休日(後編)
唯華視点
「「うわぁ~!!」」
水族館に到着して、目の前に広がる水槽に釘付けの子供たちと、そんな2人を優しい表情で見守る旭。
写真を撮ろうとスマホを向ければ、気づいた旭が2人に声をかけて、3人揃って満面の笑みを浮かべた。そっくりな笑顔を向けてくる3人が愛しい。
これは? と魚の名前を聞いてくる2人に答えながら、順路に沿って歩く。さっきの魚をもう一度見たい、と戻ってみたり、先の水槽に興味をひかれて走り出したり、あっちこっち行き来をする2人が可愛くて旭と顔を見合わせて笑った。
「悠真、カレー残す? あーちゃんが食べちゃってもいい?」
「いい!」
「じゃあ貰っちゃうね。うん、美味しいね」
「あーちゃん、りかのもたべる?」
「もうお腹いっぱいなら貰うよ」
「んー、もうちょっとたべれる!」
「残ったら貰うね」
ある程度見て回って、子供たちが疲れてきたから休憩も兼ねて昼食。
自分の分は少なめに頼んだ旭が悠真の残したカレーを食べてくれていて、梨華の分も余ったら食べてくれるつもりみたい。
「旭、私ももう少し食べられるから」
「お、ありがと」
ありがとう、は私の台詞なんだけどな。
2人を可愛がってくれて、今日だって色々調べてくれて。いつだって私達を優先してくれる。
「旭、ありがとう」
「ん?」
「連れてきてくれて」
「あーちゃん、ありがと!」
「ありがと!」
「えぇ、かわいいいい! 好き!!」
「「きゃー!」」
私と子供たちからのお礼に分かりやすくテンションが上がった旭が2人を抱きしめて、きゃあきゃあ盛り上がっていて可愛いが渋滞している。
「唯華ちゃんも来る?」
「いや、大丈夫」
「「「えー!」」」
もう充分目立ってるのに、私まで混ざれないでしょ。
「よし、あーちゃんは食器片付けてくるね。唯華ちゃんはお家でゆっくりね」
「っ!?」
耳元で囁かれた言葉に驚いて旭を見ればそれはもういい笑顔だった。
「お待たせ。お待ちかねのイルカショー行こうか」
「いるか!! かんばんあったよ! あっち?」
「ゆーもいく!」
「唯華ちゃん、ごめん先いく」
「え、ちょっと待って、早っ」
戻ってきた旭に声を掛けられて、あっという間に立ち上がって駆け出した2人。そして、そんな2人を追いかける旭。
1番楽しみにしていたから、早く行きたくて仕方がないらしい。
「いるかのぬいぐるみにする!!」
「ゆーも!!」
イルカショーをキラキラした目で楽しんでいた2人は悩むことなくイルカのぬいぐるみを買うことに決めて、白と水色のぬいぐるみを抱きしめている。
「可愛い~!! 買いに行こうか」
「えっ、私が買うから」
「いいのいいの。たまにはね」
たまには、なんて言ってるけどそんなことないと思うんだけどなぁ……ママには内緒ね、ってお菓子とか買ってあげてるの知ってるんだよ? 買ってもらった!! って嬉しそうに全部報告してくる子達がいるからね?
ぬいぐるみを抱きしめた2人の写真を沢山撮って、通りがかったスタッフさんに4人での写真も撮ってもらった。これは後で飾ろう。
「うわ、この先で事故だって」
「ほんとだ」
水族館からの帰り道、事故渋滞が発生していてナビの表示は真っ赤。子供たちは旭に買ってもらったぬいぐるみを抱きしめて夢の中。可愛い。
「これしばらく動かなそうだし、唯華ちゃん寝てていいよ? あんまり寝かせてあげられなかったし」
「っ、旭も同じじゃん」
「まぁ、そうなんだけど。でも負担的には唯華ちゃんの方が、ねぇ? いっぱいイッて……いたっ、いたいって。ごめんなさい!」
思い出しているのか、ニヤニヤしている旭の頬を引っ張れば降参、とばかりに片手をあげた。
「えっと、まだ怒ってる……?」
「ううん。綺麗な顔だなぁって」
「えっ、そう? 唯華ちゃんの方が綺麗だけどなぁ」
私なんて全然、なんて言うけど、初めて見た瞬間、綺麗な顔の子がいるなって目を引いたんだよ。
上級生にも綺麗な顔の子、って有名だったことなんて知らないんだろうね。生徒会長だった私の事も知らなかったし、周りに興味無さそうだったから。
「旭、夜ご飯に食べたいものある?」
「確か帰り道に2人が好きなお店あったからそこにする? 2人とも寝ちゃってるし、テイクアウトしようよ。もし起きたら食べて帰ろ?」
自然と、2人優先で考えてくれる旭はどこまでも優しい。
「好き」
「……私の方が好きですけど?」
「なんでそこで対抗するのよ」
「いや、不意打ちは照れる」
「ふふ、かわい」
「可愛いのは唯華ちゃん」
やっぱり対抗してくる旭は本当に可愛い。
「「ただいま~!! ばぁばー、じいじー!!」」
途中で起きた2人は、家に到着するなり、お義母さんとお義父さんにお土産を渡す、と元気いっぱいに走っていった。
「じいじおみやげ! みて! いるかかってもらったの!」
「お帰り。おぉ、可愛いなぁ。じいじにも買ってきてくれたのか、悠真ありがとう」
「うん!! ゆーがえらんだ!」
「ばぁばにはね、りかがえらんだの!」
「ありがとう。楽しかった?」
「「たのしかった!!」」
あれがこれが、と話す2人はしばらく戻ってこないだろうから、先にお風呂の用意をしようと、声をかけて2階に上がる。
「唯華ちゃん、2人ともお母さんとお風呂入るってさ。着替え持っていくね」
「あ、そうなの? 分かった」
荷物を片付けて、お風呂の用意をしようとすれば旭が2人は下でお風呂に入ると伝えに来てくれた。
「唯華ちゃん、一緒に入る?」
「……っ、入りません」
「えー、ダメかぁ」
「下にみんないるんだから」
「だよね。じゃあ夜ね。お風呂出たら連れてくるから、お湯ためてゆっくり入ってきていいからね」
着替えを持って、ごゆっくり~と機嫌良さそうに階段を降りていった旭を見送って、今日も寝るのが遅くなりそうだなぁ、と思ったけど嫌じゃなかった。
「唯華ちゃん、今日は2人とも下で寝たいって言ってるけどいい?」
「え、寝るのも下? 迷惑じゃない?」
「全然。お父さんが1番嬉しそうにしてたから気にしなくて平気」
「そっか。じゃあお願いしようかな」
おやすみを言いに行けば、楽しそうに遊んでいたからお任せして2階に戻ってきた。
「唯華ちゃん、せっかくだし映画でも見る?」
「見よう~!」
「お酒も少し飲んじゃう?」
「飲む!」
「作ってくるから、選んでて?」
思いがけずのんびりできる時間が出来て、ソファに座って映画を選ぶ。
公開されたばかりの新作から見たいものを見つけて旭を待っていれば、グラスを2つ持った旭が隣に座った。
目が合えば、優しく笑って肩を抱き寄せてくるからキュンとした。
「決まった?」
「これか、これならどっちがいい?」
「これって泣けるって話題になったやつだよね? 絶対目腫れちゃうから違う方で。これは1人で見る」
「えー、一緒に見ようよ」
「まぁ、そのうちね……」
泣いてる旭も見たいところだけど私も同じことになるだろうから、これはまた今度にしよう。こうして一緒に映画を見る時間はこれからも沢山あるから。
お読みいただきありがとうございました!




