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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第23話 フラグ立ては一筋縄ではいかない

 七ヶ条雪海は、悲しみを背負った財閥令嬢だった。


 良家に生まれたせいで、日常から全てに至るまで、常人とは全く異なる生活を強いられてきた人生。

 幼少期は礼儀作法に教養としてバイオリンや茶道、乗馬など様々な習い事をさせられてきたが、その全てにおいて()()()満足いく成果は収められなかった。

 しかし、それでも評価されてきた。

 お嬢様が故に、評価されてしまったのである。

 家の人間には発表会の度に結果関係なく誉めそやされたし、外の人間からはもっと露骨に媚びを売られる生活。

 彼女はそんな生活に嫌気が差し、財閥子女が集まる私立中学の中で、一大決心をする。


 ――高校は、色んな層の人間が通う普通の場所を選ぼう。


 自分を”七ヶ条の人間”ではなく、ただの雪海として見てもらえる場に身を置きたかった。

 人並みに青春を過ごしてみたかっというのもある。

 だがそれ以上に、家名の呪いから逃れたかったのだ。


 と、そんな夢を抱いて一般私立学園に足を踏み入れた雪海。

 そこで彼女が見たのは、さらなる地獄だった。


 夢も希望もなく、ただ無為に日々を過ごす生徒。

 授業中は問いに頭を捻るでもなく、寝るまたはスマホゲームに夢中になる始末。

 運動に芸術、勉強……全ての分野において、程度の低さを思い知った。

 と同時に思い知った。

 自分が実は、挫折したバイオリン等の習い事においても、一般的には優秀と評価されるレベルだったことを。

 そしてさらに……失望した。

 自分が求めた”普通”がこれほどまでに低俗だったのかと理解してしまったのだ。


 そこからの雪海は、認識を改めた。

 一般庶民が如何に浅薄で愚かな存在かを知り、態度を変える。

 

 と、これが問題だった。


 他人を見下すようになった雪海に、当然周りの生徒は反感を抱くわけで。

 それが最大の事故を呼ぶ羽目になる。


 ――七ヶ条雪海は高校二年の秋に、集団暴行されたのだ。


 反感を買った学内外の男子数人グループに、ある日の放課後襲われた。

 庶民の生活に同化していた雪海は当然徒歩下校。

 そこを狙い、男子達は暴行に及んだのである。


 事件は幸い、雪海の常人離れした体術と判断力によって最悪の結果には至らなかった。

 数発顔や体を殴られ、下着姿にされて写真を撮られるも、性交に至る前になんとか反撃を成功させた雪海。

 集団を無効化した後は即座に家に連絡した。

 そのまま、七ヶ条の息のかかった者によって犯行グループは拘束され、事件も同時に終了。

 結局七ヶ条家によって内々に処理され、内容も完全に闇に葬られたため、知る者はこの世に数人しかいない……。


 しかし、雪海はこの事件の後始末に満足していなかった。

 何故なら――犯人たちが、まだこの世で息をしているから。

 彼女の性格的に、ここで踏み止まるわけがなかった。


 さて、ここからが『さくちる』の原作シナリオである。


 5月7日水曜日。

 七ヶ条雪海は須賀暁斗と遭遇する。

 校内を歩いていると、やけに見つめてくる男子生徒――須賀暁斗を見つけるというイベントだ。

 不躾に見られて不快に思うと同時に、珍しく好意的なその視線に少し興味を持つ雪海。

 彼女はそこで暁斗に近づき、口を開く。


『人の事をジロジロ眺めてどうしたんですか?』

『え、や、あの……綺麗だなって』


 馬鹿正直に褒める暁斗に雪海は気分を良くした。

 だからそのまま、彼女に似合わない冗談を口走る。


『そんなに眺めたいのなら構いません。……でも、じゃあその代わりに跪いて足でも舐めなさい』

『えっ』

 

 既に一般生徒を見下していた雪海にとって、純粋そうな暁斗はカモだった。

 がしかし、ここで終わらないのが主人公だ。

 腐ってもエロゲ主人公なわけで、暁斗は大胆な行動に出る。


 流石の暁斗も若干苛立ち、意趣返しをしようと企んだ。

 そこで暁斗は……言われた通り、跪いて雪海の足に触れる。


『僕なんかが、良いんですか? じゃあ遠慮なく……』

『じょ、冗談よ! ちょっと貴方、待って――』

『おいお前ら! 廊下で何してる!!』


 暁斗が雪海の足に口を付けようとした刹那。

 丁度そこを通りがかった先生に見つかって二人で叱られる。


 ――という、かなり癖のある出会いイベントだ。


 内容の謎のニッチさはエロゲシナリオだからという事で一旦さて置き。

 とにもかくにもこれをきっかけに、二人は互いを意識し合うきっかけとなる。


 と、長い説明はここまでにしよう。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 久々に大きなため息を吐く。


 こんにちは。

 世界の救世主、豊野響太です。


 今日は5月7日、雪海と暁斗の遭遇イベントの日である。


 雪海イベントの第一歩となる重要な日だ。

 この後原作では、雪海が暁斗に興味を持ち、彼女が薄っすら企んでいる犯人集団への復讐に彼を利用するという流れになる。

 捨て駒が欲しい雪海にとって、自分に好意を向けてくる暁斗は都合の良いピースというわけだ。


 ……わけなのだが。


「も、もう帰ってるんですけど……」


 掃除が終わった後、教室の中で俺は項垂れていた。

 もたれかかるようにして脱力するが、俺が掴んでいるのはとある男の席だ。

 その男の名は、須賀暁斗。

 何を隠そう原作主人公君である。

 彼は――雪海と遭遇しないまま、今日という日を終えたのだった。


 いや、何となく予感はしてたさ?

 ここまで再三の俺のフォローも虚しく、フラグを折りまくって来たアイツだ。

 雪海とのイベントがスムーズに進むとは、思ってなかったさ?

 でもさ?

 流石に遭遇イベントを飛ばすとか、誰が想像できるって言うんだよ……。


「ぜ、絶望しかない」


 掃除のときに雪海と話し、暁斗が雪海と接触していない事は把握していた。

 だから掃除の終了と同時に即行で教室に戻り、アイツに美術室へ向かわせようとしたんだ。

 だけど……。


『須賀君? 彼なら右治谷君と羽崎さんと一緒に帰ったよ?』


 だ、そうだ。

 クラスの女子から聞いた時、腰が抜けた。

 そしてそのまま今に至る。


 俺とて、今朝から何度もチャンスは作ろうとした。

 無駄に三年の階の廊下を歩くように勧めてみたり、雑談しながらさりげなく美術室方面に誘導したり。

 でも効果はなかった。

 向こうから避けているんじゃないか?と錯覚するくらい、エンカウントしなかったのだ。


 全く、どうでも良い時は現れる癖に。

 使えないお嬢様ヒロインである。


 なんにせよ、だ。

 またシナリオに齟齬が生じた。

 これは今回も俺が派手に動くしかなさそうである。





 帰宅しようと歩いていると、階段で噂の美少女と遭遇した。


「あら、数分ぶり」

「あ、あぁ。七ヶ条先輩……」


 俺が会ってどうするんだ、と内心ぼやきつつ、彼女に笑みを返す。

 そこには学内でも一際目立つ美貌があった。

 透き通るような銀髪、制服の上からでもわかる圧倒的なスタイル、そして滲み出る気品やオーラ。

 宣言通り、雪海は普通に話しかけてくるようになっていた。


 と、一応確認しておく。


「先輩、今日気になる後輩と出会いませんでした?」

「先程も聞かれましたが、会っていないです」

「だ、誰かに足を舐めさせたりとかは?」

「……え、きしょ」


 普段丁寧語のお嬢様から素の嫌悪をぶつけられるのは、なんだか気分が良いな。

 精神が疲弊しているため、今の俺は少々性癖が歪んでいるらしい。


 思いっきり顔を顰めている雪海に、俺はため息を吐く。


 どうやら本当に最悪の展開になってしまったようだ。

 前回の梓乃李の時は、まだ原作に近い流れではあった。

 最初のデートイベントを飛ばした件も、一応はゲーム内の選択肢である。

 でも今日のは違う。

 関係値が作れなかったとなると、この先起こるはずのシナリオは、一体どうなるんだろうか?

 

 なんて俺が考え込んでいる時だった。

 不意に雪海が歩みを止めるので、俺は首を傾げる。

 すると。


「ところで豊野響太。小耳に挟んだのですが、貴方はつい先日学園内の不良生徒を退学に追いやったのですか?」

「……え?」


 まさか予想もしていなかった問いに、心臓が一瞬止まった。

 周りに人がいない校舎の端で、雪海は淡々と続ける。


「加藤亜美を中心とする集団が、羽崎梓乃李さんを虐めていた件です。貴方が彼女達を追い込み、退学させたのでしょう?」

「な、何の話だか」

「しらを切りたければ構いません。……ですが、貴方の事は調べさせて貰いました。豊野響太――家族構成は父母とあなたの三人で兄弟は無し。成績は良好だが目立った功績もなく、交友関係に関してはかなり狭め。地元から離れて今は一人暮らしであり、住所は――」


 前から気づいてはいた。

 やけに俺の情報に詳しそうだとは、フルネームを呼ばれた時からわかっていたのだ。

 だがしかし、こうして面と向かって知らされると、鳥肌が止まらない。

 不穏な空気に、汗をびっしょりかいた。


 やはり迂闊だったのか。

 完璧に穴は塞いだつもりだったが、何故バレている。

 右治谷たちもそうだが、一部の人間には薄っすら情報が広まっている現状。

 そんな中で雪海が家の力を使ったら、それはもう簡単に調べがつくのだろう。


 そして問題はこの先だ。

 果たして、何が目的なのだろうか。

 俺の個人情報なんかを集めて、雪海に何の得がある?


 震える足を無理やり抑えながら立っていると、雪海はふっと微笑む。

 あまりにも浮世離れしていて、一瞬本気で見惚れそうになった。

 そのまま、彼女はキスするくらいに顔を近づけてきて――。


「本物の犯罪者を消す事には、興味ありませんか?」


 口をあんぐり開ける俺に、雪海は笑う。

 それは普段の表情とは異なる雰囲気で、ぞっとするという表現が似合うようなものだった。

 がしかし、これが皮肉にも物凄く綺麗に見える。


 物語が、動き出す音がした。

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