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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海


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第10話 お嬢様との初接触でキレるモブ

 翌日、俺は学校で執拗に絡まれていた。


「ねー、豊野君」

「なんだね」

「豊野君って頭良いけど、留学には興味ないの?」

「ない」


 休み時間、俺の席の周りには二人の生徒が立っている。

 羽崎梓乃李と須賀暁斗だ。

 何が面白いのか、ニマニマしながら煽てられる。


「勿体ないな。僕らのクラスだと、早瀬さんが行くって聞いたけど」

「へぇ。……誰だっけ」

「今前で話してる可愛いカチューシャの子」

「あぁ、あの子か」

「でも響太の方が成績良いでしょ? 基本的に枠内の応募なら全員通るらしいし、せっかくなら受ければいいのに」


 これはアレだろうか。

 僕らのラブコメにお前は邪魔だから国外へ消えてくれ! という新手の嫌味だろうか。

 だとしたらなんという遠回しな表現だ。

 暁斗に京都人設定はなかったはずだが、見落としたかもしれない。


 まぁ、そんな事言うような奴じゃないのは知っているが。


 純粋に成績の良さを褒められているだけだろう。

 人生二周目で、大学生並みの知力が一応はある俺だからな。

 成績が良いのは当たり前である。


 と、別の女子の名前が暁斗の口から出たからか、梓乃李はジトっとした目を暁斗に向けていた。

 今日も今日とて嫉妬深くてお熱い破滅ヒロインだ。

 そしてそれに気づかない鈍感主人公。

 全く先が思いやられる。

 ……ん? その後に俺も目が合ったぞ。

 何故だ。


 しかしまぁ、留学か。

 実際、国外逃亡したら俺の巻き込み死亡エンドは回避できそうな気もする。

 だが、転生が起こるような世界に物理法則を求めるのは無駄だろう。

 何らかの理由で国に戻った瞬間に巻き込まれるか、梓乃李が俺を国外まで道連れにしに来る可能性もある。

 そもそもこんな主人公君を放置する方が怖い。

 この場から離れる選択肢など、最初からないのだ。


 なんだかすっかり暁斗の友人ポジBに落ち着いたところで、改めて状況を整理する。

 

 現状、梓乃李の好意は変わらず暁斗に向かっていた。

 俺に対する距離の詰め方は不穏だが、気のせいだろう。

 まだ二人のカップリングは有効と見た。


 なんて考えていると、俺の横に人影が増えた。


「豊野、だよね」


 顔を上げると、そこにはポニーテールの女子が立っていた。

 

ひいらぎ季沙きさ、か」


 新クラスになって約二週間。

 教室の人間の名前なんて大して把握してない俺だが、コイツの事は知っていた。

 何故なら『さくちる』に登場するネームドだから。


 この女は攻略ヒロインでこそないものの、主人公の補助役として頻繁に登場するサブキャラ枠である。

 ギャルっぽい雰囲気の明るい女子だ。

 もっとも、根っからの陽属性故に、対極の俺とは接点がなかった。

 急に話しかけられて困惑していると、季沙は苦笑した。


「いきなりフルネーム呼びでウケる」

「……何か用事か?」

「あぁ、そうそう。今日から掃除月間じゃん? うちら担当場所が同じだからその連絡」


 そう言えばそんなのもあったと思い出した。

 最近は自分の生死をコントロールするのに必死過ぎて、学校行事なんかほぼ無視してたからな。

 

「で、どこなんだ?」

「んーと、美術室」

「……え」


 しかし、担当場所を聞いてから俺は困惑した。


「じゃ、そゆことでっ。よろー」


 用が済んだらそそくさと去っていく彼女。

 俺は彼女の言葉を反芻する。


 美術室――。

 それは二人目のヒロイン、七ヶ条雪海のテリトリーに他ならない。





「来ない」


 放課後。

 掃除をするために一足先に美術室に着いたのだが、待てど暮らせど掃除開始のチャイムが鳴れど、季沙は現れなかった。

 仕方ないので一人で掃除を始めるとする。


 陽キャ女子なんていつもこれだ。

 相手が陰キャとわかればすぐにサボって仕事を投げてくる。

 心底舐められているわけだ。

 主人公サイドの女だからと、ちょっと期待していた自分が馬鹿らしい。

 結局こんなもんだ。

 オタクに優しいギャル?

 創作の世界にも存在しないんですけど?


 最近は友達と会話することが増えていたから忘れていたが、俺はこの世界では基本的にいつもこうだった。

 梓乃李たちと関わっても、俺がモブを脱するわけじゃないのだ。


 なんてめそめそしていると、奥の個室が開いた。

 中から長い銀髪の女子が出てくる。

 『さくちる』の攻略ヒロイン――七ヶ条雪海その人であった。


「こんにちは」


 相手は先輩だ。

 礼儀は大事だろうと思って挨拶だけしておく。

 と、そんな俺に彼女は一瞥をくれた後、普通にスルーした。


 あぁそうだ。

 思い出した。

 この女、主人公の暁斗以外にはこんなだったっけ。

 当然のようにガン無視されて、イラっとする。

 存在を認識した上でのスルー程効くものはない。


 ――この女、マジでどうしてくれようか。


 ヒロイン補正がかかっている俺の目でも擁護できない態度のキツさ。

 なまじデレた時の態度を知っているからこそ、ムカつき度が増幅している気もする。


 しかし忘れてはいけない。

 共通ルートをコンプリートさせるためには、コイツの問題の解決も必須だ。

 暁斗には梓乃李同様、雪海の問題にも関わってもらう必要がある。


 しかも今回はさらに難易度が高い。

 雪海のフラグは立ててもらわなければ困るが、かと言ってそのせいで暁斗が雪海ルートに入っても困る。

 あくまで最終的には梓乃李ルートに入ってもらわなければならない。

 となると、前回以上に詳細な好感度調整をする必要がある。


 そんな器用な真似、俺にできるだろうか。

 胃が痛くなってきた。


 と、恐らく俺は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 そこに何を勘違いしたのか、雪海が口を開く。


「何なの、その顔」

「え?」


 自分に向けられた敵意だと思ったのだろう。

 彼女は俺の正面に立ったかと思うと、口を開いた。

 話しかけられるとは思っていなかったため、目を丸くする俺。

 彼女は鋭い視線を向けてくる。


「人の顔を見るなり顔を顰めるなんて……不愉快」

「……」


 なるほど、どうやら虫の居所が悪いらしい。


 梓乃李のイベントで一つ大きな学びがあった。

 それは……対象ヒロインから俺が好かれるメリットはないという事だ。

 今の梓乃李との関係は、若干危うい。

 好感度が上がり過ぎて、もはや俺という存在が暁斗と梓乃李の仲を妨げる壁になりかねない状況になっている。

 これでは本末転倒だ。


 それもこれも全ては俺の微細なミスの蓄積故だが、正直どう考えても努力で回避できる範疇を超えている。

 どう動いても多少のシナリオ脱線は起こるだろうし、もう諦めるしかない。


 要するに何が言いたいのかと言うと、モブである俺はそもそもヒロインから嫌われても問題ない。

 好かれる事に比べれば、むしろ好都合なくらいだ。


 俺は雪海の視線に、真っ向から向き合った。


「挨拶を無視されたら誰でもこんな顔になりますよ」

「ッ! ……部外者が勝手に入ってきたんです。警戒するのは当然でしょう」

「そう言われても俺はただの掃除当番なんですけどね。箒持ってるの、見えませんか?」


 失うものがないため、やや強い口調で不名誉な言いがかりには弁解しておく。

 

 と、言い返してくるとは思わなかったのか、驚いたような顔をする雪海。

 しかしすぐに彼女は顔を顰め、睨みつけてくる。

 まるで視線だけで相手が怯むとでも思っていそうな態度だ。


「怖い顔しないでくださいよ。俺にその手のギャップ萌えは通じません」

「……は?」

「すみませんこっちの話です」


 ヤバい。

 出力を間違えた。

 心の中の声が漏れてしまったようだ。


「え、うわ。キモ……」

「……」

 

 心の底から出たであろう言葉に、何故か今日一番ショックを受ける俺。

 珍しく崩れた言葉遣いから窺える本気の拒絶だ。

 嫌われるのはそれはそれで、どうやら俺のメンタルに響くらしい。


 俺の言葉に身の危険を感じたのか、一歩下がる雪海。

 その表情には憤りの他に未知への恐怖が浮かんでいた。

 クソ……。

 ついエロゲ設定の方が頭に浮かんでしまったのだが、不覚である。


「とにかく、俺は掃除しに来ただけですし、挨拶すら返さない人間にとやかく言われる謂れはないです」


 きっぱりと言うと、彼女は黙って俺を頭からつま先まで見下ろし始めた。

 値踏みされているようで気に入らないが、悪い事はしていないから堂々と立つ。


 というか、俺はこのヒロインの事も助けないといけないのか。

 梓乃李に負けず劣らず、というかかなり面倒な事情持ちなため、正直あまり首を突っ込みたくない。

 それを差し引いても、人間的にこの女とは合わない。

 俺に主人公補正があったのなら、今頃多少はデレを見せてくれていたかもしれないのに。

 今見せているのは射殺さんばかりの目つきと、若干嘲りのこもった口元だけだ。

 

 状況は膠着し、お互いに視線だけを交わす謎の時間が流れる。

 と、そんな時だった。


「え、どゆ状況?」


 掃除時間も残り数分のところに遅刻してやって来るのは、同じ美術室担当の柊季沙である。

 彼女は入室早々、俺と雪海の異様な雰囲気に目を丸くした。

 状況を聞かずとも、剣呑な空気感だけで言い争っていたのはわかるだろう。


「……ふん」


 外野の乱入で興が醒めたのか、雪海は鼻を鳴らして教室を出ていく。


「遅れてごめーんって、そんなノリでもないか」


 苦笑いの季沙に、俺は疲れた目を向ける。

 この場には、不気味な静けさだけが残っていた。



―◇―


【七ヶ条雪海】

暁斗への好感度:――

響太への好感度:−100%(↓)

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