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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第18話 ちっこい幼馴染は癒し枠

「うおー、やっぱ人多いなー」

「ゴールデンウィークだからね」

「最終日だし、もーちっと空いてると思ったぜ」


 遊園地にて。

 入場ゲートの前から右治谷と暁斗が声を漏らす。

 一応混雑を避けて連休の最終日を狙ったのだが、今日の込み具合も十分侮れないものだった。


 あの後、みんなで話して遊びの行き先は遊園地に決まった。

 そこで全員のスケジュールを確認したところ、奇跡的に最終日が空いていたというわけだ。

 そして今日やって来たのだが、精々超混雑が大混雑レベルになった程度である。

 全然空いてなんてなかった。

 俺達同様に『最終日なら若干空いてそうだよな~』みたいな考えの客が多いのか、とにかく凄い人の数。

 考える事は皆同じという事だ。

 

 それにしても、遊園地なんて前世ぶりである。

 知っての通り友達はいないし、来る機会なんてなかった。

 久々の雰囲気に年甲斐もなくテンションが上がってくる。

 ただこの人の量だと、終日楽しんでもその大半は順番待ちに吸われそうではあるが。


 ぼーっと目の前ではしゃぎ回る男子二人を見ていると、梓乃李が声をかけてきた。


「今日も呆けてるね。寝不足?」

「そういうわけじゃないんだけど、人が多くて圧倒されてる」


 生憎人混みが得意な性分ではないからな。

 雰囲気に脳は興奮しても、人の多さに体は拒絶を示していた。

 さらっといつも呆けてる判定をされたところにどこか引っ掛かりつつ、入場券を買う列にひたすら並ぶ。

 日差しも暑いし、ハードな一日になりそうだ。


 小一時間待ってようやく入場し、全員で今日の予定を立てる。


「まずはジェットコースターだよな!」

「えー、うち的には軽い乗り物からが良いんだけど。朝一で絶叫系とか絶対吐く」


 右治谷と季沙が何やら揉めている中、俺はそれとは別のところに視線を移した。


「葵子は何に乗りたい?」

「わたしもジェットコースターかなぁ。でも、あきくんは得意じゃないよねっ?」

「気にしなくていいよ。今日の機会に克服したいし」

「えへへ、じゃあ隣で手を繋いでてあげよっか?」

「いいよそんなの」


 きゃっきゃうふふと戯れるのは暁斗とその幼馴染――喜嶋葵子である。


 ちんまりした容姿がなんとも愛らしい。

 それもそのはず、ゲーム内ではいわゆるロリ枠に当てはまるヒロインなのである。

 貧乳・低身長・二つ結びの三拍子。

 フワッとした柔らかそうな亜麻色の髪を、今日も緩く二つにまとめていた。

 本人自体がゆるふわ系の性格なため、彼女の周辺だけ妙に甘ったるく見える。

 正直、めちゃくちゃ可愛い。

 笑い声も幼児のようでほっこりする。


 どこかの破滅ヒロインはもう少し見習って欲しいものだ。

 

「おい」

「なーに?」

「足、踏んでるぞ」

「え? 気のせいだよ」

「俺のスニーカーにはお前の靴の跡がしっかり付いているんだぜ。言い逃れられると思ったら大間違いだ」


 絶賛俺の靴を踏みつけていた梓乃李を見ると、彼女はケラケラ笑いながら逃げて行った。

 相変わらず距離感はバグっているが、そこはもう一旦諦めることにした。

 俺が今優先すべきなのは他ヒロインのイベント完遂だから。

 それと暁斗の挙動監視である。

 例えばそう、今目の前で別ヒロインとイチャついているのを止める事とかだな。


 話を戻して喜嶋葵子の印象についてだが、これに関してはゲームで感じたものとほぼ同じだった。

 これまでの二人のヒロインが悪い意味で例外だっただけかもしれないが、若干安心したのも事実である。

 これなら特に難しくなく、彼女のイベントは攻略できるかもしれない。

 

「……って、なんかずっと喜嶋さんの事見てない?」

「気のせいだ」

「嘘。私わかるもん」

「……」


 葵子の観察をしていたところ、梓乃李が険しい目を向けてきた。

 

 ……これは、あれだな。

 元からその気はなかったが、やはり葵子と接触するのは避けた方が良いだろう。

 この場合、その理由は葵子のシナリオ云々というより、梓乃李の視線が怖いからというのが微妙な話だがな。




 

「フラグは立てるもんじゃないな……」


 ぼそっと独り言を漏らしながら、俺はドリンクを買うために並んでいた。

 その隣には、ちょこんと低身長の女子が佇んでいる。


「何か言った?」

「いや独り言」

「そっかぁ。……ふへへ、豊野君とはしっかり話すの初めてだよねっ? よろしくね」

「こちらこそ」


 ニコニコと明るい笑みを向けられては無下にはできない。

 正直あまり仲良くはしたくないのだが、俺は差し出される手を握らざるを得なかった。

 そして思う。


 ――なんかめちゃくちゃ良い匂いするし、手がすべすべもちもちしてる……。


 小動物的な可愛さが疲れ切った心に染みた。

 これは癒される。


 今現在、俺は葵子と二人で飲み物を買いに来ていた。

 というのも、初っ端から挑戦したジェットコースターが問題だった。

 まさかの過半数が絶叫系に弱く、降りた後に吐き気を訴え始めたのだ。

 無事だったのは俺と葵子の二人だけ。

 他の面子は今はベンチで休んでいる。

 仕方なく、俺達が全員分の飲み物を買うしかなかったのだ。


 意図せず二人きりになってしまい、戸惑う俺。

 前にも言ったが、別に女子と過ごすのに慣れてはいない。

 こういう時に何を話せば良いかわからなくなる。


 しばらく無言の間が流れ、葵子が首を傾げた。

 無垢な視線が俺の弱い心に突き刺さる。

 マズい、何か会話を繋がなくては――!


「そ、そう言えば部活は忙しくないのか?」

「あれ、知ってるんだ?」

「あ、あぁ。暁斗から聞いてるから」


 嘘である。

 葵子はサッカー部のマネージャーを務めているのだが、それは暁斗から聞いた情報ではない。

 『さくちる』をプレイしていたおかげで、それらの基礎情報を把握していただけだ。


 危ない所だった。

 会話に困って捻り出した単語がカンニング解答だなんて、流石に間抜けがすぎる。

 幸い咄嗟に嘘をついて誤魔化したため、本人は然程疑問には思わなかったらしい。


「えへへ、まぁ忙しいのはほんとかな。だから今日は久々にみんなと遊びに来れて楽しいんだぁ」

「暁斗と二人で出かけたりはしないのか?」


 流れで探りを入れる俺。

 と、葵子はそこでニヤッと笑う。


「あれ、もしかして勘違いしてる? わたしとあきくんはただの幼馴染で、別に付き合ってるわけじゃないんだよ?」

「そ、そうか。でも学校ではよく話してるから、放課後も会うこと多いのかと思って」

「一緒に下校したりすることはあるけど、それもたまにだよ。あきくんは友達との予定あるし、わたしも部活だからねっ」


 まぁ確かに、そりゃそうかとも思う。

 前にサッカー部が表彰されてるのを見たが、うちの学校は結構強いらしいからな。

 マネージャーも拘束されるだろう。

 

 しかし、大事な事は聞けた。

 まだ二人は付き合っていないし、少なくとも葵子にその気はまだなさそうだ。

 俺としてはそこだけ聞ければ十分。

 何度もシナリオ改変が起こっている奇妙な世界線だし、共通ルート中に暁斗が別ヒロインと勝手に結びつく可能性も想定していた。

 その最悪のケースはまだ訪れていないと知れただけでも、寿命が延びた気がする。


 ドリンクを買い、両手に抱えて元の場所に戻ろうとする俺達。

 と、そんな時だった。


「――っ!?」


 急に隣に居た葵子が立ち止まり、俺の背中に隠れる。


「お、おい。どうした?」

「黙って。……少しだけ」


 先程までとは違って棘のある言葉に、俺は困惑した。

 声音も鋭く、いやに冷たいものを感じる。


 どうしたのかと思って前を見ると、そこにはカップルと思しき男女のペアがいた。

 同い年くらいだが、男の方はやけに女慣れしている。

 女子の体にべたべたと触れながら、満足げに笑っていた。

 見た目もチャラくて陽気な感じで、生理的に受け付けない感じだ。

 これも非モテモブ陰キャの僻みである。

 しかし、それならそれで何故葵子は隠れたのだろうか。


 カップルが通り過ぎるまで俺のシャツを掴んでいた葵子は、二人が去ってからようやく離れる。

 そして。


「……ちっ。やっぱカスじゃん。死ねよ」

「え?」


 聞き間違いと思いたかった。

 しかし、はっきり耳に入ってきた舌打ちと暴言に、思わず聞き返す俺。

 葵子は俺が聞いていた事に驚いたように目を丸くし、そのままフリーズする。

 

 一秒、二秒……と時が流れた後。

 彼女はにっこりと笑った。


「あははっ。ジュース美味しそー」

「……」


 一瞬感じたどす黒い雰囲気は、既に跡形もなく消えていた。




―◇―


【喜嶋葵子】

暁斗への好感度:20% (→)

響太への好感度:0% (―)

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