9.告白
高校時代に仲の良かった2人とのグループトークに届いた、いつ帰国するの? というメッセージ。そういえば帰国した、って伝えてなかったことに気がついた。今更ながら帰ってきていると連絡したら批判の嵐だったよ……
仕事を終えて、2人に会うために家とは反対方向へ歩き出す。
「やっと来た!」
「久しぶりー。何飲む?」
お店に着けば、2人は既に飲み始めていて、メニューを渡してくれた。
「ごめんね、遅れた。さっき頼んだから大丈夫。ありがとう」
「お、ちょうど来たね。じゃあ、旭お帰り! かんぱーい」
「ただいまー」
仕事終わりのビールってなんでこんなに美味しいのかな。前はこんなに苦いの絶対飲めない! って思ってたのに。
「いつ帰ってきたの?」
「3ヶ月くらい前かな」
「そんなに前!?」
「薄情者ー」
「ごめんって」
なんだかんだ帰ってきてから忙しかったし、唯華ちゃんと一緒に住めることで浮かれてたりですっかり忘れていた。
「旭は今フリーって言うけどさ、海外で恋人できたりしなかったの?」
お互いの近況話の中で、盛り上がるのはやっぱり恋愛話な訳で……聞かれると思ってた。
「出来た。あんまり続かなかったけど。……あのさ、今ね、唯華ちゃんと一緒に住んでる」
「え?? 唯華先輩!?」
「高校の時に付き合ってた、あの??」
「うん」
「唯華先輩結婚したって聞いたけど」
「私も聞いた。どういうこと??」
唯華ちゃんと別れた時の私を知っているから、2人から心配そうな視線が向けられてなんだか申し訳ないな……
「うっわぁ、何そのドラマみたいな展開……」
「元カノがお兄さんの結婚相手で、2年前に離婚して唯華さんと子供たちはそのまま旭の実家に住んでて? 海外から毎週ビデオ通話して? 帰国して好きって伝えて、週末は一緒に過ごしてたけど、自分のやりたいことを優先してって距離を置かれた……?」
「うん」
再会から一通り話せば、確かにドラマにでもありそうな展開だなって自分でも思う。
強引に行くべきか、少し距離を置くべきか悩んでいたから、昔のことを知っている2人に相談ができる今日のこの場は有難い。
「帰国してから告白したんでしょ? 唯華さんの返事は?」
「返事はしないでくださいって言った」
「は?」
「だって、絶対断られる雰囲気だったし、傍にいられるだけで充分だから」
「このヘタレ……」
この先一緒に暮らすのに、気まずいじゃん。それに、考えられない、なんて言われたら立ち直れない……
「週末の買い物とか、2階に入れてもらったりとか子供たちのお世話とか? 受け入れてもらえてたんでしょ?」
「うん」
「自分を優先して、って言われて引き下がったの?」
「いや、私がやりたいことって伝えたよ。でも、反応が思わしくなかったと言うか……」
「そりゃさ、唯華さんの立場じゃそうなるよ。旭を好きだったとしても、唯華さんからは言えないよ。旭は他の人を選んだ方が、って思ってるんじゃない?」
「私は唯華ちゃんがいい」
「それは本人に言え」
「……はい」
「あはは、美春、きびしー」
美春が怖い……そして菜子、笑ってないで助けて?
「本気なら、もう1回気持ち伝えて、唯華さんから返事貰いな?」
「……うん」
「唯華さん、昔と変わらず綺麗なんでしょ?」
「それはもう」
「離婚して2年でしょ? 子供がいても、って考える人がもう居てもおかしくないよ?」
美春の言葉にハッとした。唯華ちゃんがまた手の届かないところに行っちゃう? そんなの考えたくもない。もうあんな辛い思いはしたくない。
「唯華さんもう寝ちゃってるかな? 寝るの早い?」
「寝かしつけで一緒に寝ちゃってなければ多分まだ起きてると思う」
「よし、会計しよ」
「え?」
「え? じゃないし。早く帰って当たって砕けてこい」
「美春、砕けたらダメだと思う……旭固まってるじゃん」
「ちゃんと唯華さんの気持ち聞かないと先に進めないじゃん。聞いた感じだと1回は断られるだろうし、砕けた後どうなるかは旭次第でしょ。断られたら諦められるの?」
「無理」
「よし、頑張ってきな!」
「ん。美春も菜子もありがとう」
「うん」
「私は何もしてないけどねー」
諦めるなんて無理だし、諦めたくない。私の気持ちが本物だってちゃんと分かってもらえるまで伝えよう。
2人に背中を押されて意気込んで帰ってきたものの、いざ家に着けば、お酒を飲んだあとの状態で告白とかダメだよな、と冷静になる。
……唯華ちゃん寝てるかもしれないしね。よし、明日にしよう。そうしよう。
お風呂に入ってこようかな、と思っていたらスマホが振動して、見れば菜子からの着信。
「……もしもし?」
『家ついた?』
「うん。着いた」
『唯華さん起きてるって?』
「……聞いてない。お酒飲んで告白とか、ダメじゃない?」
『聞いてないってさ。え? 理由? お酒飲んでるから今日は告白しないって……あー、うん。美春が、そんなに飲んでないんだから早く連絡しろ、だって。あ、ちょっと……『旭? またうじうじ悩んでんの? また同じこと繰り返すの? 辛そうに笑う旭なんて、もう見たくないんだけど』』
「ごめん」
絶対美春がスマホを奪ったな。心配してくれてるってのは分かってる。唯華ちゃんと別れた後は後悔の日々で、情けない姿を見せたし、かなり心配させちゃったから。
『せっかくまた会えたんだからさ、頑張んなよ。じゃーね! 『……最初から美春がかければ良かったじゃん!! 旭、頑張れ! またね!』』
「はは、ありがと。よし、連絡するか……」
通話が終了した画面を切り替えて、唯華ちゃんの名前を表示する。よし。頑張ろ。
【唯華ちゃん、起きてる?】
【起きてる】
【行ってもいい?】
既読にはなったけれど、しばらく待っても返事が返って来ない。もう突撃するか、と思い始めた頃、唯華ちゃんからの着信。
「もしもし、唯華ちゃん?」
『うん。何かあった?』
「話があって……」
『電話じゃダメ?』
「直接がいい」
先週はあんな感じで気まずくなっちゃったから一緒に過ごせてないし、明日は一緒に過ごしたい。
『……分かった』
「これから行ってもいい?」
『うん』
「すぐ行く」
電話を切って、階段を登りながらどう伝えようか考えたけど、全然時間が足りなかった。
「唯華ちゃん、遅くにごめんね」
「旭、飲んできた?」
「あ、うん。ごめん、お酒臭い?」
「ううん。顔が赤いから」
「あー、すぐ顔に出るんだよね」
そんなに強い訳でもないし。
「で、話って?」
「私ね、唯華ちゃんが好き」
「え……」
「あ、違う。いや、違くないんだけど。先週さ、自分のやりたいことやって、って言ってくれたじゃん? やっぱり、唯華ちゃんと梨華と悠真と過ごしたくて。もちろん、唯華ちゃんだって予定があるだろうし、都合が合う時だけでいいんだけど。私は唯華ちゃんが好きだし、出来れば付き合って欲しいと思ってるし、梨華と悠真の事も大事に思ってる。私じゃダメかな?」
「旭……」
「前は返事はしないでって逃げちゃったけど、今回は返事が欲しい。唯華ちゃん、好きです。私と付き合って下さい」
全然纏まってない告白になっちゃったけど、少しは伝わったかな? 目の前の唯華ちゃんは何を思ってるんだろう?
「旭の気持ちは嬉しい。……凄く嬉しい。でも、ごめん」
やっぱりね。でも、ここから、だもんね。
「うん。そう言われるんじゃないかな、とは思ってた。自惚れかもしれないけど、嫌われては無いと思ってる。私じゃダメな理由を教えて?」
「……」
ソファから降りて、俯いてしまった唯華ちゃんの正面に座って覗き込めば、困ったように目が伏せられた。
「唯華ちゃん、私の事好きか嫌いならどっち?」
「……好き」
嫌われてはないと思ってたけど、正直ホッとした。好き、って聞けただけでこんなにも嬉しい。
「私も好き。それじゃだめ?」
「旭にはこれからいい出会いがあると思う。旭の事を振るような私じゃなくて、ね」
「私は唯華ちゃんがいい。確かに振られたけど、そうさせたのは私がろくに気持ちも伝えられない子供だったからだし。唯華ちゃんは気持ちを伝えてくれてたのにね。あの頃の私とは違うし、付き合ってもらえたら今度こそちゃんと気持ちを伝えていくし、大切にする。他には?」
一つ一つ、付き合えない、っていう理由を潰していこう。
「梨華と悠真が居るし」
「うん。懐いてくれて可愛い。天使。唯華ちゃんと付き合えたら梨華と悠真も一緒ってことでしょ。こんなに幸せなことなんてないよ」
「梨華と悠真を優先しちゃうよ?」
「うん。それはもちろんそうして?」
え? 何が問題? 梨華と悠真が優先なのは当たり前じゃん??
「……絶対、旭の負担になる」
「負担? 例えば?」
「先週までだって頼りっきりだったのに……それに、来年には悠真も幼稚園だし、私も復職予定だから、急なお迎えとか頼っちゃうかもしれないし」
「そんなのむしろ頼られたいけど。幼稚園のお迎え任せてもらえるとかなんか特別感。2人のこと迎えに行くって事は先生とも顔合わせしないとね。頼りないかもしれないけど、もう1人で頑張らなくていいよ。他には?」
付き合う、と言ってもらってないのに気が早い私の言葉に、唯華ちゃんは泣きそうな顔で笑った。
「あとは、お義母さんと、お義父さんに申し訳なくて……」
「あー、お父さんはどうか知らないけど、お母さんは多分、昔何かあったなって気づいてると思う」
「え!?」
顔合わせの日から、よそよそしすぎる私の態度を不思議がっていて、距離が縮まり出してから、実は高校の時の知り合いだと伝えていた。
それだけで何かを察したらしく、深く追求されることは無かったけど、"旭は分かりやすいから"だって。
「唯華ちゃんと別れてからも、唯華ちゃん以上に大切に思える人には出会えなくて。唯華ちゃんと再会する前から、この先結婚はしないと思うけどごめんね、って言ってあるんだ。2人とも、好きにしなさい、ってさ」
「そうなんだ……私で、後悔しない?」
「後悔なんて、唯華ちゃんを引き止めなかった時からずっとしてる。今度こそ、手放さないから私を選んで? 私を信じてほしい」
「……うん」
隣に座って返事を待てば、しっかり目を見て、頷いてくれた。
「唯華ちゃん……!!」
「きゃ!?」
「好きだよ。大好き。本当に、すき……今度こそ、大切にするから」
「旭、ありがとう。私も好き」
気持ちが溢れて涙が零れそうで、唯華ちゃんに顔を見られないようにしっかり抱き寄せて伝えれば、そんな言葉と共に擦り寄ってきてくれてもう胸がいっぱい。
柔らかいし、いい匂いがするし、ちょっとこのままだと色々やばいから離れないとなんだけど、離したくない。あー、この後どうしよ……




