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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第14話 ツンデレの域を超えたヘイトタンク

「先に俺の事を無視したのは先輩の方でしょ?」


 俺と話したくて仕方がない様子なので、仕方なく応じた。

 もっとも、そのモチベーションは敵意以外になさそうだ。


「そうね。でも、だから何? 年上の呼びかけを無視するのは非常識」

「……非常識なのはどっちだよ」

「何?」


 俺のぼやきに有無を言わせぬ圧を向けてくる。

 いつも他の生徒にするのと同じように、高圧的に押さえつけてやろうという気だろうか。

 しかし、俺を周りの連中と同じにしないで欲しい。

 常に死の危機と向き合ってきた人間を舐めないでもらいたいものだ。


 俺は大きくため息を吐いて見せた。

 そっちがやる気なら、受けて立ってやろう。


「はぁ……。良家に生まれた先輩にはわからないかもしれませんが、挨拶に年齢とか上下関係とかないです。あと、俺は相手の行動に見合った態度で応えます」

「ッ! ……どういう意味? 私には無視が妥当だと言いたいの?」

「挨拶を無視する先輩には、そうですね。そもそも初対面時から相手の顔に、不愉快だ~なんて文句をつけてくるような人とは、関わりたくないです」

「あれは貴方が最初に睨んできて!」

「だから、仮にそうだとしても、それもその前に先輩が俺を無視したからでしょ」

「――ッ! うぅぅぅぅぅッく! ……ふ、ふふ。うふふふふふ」


 言い込められてストレスがかかったのか、雪海は額に青筋を浮かべながら不気味な笑みを浮かべていた。

 怖すぎる。


 しかし、これで良い。


 見ての通り、七ヶ条雪海という女は理性的な癖に口論には滅法弱い。

 沸点が異様に低いため、キレると頭が回らなくなるタイプなのだ。

 加えてこの気性である。

 弱気で臨むより強気に殴り合った方が良い。


 当然『さくちる』のプレイ時に学んだキャラ対策だが、ここは活用させてもらおう。

 性格を熟知している以上、この言い合いには俺に分があるはずだ。


 と、そこで雪海はふっと無表情になる。


「貴方に、私の何が分かるというんですか」


 自暴自棄のような声音に、つい言葉に詰まった。

 勿論、彼女の事は何でも知っている。

 お家事情と、この学園に入ってからその身に起きた()()()()()も。

 他には生年月日や血液型、作中屈指の数字を誇るスリーサイズまで把握済みだ。


 ……冗談はさて置き、俺は一旦素に戻った。

 彼女の境遇を知っている分、あまり虐めすぎるのも可哀想に思えてしまったのだ。


 ここは一旦矛を収めようと、俺は肩を竦めつつ尋ねる――が。


「俺の何がそんなに気に入らないんですか」

「全てです。目標もなく底辺に甘んじている人間を見ると反吐が出るのは当然の事では? 噂で成績が良いと聞きましたが、それを活かそうとする素振りもない」

「……」


 隙を与えた瞬間、水を得た魚のように勢い良く悪態をついてきた。

 うわぁ……。

 流石の俺も口を閉じちゃった。

 一瞬の俺の良心を返してくれ。


 ただ、悪態の内容自体は若干リスペクトも感じる。

 そう言えばこの前、暁斗達にも言われたっけ。

 留学に行けだとか、そんな話だ。

 何故俺の事を把握しているのかは知らないし、怖いから詳細も聞きたくないが、それはそれとして結構評価してくれているらしい。

 あ、なんかちょっと嬉し――


「それに能力のある人間が向上心を持たないのは怠慢です。そんな怠惰な自分を正当化して、私に言い返してくるなんて……こんな恥知らずな人初めて見た」


 前言撤回。

 言われ過ぎである。


 一瞬褒められた気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。

 やはりこれをツンデレと呼べるほど俺の懐は広くない。

 ゴミを見るような目を向けられ、俺は顔を引きつらせた。


 雪海は学園内で明確に嫌われている。

 理由はその性格だが、正直納得してしまう自分がいる。

 こんな態度で接していたら、そりゃヘイトも集めるだろう。


 エロゲのヒロインとして見る分には可愛く思えるが、リアルに相対すると普通にイラっとする。

 これもモブの宿命なのだろうか。

 主人公特性のない人間にとって、ツンデレヒロインなんて害悪でしかないのだ。

 

 なんて思っていると、雪海がムッとした表情のまま言った。


「ですが、貴方の言い分は理解できました」

「は?」

「確かに先日の私の態度は礼節に欠くものだったかもしれません」

「は、はい」


 頷くと、彼女はそこで言葉を止めた。

 謎の間ができる。


 ……え? なにこれ。

 目をぱちくりさせていると、雪海はふんっと鼻を鳴らして顔を背けた。

 よく見ると若干頬が赤い。


 するってぇと、なんだい。

 今のは謝罪って事?

 それで照れて、直視できなくなったと?


 ――いやいや、そりゃ流石に庶民を舐め過ぎじゃないかね?


 戦慄している俺を他所に、満足したのか彼女は生き生きと語り出した。


「まぁ貴方みたいな向上心のない人間も、一応生物学的には同等なわけです。こちらも相応しい態度で向き合うとしましょう」

「はぁ……。ど、どうも?」

「だから貴方も誓いなさい? 今後私と顔を合わせたら毎回挨拶をすると。そして私の事を今後は一切無視しないと」


 なんだか知らないうちにルールが付与されていた。

 あと会話の主導権が奪われているんだが。


 しかし、これには俺も頷けない。


「そんな事言って、自分は俺の事を無視するんでしょ?」


 俺だけ挨拶を義務付けられるのは不公平だ。

 そもそもこれは、根本的にこの女が発端のしょうもない揉め事だし。

 

 だが、雪海はここで初めて笑った。


「いいえ。七ヶ条の名において、今後一切豊野響太の事は無視しないと誓います」

「……じゃあいいですけど」


 急にどんな風の吹き回しなのだろうか。

 俺としても、毎回不機嫌オーラを撒き散らされるのは迷惑だったからありがたいのだが、それにしても急過ぎる。

 やはりよくわからない女だ。

 ずっとフルネーム呼びで不気味だし。

 あとやっぱり、なんで名前を把握されてるのかもわからないし、怖いし。


 なんて思っていたら、掃除終了のチャイムが鳴る。

 それを聞いて雪海は舌を出した。


「ふふっ、掃除の時間はとっくに終わりましたよ。さっさと帰ってくれます?」

「ッ! ……良い性格してますね」

「何のことでしょう。私は相手の行動に見合った態度で応えているだけです」

「……そっすか」


 さっき俺が放った言葉のミラーリングを、この上なくイラつくタイミングで実行してくるド畜生お嬢様。

 ニヤニヤ笑っているところを見るに、揚げ足を取ったつもりなのだろうか。

 はぁ……。


 ごめん。

 やっぱり俺、これを茶目っ気と呼べるほど器はデカくないです。


「じゃ、また次の登校日に」

「ええ。楽しみにしているわ」


 持っている箒をへし折りそうなほど手に力を込めながら、俺は作り笑いを浮かべた。

 


―◇―


【七ヶ条雪海】

暁斗への好感度:――

響太への好感度:30%(↑)

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