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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第21話 ついに全ヒロインと遭遇してしまうモブ

 楽しかった遊園地も無事終わり、帰宅する。

 久々に終日炎天下を歩き回ったこともあり、満身創痍だ。

 

 と、ここで一つ俺の自宅に関して話をしておこう。

 

 うちはそれなりにお高いマンションだ。

 別に標高の話をしているわけではなく、お家賃の話。

 セキュリティは安心安全のオートロックで、駅から徒歩3分、間取りは部屋ごとに選べる上に、RC造りの築3年というハイスぺ物件である。

 前に少し触れたが、豊野響太の実家はそれなりに太い。


 というわけで、ここは住民もそれなりに身なりの良い人が多いのだが。


 俺はマンション前で、ジャージ姿の女子がうろうろと歩き回っているのを見つけた。


「え?」


 声を漏らしつつ、凝視する。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 何故こんなところに……?と思いつつ、そーっと近づく。


「あーもう、マジ最悪……。なんでこんな日に限って鍵忘れちゃうのよあたし……。推しのグッズ目当てでコンビニ行ったらこれだわ。肝心のグッズもランダム商法ばっかだしッ! あーもうイラつく! 推しのグッズくらい普通に買わせなさいよ!」


 よく聞くと凄い剣幕で愚痴っている少女。

 彼女が持つビニール袋の中には、コンビニで買ったのであろうオタクグッズと思しき物が溢れていた。

 それに、なんだか親近感を覚える嘆きだ。

 この一瞬で俺はなんとなく、彼女が自分の知っている女である事を確信する。


 と、少女が丁度こちらを振り向いた。

 マスクでは隠せない、モブ女子にしては整い過ぎた眉が訝し気に顰められる。

 目が合ってしまったので、とりあえず無視するわけにもいかない。


白城しらき桜花おうかさん、だよな……?」


 俺が声をかけると、『さくちる』の四ヒロインのうち、最後の一人である美少女は目を見開いた。


「そうですけど。え、誰……ですか?」

「同じ明嶺に通ってる豊野響太。隣のクラスだけど」

「……そう、なんですね」


 名乗ってもなお、誰だコイツって顔をされてる。

 慣れているとは言え、毎回心を抉られるもんだ。

 モブにだって傷つくハートくらいはあるというのに。


 と、俺の嘆きはさて置き。


 白城桜花。

 一見地味めなヒロインで、長い前髪も相まってモブにしか見えない。

 加えて普段からマスクを常時着用しているせいで、顔の中身はわかりづらく、一切美人扱いなんてされていない女だ。

 本人も目立つのは好んでおらず、人付き合いも淡白なので話題にすら上がらない。

 もはやモブに徹していると言っても過言ではないレベル。

 

 と、これすらゲーム内の知識である。

 実際のところは知らない。

 だって本当に目立ってないから、俺のとこまで情報が回ってこないんだもの。


 もっとも、先程の独り言で分かる通り、それは表向きの性格でしかないんだが。


 俺はとりあえず状況を聞く。


「どうしたんだよ。一人でそんな恰好で」

「……鍵忘れてコンビニ行ってて、締め出されてます」

「えっ、ここに住んでるの?」

「はい……そうですけど?」


 まさかの事実に面喰ってしまった。

 どうやら俺、ヒロインとご近所だったらしい。

 背筋が凍るような偶然に冷や汗を流しつつ、笑いかける。


「管理会社に連絡はしたのか?」

「祝日で対応してなかったです」

「……」


 と、事情を聴いてみたが、これがかなり可哀想な状態だった。

 管理会社に問い合わせたら開けてもらえるかもしれないと思ったのだが、それすら叶わず一人で立ち尽くすことしかできなかったと。

 あまりに不憫すぎる。


 と、今度は逆に彼女から質問が飛んできた。


「その格好、どこか出かけてたんですか?」

「あ、あぁ。友達と遊園地に。あ、それこそ白城さんと同じクラスの喜嶋葵子とも一緒だったよ」

「……喜嶋さんと友達なんですね」


 聞かれたから答えると、彼女は意味深にそう呟いた。


「……」

「……」


 互いに無言のまま、時間が過ぎる。


 どうしたものか。

 こうして立ち往生していても無意味だ。

 とりあえず俺の鍵でマンション内には入れるが、結局彼女は自分の部屋の中には入れないし意味がない。

 

「家の人は?」

「パパがいるんですけど、今日は遅くなるらしくて」

「……」


 じっと見つめられる俺氏。

 まるで俺から何か言うのを待っているようだ。

 そして彼女が求める言葉なんて一つしかなくて。


 ――いやいや、俺は言わんぞ。


 ここで『うちに避難しとく?』なんて言えるわけがない。

 桜花も男の家に上がるのはマズいだろうし、そもそも何度も言っているがヒロインとは過剰に接触したくないのだ。


 黙っている俺に痺れを切らしたのか、桜花が距離を詰めてくる。

 

「……夜まで家で待たせてくれませんか?」


 まさか、向こうから提案してくるとは思わずに焦った。


「いや、外で時間潰せばいいんじゃないか?」

「え、でも」

「漫画喫茶なんてどうだ? 時間潰しになら最適だろ?」

「……こんな格好で通りまで出歩きたくないんですけど」

「それはそうだな」


 そう言えばこの子、ジャージ姿だった。

 俺としては知った事じゃないが、泣きそうな顔で見つめられると突き放すのも躊躇われる。


 まぁ仮にも攻略ヒロインなわけだ。

 この締め出しイベントが、実は原作で描かれていないだけで正史だったとしよう。

 俺が匿わない事で、今後のシナリオに何らかの齟齬が生じるかもしれない。

 さらにそこでトラブルに遭われでもしたら、猶更マズい。


「……白城の親が帰ってくるまでだぞ」

「ありがとうございます」


 結局、俺には受け入れる以外の選択肢なんてなかった。





「高校生で一人暮らしとは凄いわねー」

「どうも」


 部屋に上げた瞬間、安心したのか桜花は元気になった。

 先程までの丁寧口調はどこへやら、ため口になっている。


「なんか、ラフだな」


 指摘すると、彼女は堂々とソファに座ったまま頷いた。


「まぁ、よくよく考えたら初手でオタクなのも口悪いのも聞かれてるし、わざわざあんたに取り繕う必要もないかなーって」

「猫かぶる気も失せたと?」

「そ。あ、言い触らしたりしない事ね。その時は無理やり部屋に連れ込まれたって言うから」

「最低だなお前」

「ふふ、冗談に決まってるじゃない。感謝してるんだから。でも多分、あたしの事喋っても学校じゃ誰も興味ないと思うけど」


 ニヤッと笑う桜花。

 確かに彼女は学園では地味系で通っているし、言う通りだ。

 

 さて、何故そんな普通の子がエロゲのヒロインを張っているかという話だが。

 別に猫かぶりっ子属性だからというだけではない。

 桜花には秘密があるのだ。

 実は、裏の顔はイケイケ美少女モデルなのである。


 マスクで隠してはいるが、本来元の顔はかなり整っている桜花。

 学園外ではその容姿を活かしてモデルの仕事をしている。

 かなり人気もあるらしく、さっき確認したらSNSのフォロワーも10万人以上いた。

 普通にインフルエンサーだ。


 しかし、本人はそれをリアルでは一切公開していない。

 敢えて人間関係も希薄に徹底し、人を寄せ付けない事で自身の秘密を守っている。

 極端に目立つことを嫌うのにはまた背景があるのだが、それはまぁいい。

 表と裏で性格や口調が違うのも、そういう所以だ。


「恩を仇で返す事はしない主義なの。そもそもあたし、そこまで鬼じゃないわよ」

「っていうか、良かったのか? いくら鍵がないって言っても、男の家に上がるなんてトラブルになりかねないだろ」

「あんた、あたしを襲う気なの?」

「いやそういうわけではないけど」

「でしょーね。無害顔だもん」

「……」


 暗に陰キャ童貞顔だと言われた気がするが、自意識過剰か。


「何変な顔してるの? 褒めてるのに」

「すまん、褒められてるようには聞こえなかった」

「そう? だってあんた、喜嶋さんの友達なんでしょ? あんま悪い噂聞かない人だし、まぁ安心かなって。あたしも仲良い方だし、最悪何かあったら相談できるから」

「色々考えてたんだな」

「そうよ? 仮にあんたがあたしに触れでもしたら、その時は喜嶋さん経由でサッカー部が敵になると思いなさい」


 この年で大層な脅し文句だ。

 計算高い上に性格も悪いし、扱いにくい。

 どこかの誰かにそっくりな気がする。

 そう、ついこの間、いじめグループを追い詰めた時の俺の手法と似たものを感じた。

 ……そう考えると俺、やっぱり性格悪いな。


 と、感心している場合ではない。

 接点を持つことになったんだから、利用しない手はなかった。


 この白城桜花、去年は須賀暁斗と同じクラスだったはずだ。

 二人はオタク趣味で話が合い、それなりに会話するくらいの関係値は築けているというのが現状。

 原作通りなら、そんなところだ。


「喜嶋葵子と仲が良いって言ってたけど、その幼馴染の暁斗とはどうなんだ?」

「え? 須賀君? ……まぁ、普通かな」


 俺の問いに桜花は淡白な返答をする。


「趣味は合うし、去年はたまにやり取りもしてたけどね。でも別に最近はクラスも変わったし、全く話してないよ」

「そ、そうか」

「そもそもあたし、男って好きじゃないし」

「……」


 現在男の家に転がり込んでいる状況で言う事ではない気がするのだが。

 要するに、それだけ俺が意識されていないというわけだ。

 安心されるのは良いが、こうも舐められているのは男として何か自信を失いそうになる。

 これもモブの宿命だろうか?

 ……いや、多分違う。


 と、萎えていると桜花がぱあっと明るい顔を見せてきた。

 スマホを片手に、いやに元気だ。

 マスクを着けているとは言え、隠しきれない美貌が俺に向けられる。


「あ、パパ、もうそろそろ帰れるんだって」

「よかったな」

「ふふっ、今度何かお礼しなきゃいけないかしら。今日は本当にありがとねっ」

「……ッ。あ、あぁ」


 打算的に見えて、素直に笑ってくるので脳がバグりそうだ。

 これこそが白城桜花の魅力なのだろう。

 感心しつつ、俺達はその後別々に時間を過ごす。


 とは言え気が休まるわけもなく。

 結局俺は、帰宅後も疲労を蓄積させるのだった――。


 ……。


 と、ここで。

 一つ重要な事実がある。

 既に違和感に気付いた人もいるだろうが、普段梓乃李や雪海に対してかなり辛辣な俺が、何故このヒロインに対してだけこんなに優しいのか。

 いつもなら理由を付けて逃げたりするのに、何故ここまで構ってしまうのか。

 その疑問に対する答えは単純明快だ。


 ――実は俺、この子が最推しなのである。


 白城桜花は、前世の俺が『さくちる』内で一番好きだった推しなのだ。


 ……いや、この期に及んでふざけているのはわかってる。

 でも仕方ないじゃないか。

 『さくちる』史上、俺的最強ヒロインに頼られているんだ。

 そりゃ優しくもなってしまうもんだろ……。


 少々複雑な心境の、モブ陰キャであった。




―◇―


【白城桜花】

暁斗への好感度:60%(→)

響太への好感度:80%(↑↑)

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