されたお冷と一緒に名刺が二枚。
片方は会社名と営業課という部署名に名前――三上 洋一郎と記されている。 パリッとしたスーツと眼鏡が似合うセールスマンといった様子の男だ。
もう片方は急ぎで作ったのか会社名は同じだけど部署などは書かれておらず名前だけが記されている。
前川 明世。 パッと見、私や蓑鋤と歳は変わらなさそう。
視線が合うとはははと愛想笑い。
「先日は助けて頂いてありがとうございました。 お二人が居なければ多数の犠牲者が出ていたでしょう。 あなた方は命の恩人です」
最初に口を開いたのは三上だ。 彼は小さく頭を下げる。
それに引っ張られるように前川も慌てて頭を下げた。 蓑鋤は頷くだけ。
これ、暗に私に対応を投げてる感じ!? ちょっとダーリン、酷くない!?
「いえ、皆さんが無事で良かったです」
取りあえず当たり障りのない事を言って頭を上げるように促す。
こいつ等が単にお礼を言う為だけにここまでくる訳がないのだ。
絶対に面倒事だろうなと思いながらどうした物かと内心で頭を抱えた。




