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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第8話 フラグを立てたのはモブでした

 帰宅後、俺は絶望していた。

 

 梓乃李のいじめは防いだ。

 彼女も元気になった。

 当分飛び降りなんてしないだろう。


 だがしかし、一番懸念すべき点にヒビが入るミスを犯した。

 それすなわち――暁斗とのカップリングである。


「どうしようどうしよう。俺が助けたってバレてしまった。これじゃ原作みたいに順当に暁斗が梓乃李ルートに入るまでを導けない。どうしようどうしよう」


 おろおろ部屋を歩き回る俺。

 第一の『梓乃李ルートに導いてやろう作戦』は失敗したのだ。

 

 いやわかってる。

 冷静に考えればもっと隠密に作戦を実行すべきだった。

 突入後の録画を切り忘れていたミスや、それを帰りに見ながら歩いていた事。

 梓乃李が万一にも学校に残っている事を考慮して、別ルートから下校する方法もあった。

 それをしなかった俺のミスなんだ。


 録画のミスに関しては、仮に俺の不利にならないように編集しても、ネットでバズったら警察が動く可能性もある。

 すると必然的に元のデータを調べられるわけだ。

 都合良く改ざんした事がバレたら、新たな罪に俺が問われる可能性も出てくる。

 流石にそれは自爆が過ぎるだろう。

 草も生えない。

 そうでなくても、編集した動画なんて真実性に欠ける情報は証拠として弱いし。

 

 というか、正直俺も最初から晒す気なんかなかったし、アレはブラフでしかなかった。

 だが証拠の取り方をミスった以上、万が一の切り札にすらならなくなったのは渋い。

 もしあの場で亜実達が交渉に応じなかったら危なかった。

 俺の注意不足である。

 

 梓乃李の方もそうだ。

 まさかあんな時間まで梓乃李が一人で探しているとは思わなかった……なんて言い訳も、自身の間抜けさを露呈するだけである。

 言うまい。


 机の上に放置したままの筆箱を、俺はため息を吐きながら眺める。

 結局梓乃李には返せず仕舞いだった。

 俺が持っているとバレている以上、わざわざ暁斗を介して返させるのも意味不明過ぎる。

 

 と、そこで俺はスマホを見る。

 そこには先程までの梓乃李とのやり取りがあった。



―――


『豊野君って家では何してるの?』

『アニメ鑑賞とかゲームとか、本読んだりしてる』

『あ、ほんとにオタクなんだ』

『どういう意味だ』

『昔からオタクって噂されてたから』

『そういう梓乃李は何してるんだよ』

『内緒』

『ふーん』

『あ、興味無くすの禁止! 深掘りしてよ』

『んな無茶な』

『えー、じゃあオススメのアニメ教えてよ』

『今日も女子に絡まれてウザいので寝逃げします』

『え、ひど』

『いや、タイトルです』

『え、キモ』

『寝るわ』

『それはどっち?』

『ガチ寝』

『急過ぎじゃない? おやすみ』

『おやすみ』

『また明日ね』


―――



 ……。

 おわかりいただけるだろうか?

 

「絶対好感度調整ミスったよな、俺」


 明らかにおかしい。

 確かに最近は仲良くなってはいたが、ここまでじゃれる関係性でもなかったはずだ。

 なんだよ『おやすみ』って。

 付き合いたてのカップルか。


 ――って、だからそのツッコミは洒落にならないからやめろ!


 心の中で自分に文句を言い、息を切らした。

 

 どうやら、今日の件でかなり梓乃李との距離が縮まってしまったらしい。

 これは由々しき問題だ。

 原作シナリオだと、梓乃李が破滅を回避するには暁斗と付き合ってヤりまくり青春ライフを送る他ない。

 俺というモブに構われては困るのだ。

 

 実際、既に原作からは完全に逸れてしまっている。

 ここから修正したとて、原作通りのハッピーエンドが待っているかはわからない。

 それでも、俺としてはできるだけ原作に沿った未来に仕向けたいわけで。


 好き放題動き回ったのも、シナリオ進行に影響がないと判断した部分だけだ。

 俺は別に好きで引っかき回しているわけではない。


「そうなると、問題はここからだな」


 実は『さくちる』は、たった一人のヒロインのフラグを立てただけでは、誰の個別ルートにも入れないようにできている。

 共通ルートで四人全員の個別ルートフラグを立て終わった後に、プレイヤーがその内の一人を選んでからようやく個別ルートに入れる。

 要するに、まだ序の口なのだ。

 暁斗を梓乃李ルートに入れるにしても、別ヒロインの問題は解決してもらわなければ困るのである。


「次は七ヶ条雪海のイベントか……」


 丁度今朝の表彰式で見たあの女だ。

 ボンボンの高飛車お嬢様ヒロイン。

 原作通りの順番でイベントが起こるなら、確かゴールデンウィーク明け辺りで何らかの接触を起こすはず。

 暁斗には今度こそ、主人公として自覚を持った行動をしてもらおう。

 ……本人にとっては知ったこっちゃないだろうがな。


 残りの二人に関しては、まだ特に接点はない。

 一人は別クラスだから顔すら見てないし、もう一人も俺個人とは関わりはない。

 もっとも後者は暁斗の幼馴染だから、顔自体は頻繁に見かけるがな。

 今度こそ極力、シナリオには関わらないようにしよう。

 いやほんとに。


 俺は例のノートに今日の出来事について記しておく。

 『イベント遂行失敗!』と大きく書いてため息を吐いた。


 最近、ため息ばかり吐いている気がする。

 幸せが逃げ過ぎて、もはや何も残ってなさそうだ。

 その果ての結果が飛び降りの巻き込み死亡エンドだと思うと、なんだか繋がっているような気がして失笑が漏れた。


「また明日、か」


 少なくとも梓乃李が明日も元気に学校に来てくれるというだけで、今日のところは満足しておこう。

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