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真実の欠片

家を壊されたレイムは、ラーナ達の足取りを追って町へと急ぐ……。

 やはり何かの冗談だったんだ。

 随分手の込んだイタズラだ。タチも悪い。


 だけど、僕は許せる。

 僕なら許せるんだ!


 君たちを笑顔で受け入れるなんて、僕にしかできるはずがないんだ!


 手紙には一日町に滞在すると書いてあった。

 ならば間違いなく、宿屋には泊まるはず。


 そこまで大きな町ではないから、馬車を置いておける宿屋が何件もあるわけではない。


 ならばすぐにでも……!


 とりあえず、この町で一番大きな宿屋へと走る。

 可能性的にも、そこが一番の本命だ。


 馬車は王都から来たものだろうから、もし彼女達以外の人間がいるとするなら、その人達はこんな田舎の安宿を利用しようとは考えないだろう。


 偏見かもしれないが、王都に住む人は質素という言葉からは最も遠くにいる存在だと僕は思っている。






「あ、あれは……」


 目的地に近付くと、見覚えのある人影が見えた。


(間違いない、あの人は……!)


「あの、あなたは前手紙を持ってきた人ですよね?!」


 僕が声をかけると、男はジロリとこちらを振り返った。


「ふ、来たのか?」


 まただ……以前と同じ、少し嘲るような表情……。


「ラーナは……ジャンネはどこなんですか?!」


 そんな表情を少し不快に感じながらも、僕は男へ詰め寄る。


「くくく……そんなにあの女達が大事なのか?」


 大事か、だって?

 そんなの考えるまでもないだろう。


「当たり前です。彼女は大切な人……僕の妻になる女性ですから!」

「くふふ……くあっはっは、へいっひいひひい」


 感情の見えなかった男の顔が歪む。


 醜悪に――滑稽だ、無様だ、と――心の底から笑っている。

 まるで道化師(ピエロ)の間抜けなリアクションを楽しむかのように。


 誰を? 何に対して?


 そんなの決まっている――僕だ。


 僕が彼女を大切に思っていると聞いて、僕のことを哀れな道化師だと、彼は笑っているのだ。


「何がおかしいんですか?!」

「くくはふぅっ……ああ、悪い、な。あまりにも……あまりにも……くっく、お前が、くふっ……可哀想、だった、からな……」

「可哀想? 何故そんなことを言われなければならないんですか?」


 僕は精一杯睨んでみるが、男はどこ吹く風と言わんばかりに、まるで気にしていない。


「真実を知れば誰でもそう思うさ」

「真実? 家を壊したことが冗談だってことは分かっています。でも、それくらいでラーナ達を見放したりしませんよ。いき過ぎたイタズラだとは思いますが」


「お前も大概だな……」

「……? 良く分かりませんが、結局場所を教える気はあるんですか?」


 まあ、教えてもらわずともこの宿屋に泊っているなら、待っていれば会えるだろう。


 期待をしてはいなかったが、彼は少しだけ考えて、僕の望む答えを出してくれた。


「……いいぜ、分かった。ついて来いよ。お前に現実ってモンを見せてやるよ」






「今日はこの宿屋は貸し切りだ。ここは良い具合に庭が広くて、ラーナの要件を済ませるにはぴったりだったんだ」


 ラーナの要件……?

 ここは泊まる為に借りたんじゃないのか?


「おら、ここから庭が見えるだろ?」


 男に促されるまま目を向けると、なるほど確かに庭がある。


 庭は夕陽を受け、燃えるように真っ赤に染まっていた。


 そして、そこには何故か幾人もの男達が長蛇の列をなしているようだ。


 その列の先にはラーナが……僕の思い人が一人の男と戦っており、今まさに男を叩き伏せ、木剣を突きつけているところだった。


 夕陽を受けながら、激しい戦いを終え、頬を上気させているラーナはとても美しく、伝承に伝え聞く戦乙女(ヴァルキリー)のようだった。


 相手の男は地面を叩き、負けたことを嘆いている。

 少し大げさだと思うほどに。


 そんなに女性に負けたことが悔しかったのだろうか?


 すぐに彼女の元に行きたい衝動に駆られたが、剣術練習中のラーナは気が立っており、下手に話しかけると、手痛い目にあわされることを知っている身としては、飛び出すわけにもいかない。


(ラーナは何の為に……ここで一体何をしたいんだ?)


 剣術の修行ならば、ギルドにだって練習場がある。

 こんな場所よりも立派で、安全性に配慮されたモノが。


 それに修業と言っても、どこかおかしい。

 この場所には、何故か男しかいないのだ。


 少ないといっても、冒険者にも女はいる。

 そして、ラーナが言うには彼女より強い女性もいるらしい。

 強さに拘る彼女が、その女性を修業相手に呼ばないとも思えない。


 というかそもそも、こんなにたくさんの人間が必要なのか?


「ハア、アンタ達、本当にヤル気あるの? わざわざ金貨一枚の参加料を払ってまで来るんだから、もっと強いモノかと思ってたわ」


 ラーナは剣を肩に担ぎ、長い髪をかき上げながら呆れたような声を出す。


(ああ、ラーナ……会いたかった、会いたかったんだ……!)


 彼女の声を聞いて、僕は随分と嬉しく……懐かしく感じた。


 無理もない。

 一カ月と一週間。王都と僕の住む村。

 こんなに長く、そして遠く離れたことなど今まで一度たりともありはしない。


 やはり僕には、彼女が……ラーナが必要なんだ。


 僕がそう再認識していると、庭の方で動きが起こる。


「俺はやめる……景品は確かに魅力的だが、負けると分かって金をドブに捨てるような真似はできない……」


 一人の男がそう言ったのをきっかけに、一人、また一人とさっきあった列が掻き消えていく。


 そんな中、一人の大きな男が下卑た笑みを浮かべながら、ラーナへと近付いていく。


 二人の身長差は五十センチほどあり、目測ではあるが、明らかにラーナが勝てそうな相手ではない。


「くく、ラーナ……約束は本当だろうな?」

「ええ、デンラス。私を満足させてくれたら、私があなたを満足させてあ・げ・る……」


(ラーナ……だよ、ね……?)


 舌なめずりをするラーナの表情……こんな彼女は見たことがない。


 その目は妖しい熱を帯び、微笑みは背筋がゾクリとするほど扇情的で、その全身からは色気が匂い立ちそうな程溢れ出ている。


 そんな彼女の姿は、まるで伝承で伝え聞く、サキュバスという魔物を彷彿とさせた。


「こりゃあ楽しみだ……」


 男が剣を構えたことが始まりの合図であった。

 ラーナが最初に切りかかり、デンラスがそれを受けとめた。


 それから刃を何合も打ち合わせ、とうとう決着がつく。


 勝ったのはデンラスと呼ばれた男。


 ラーナは最終的に木剣を飛ばされ、剣を喉に突きつけられていた。


「どうだ?」

「やるじゃない。体も大きいしアッチの方も期待できそうね」


 ラーナはそう言って、デンラスの体を撫でまわすように手を這わせる。


 顔、肩、腰、腹――


 その手の動きを見て、僕は吐き気をもよおす。


「うぐぅっ……!」

「おいおい、こんな場所で吐くなよ? それにまだ終わってねえんだからよ?」


 まだ終わってない?


 どういうことだ……まだ何かあるっていうのか?


「他に挑戦者はいる?!」


 ラーナが声をかけるが、誰も返事をする者はいない。

 あんなにたくさんいた人間も最早まばらだ。


 デンラスとラーナの戦いはそれほどまでに凄まじかったのだろう。

 他の人間はラーナには勝てないと判断したようだ。


「良かったわね? 私を独占できるみたいよ?」


 ニコリと微笑みかける表情は少女のようで……。


「くくく……そうか、一回とかケチくさいこと言わないよな?」

「そうね……思ったより収穫なかったし、私も不完全燃焼なのよね……」


 考える仕草もまた同様で……。


「いいわよ……満足するまででシテも?」


 それでも……その雰囲気は完全に娼婦のような艶姿であった。


 誰だよ……これが、ラーナ……?


 男の言う現実――ソレのほんのひと欠片を垣間見た瞬間であった。

次は決定的な失望を与えられます。


続きが気になる方はブックマークなどをよろしくお願いします。

感想は批判も好評も、どちらも受け付けております。

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