表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

第15話 デートか否か、焦るモブ

 4月29日、昭和の日。

 

 ついに来てしまった梓乃李との約束当日。

 俺は待ち合わせ場所である駅前広場に立っていた。

 時刻はまだ12時半過ぎだから、本来の約束時間までまだ30分くらいある。


 かなり早い到着だが、仕方ない。

 万が一遅れてみろ。

 病んだ梓乃李に刺殺されるかもしれないんだ。

 念には念を入れて、かなり早めに家を出るしかなかったのである。

 声を大にして言っておくが、楽しみだったから早く来たわけではない。

 

 結局あの後、予定の調整も何の追加情報もなかった。

 だから俺は今日何をするつもりなのか、何も知らない。

 

 何が起こるかわからないため、家を出る時に防刃ベストでも着込もうかと思った。

 仮に何らかのアクシデントで刺されても良いように。

 しかし、そもそもそんな代物を一介の学生が持っているわけもなく、断念。

 ノーガードで挑むことになったのは、なかなか痛いところだ。

 

 なんてふざけた事を考えていると、45分頃になって待ち人の姿が現れた。


「わっ、もういる。早いね」

「30分には着いてたからな」

「……今来たアピしない人、初めて見たかも」

「嘘はつかない主義だ」


 デートの定番やり取り『ごめん、遅れちゃった~。待った~?♡』『いや、今来たところだよ(キリッ)』が思い浮かぶが、振り払う。

 ここではっきりさせておくが、これはデートじゃないからな。

 デートじゃないから、カッコつける必要も過度な気遣いの必要もない。

 そう、だってデートじゃないから。


 心の中で何度も否定しつつ、俺は言う。


「そう言う羽崎も随分早い集合だったじゃないか」

「先に到着しといて、後で来た豊野君を詰めてやろうと思ってたから」

「外道じゃねえか」


 思った以上に性根が曲がっていた。

 ドン引きしつつ、改めて梓乃李の全身を俺はじっと見る。


 よく考えたら、転生して以来初めての女子とのお出かけだ。

 同級生の私服姿を見るのは、新鮮だった。

 普段と違う装いにドキッとする定番のシチュエーション。

 そんな事を考え、しかしすぐに気づく。


「あれ、その服って……」


 見覚えのあるコーディネートだった。

 上はデニムのジャケットで、下にはボディラインが出るタイトスカート。

 上半身のゆったりしたシルエットと、締まった下半身のコントラストでつい目を奪われる。

 そう、以前俺がチャットのやり取りで見せつけられたあの服装だったのだ。


 俺の呟きに、梓乃李はふっと薄い笑みを漏らす。


「ふーん、気付くんだ。目敏いね」

「あんまり褒められてないなこれ」


 目敏い……なんて良い意味じゃ絶対に使わない言葉だ。

 流石にキモかっただろうか、と苦笑するがまぁいい。

 好感度が下がる分には問題ないし、俺としても構わないから。


 洋服チェックイベントも終えると、梓乃李が早速道を指す。


「じゃ、行こっか」

「どこに?」


 目的地なんて一言も聞いていないため、首を傾げる俺。

 それを見て梓乃李も何故か首を傾げた。


「え?」

「ん?」

「いや、ん? じゃなくて」

「は?」

「……え、ちょっと待って? 連絡きてたでしょ?」

「……はい? 何の話ですか?」


 要領を得ない俺の反応に、梓乃李も表情が曇っていく。

 まさか、俺が何か見そびれていたのだろうか。

 実は予定は聞かされていて、俺が見逃していただけとか?

 冷や汗が出てきた。

 マズい。


 しかし、梓乃李は予想外の事を言った。


「いや今日、中学の同窓会やるって言ってたじゃん」

「……へ?」


 ど、どういう事だ?

 中学の同窓会?

 そんな話は知らないんだが?

 そもそもまだ卒業してひと月しか経ってないのに、同窓会ってなんだよ。


 疑問に思っていると、梓乃李がスマホを見せてくる。

 そこには中学のグループチャットと思しきモノが写っていた。

 確かに同窓会の予定について盛り上がっている。

 なるほど。

 

「……マジか」

「え? 嘘。知らなかったの?」

「あぁ。そもそも俺、中学のグループ入ってないし」

「……あ」


 流石の梓乃李も馬鹿にせず、気まずそうに顔を背ける。

 どうやら俺のモブ陰キャパワーが上回ったようだ。

 もっとも、普段人の事をおもちゃ扱いしてくる奴にガチ気遣いをされると、その方が堪えるんだがな。

 

 にしても、そうか。

 裏でそんな事になっていたのか。

 色々と理解が追い付いた。

 だから梓乃李は何の情報も言わなかったのか。

 共通認識として、この日は同窓会があることを把握していると思っていたから。

 まさか俺が何も知らないとは思わなかったのだろう。


 一気にしんみりしたところで、梓乃李はくすっと笑った。


「はぁ、そっか。じゃあもう、サボっちゃう?」

「え?」


 間抜けな声を漏らす俺に、梓乃李は茶目っ気たっぷりに笑いかけてくる。


 『二人で抜け出しちゃおっか……?』みたいな定番の小悪魔セリフが頭に浮かんだ。

 だってつまり、これはそういう事だもんな?


 目をぱちくりさせる俺に、梓乃李は薄く笑う。

 

 ――こうして、俺の奇妙な休日が始まるのであった。





 行く当てもなかったため、俺達は何となく店が並ぶ道路沿いを歩き始めた。

 高校進学と同時に引っ越した俺には、しばらくぶりの景色となる。


「っていうか、羽崎は行かなくて良かったのか?」


 すっかりバックレモードに入ったところで一応聞いてみると、彼女は頷く。


「説明せずに誘った私に非があるし、今日は付き合うよ」

「気は遣わなくていいのに」

「いや、正直一人じゃ行くの面倒だったから。だからこそ、君を誘ったんだよ」

「なるほど」


 梓乃李は俺と違って中学時代は友達も多かった印象だが、期間が空くと会うのも億劫になるのだろう。

 わからなくはない。


 それと、全く関係ないが俺は内心安堵していた。

 何故なら今日の予定がデートではなかったと証明されたから。

 ただの同窓会の付き添い名目とわかって一安心である。

 右治谷と季沙に煽られたせいもあるが、ここ数日は生きた心地がしなかった。


「豊野君は、行かなくていいの?」

「まぁ呼ばれてもないからな。あと友達いないし」


 中学三年間で全体グループにすら誘われたこともなかった時点で察せるとは思うが、本当にただの一人も仲の良い知り合いなんていない。

 行ったところで楽しめるわけがないのだ。

 

「確かに豊野君って、凄く落ち着いてて不思議系だったからね」

「そうなのか?」

「うん。成績良いし優等生だったじゃん。正直お高くとまってるっていうか」

「そんな大層なもんじゃないって」


 否定しつつ、少し意外に思う。

 よく考えると、俺が周りからどう見られているかを同級生から聞くのは初めてだった。

 てっきり陰キャ扱いされて避けられているのかと思っていたが、そんな風に見えていたのか。

 両親からも不気味がられていたし、それと同じようなものだろう。

 

 なんて思って少し得意げになっていると、梓乃李が笑う。


「まぁでも、実際話してみると普通だよね」

「普通で悪かったな」

「あはは。あとちょっと言動が危ない」

「例えば?」

「タイトスカートにエロさを感じてるところとか、それを口にしちゃうあたりかな?」

「っていう割には履いてくるんだな」

「だって好きなんでしょ?」

「……」


 言われてつい意識してしまう。

 実際、かなり良い。

 むちむちとは程遠い細さだが、確かに健康的な美を見せつけてくる足と、意外にボリュームのある尻のシルエットがよくわかるなだらかな曲線。

 制服からは接種できない成分である。

 癖を刺激されるとは、まさにこれと言わんばかりの景色だ。


 俺の視線を受けて梓乃李は手を出してきた。


「はい、鑑賞代をいただきます」

「おいくらでしょうか」

「うーん、十万円で手を打とうかな」

「お巡りさんこっちです。ぼったくりです」

「捕まるのは君だよ。猥褻行為で」

「こいつは一本取られたな。ははは」


 テキトーなやり取りをした後、ハッと我に返る。


 ――だからなんで自然と楽しい会話に興じてるんだ俺は!


 こういうのの積み重ねで好感度が上がるんじゃないのか?

 いやまぁ、話の内容的に好感度が上がる要素はないんだが。


 焦りながら彼女の顔を見る俺。

 しかし、当の本人は早くも興味を失ったのか上の空だった。

 とんでもなく速い切り替えに驚きつつ、俺も呼吸を整える。

 

 そのままぼーっと、目の前の見慣れた街並みを見つめながら歩いた。

 と、黙っていた梓乃李が口を開く。


「なんかさ」

「お、おう」

「普通に行かなくて正解だったかもね」

「な、何故?」


 急にどうしたと困惑する俺に、彼女は続けた。


「だって二人で行ったら、……付き合ってると思われそうだし」

「……ッ!」


 若干照れたように言われ、頭が冷えた。

 そして自分が綱渡りをしている事を思い出した。


 同窓会はまだ、幼馴染としての行事帯同という名目で済んだ。

 でも今この時間は、なんと説明できるだろうか。

 右治谷辺りに話せば、絶対に”デート”と言われるだろう。

 自分でも言っていたじゃないか。

 ご飯を食べて買い物に付き合うだけでも、世間一般ではデートと呼ぶと。


「ま、まさかそんな勘違いはされないだろ。絶対。うん」


 断固として否定しつつ、俺は今一度気を引き締める。

 

 俺は今日、試されているのだ。

 なんとしてでも好感度を維持しつつ、過度に接近はしまいと心に決めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ