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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第11話 陽キャギャルに煽られるモブ君

 掃除時間が終わった後は放課となる。

 

「豊野ってオタクっぽいのに気強いんだね」

「”のに”ってなんだよ。気が強いオタクもこの世には存在するんだ。まるでアイドルと処女は両立しない~みたいな言い方をするんじゃない」

「何言ってるかわかんないけどウケる。キモ」

「……」


 今日の下校は普段よりかなり賑やかだった。

 隣にはポニテのギャルっぽい陽キャ女子がいる。

 柊季沙だ。


「七ヶ条センパイと正面から睨み合った後輩なんて豊野しかいないんじゃない?」

「そりゃ光栄だな」

「でも七ヶ条グループって桁違いにデカい組織だから、今頃ブチ切れたセンパイが実家に敵対勢力として豊野の事を連絡してるかも。……そんでこの帰り道、うちと別れて一人になった瞬間に暗がりに連れ込まれて――」

「……洒落にならんからやめてくれ」


 七ヶ条と言えば、名前を聞いたことがあるような会社の多くを支配する超巨大財閥だ。

 学園で黒い噂を聞いたこともあるし、何より俺は『さくちる』のシナリオで彼女の家の事をある程度詳しく知っている。

 だからこそ、今の話が冗談じゃ済まない事も理解しているわけで。


 嫌われても良いと思って強気に出たが、あの女が家の力で俺を消しに来たらどうしよう。

 飛び降りに巻き込まれるよりヤバいのでは?


 冷や汗を流しながら、俺は隣の季沙に笑いかける。


「一緒に帰ってくれてありがとう。ずっと横に居てくれ。一人になりたくない」

「うーわ、きっしょ~」


 ゲラゲラ笑い飛ばしてくれるから、俺としてもボケやすい。

 というか、他の梓乃李や雪海と話すよりかなり気が楽だ。

 攻略ヒロインじゃないから、こっちも気軽に絡める。

 自分の行動で生死が左右されない点も良い。


 それにしても、どうしたものか。


 ゲームのシナリオ通りなら、来月に暁斗と雪海が廊下で遭遇するところからイベントが始まる。

 逆に言うと、今はまだ接点すらないはずだ。

 そんな状態で、まさか俺の方が先に接点を持つ羽目になるとは思わなかった。


 今の俺は暁斗と仲が良い。

 だから俺が変に動くと、暁斗が原作とは違うタイミングで雪海と会う事になりかねない。

 となるとまた面倒に拗れそうだから、しばらく身動きが取れない。

 実は結構面倒臭い状況に立たされているのだ。


 ぼーっとそんな事を考えていると、季沙が言う。


「豊野ってしのりんの事好きなん?」

「ごほっ! け、けほけほっ……んっ、……は?」


 びっくりした。

 びっくりし過ぎて唾が気管に入り、そのまま呼吸方法を忘れて窒息しかけた。


「いやいや、何言ってるんだ。というか何を見て?」

「普段の会話とかだけど。うち的にはラブポ高めに感じたから」

「らぶぽ? ラブホの親戚か何かですか?」

「ラブポイントの事だよ。好感度的な感じー。随分熱っぽい視線をしのりんに向けてるように見えてたよ?」

「全然そんなんじゃありません」

「えー?」

「いやほんとに。死活問題なので。首を引き千切られても認めません」

「……もはや嫌いでしょそれ」

「……」


 俺の完全なる否定に、流石の季沙も苦笑い。

 ドン引きした様子だった。


 だが事実だ。

 俺が梓乃李の事を好きだなんて勘違いは、マジのガチで死活問題なので全力拒否。

 モブ×メインヒロインなんて存在して良いわけがない。

 その先に待ち受けているのは、病んだ梓乃李に俺がマンションから突き落とされるバイオレンス心中事件だろう。

 ……いやまぁ、原作でもそんなルートは明記されていないし、実際のところは知らないけどさ。

 万が一がある以上、俺としては確実に死を免れるルート以外は却下なのだ。


「でもうちは二人、良い感じだと思うけど? 案外しのりんも受け入れ姿勢じゃない?」

「なわけ。そもそも俺なんかよりお似合いの奴がいるだろ」

「いるっけ?」

「暁斗だよ」


 名字呼びも面倒になったからそう言うと、季沙は噴き出した。


「本気で言ってる? あーんなノンデリにしのりんは無理っしょ」

「いや、あれで気が利くとこもあるから」

「無理無理。繊細な子に対しての特効じゃないそれは。あいつ、全員に万遍なく優しいっしょ? でもしのりんみたいなタイプは自分にだけ優しい男じゃないと病むよ」

「うっ」


 これは思った以上に正確な見立てだ。

 なんたってノーマルエンドでも一人だけ病んで自殺するヒロインだからな。

 言い得て妙である。

 しかし、俺だって負けていない。


「羽崎曰く、俺もノンデリらしいぞ」

「それはただのじゃれ合いっしょ。心開いてもらってるからこそのいじりじゃん」

「……あーもう! とにかく俺はアイツと付き合う気なんかない!」


 陽キャ女子に乗せられてはダメだ。

 全力で否定すると、彼女は爆笑した。

 そしてようやく引き下がる――と見せかけて、最後に囁く。


「じゃ、うちはどう? 彼女候補として」

「――は?」

「……ぷっ、あはは! 冗談だし! 真に受けてて爆笑なんですけどー」

「……」


 やはり陽キャギャルは嫌いだ。


 俺の顔を見て、しばらく季沙は笑い転げていた。

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