表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/29

崩壊

本日二話目です。


王都からの帰りが一週間遅れ、不安を隠せないレイムだったが……。

 今日は二人が帰ってくる予定日だ。


 この一週間で日課のようになったが、僕は今日も魔道具で働いていた。


 フィリアさんは一週間前と違って、早く帰れとは言わなかった。

 しかし、仕事が終わった後で少し心配そうに、僕に声をかけてきた。


「もし何かあったら我のところに来るのじゃぞ?」

「はい、ありがとうございます」


 僕は短くお礼を言って、そのまま店を出た。


 町で軽く夕食の食材を購入し、家路を急ぐ。


 あの二人は、ひと月も慣れない場所で生活をして、心身ともに疲れているはずだ。


 以前一週間遠征をしたときでさえ、やれ料理が不味かっただとか、やれベッドが硬かったとか、やっぱり我が家が一番だとか、そんなことばかりラーナは言っていた。


 それは妹のジャンネも同様だ。


 ラーナと喋りながら「本当にそうですね」と相槌を打っていたのを良く覚えている。


(おや?)


 家も大分近づいてきたところで、何やら人だかりができていることに気づく。


 というか、僕の家の周りにいるようだ。


「どうしたんですか?」


 僕は足早にそこへと近付き、村の男の一人に声をかける。


「どうしたって……レ、レイム?!」


 僕の顔を見た瞬間、驚いたと思いきや、酷くバツの悪そうな表情になる。


「本当にどうしたんですか?」


 要領を得ない男を訝しく思いながらも、野次馬達が視線を注いでいる場所へと目を向ける。


「あ? え? あ……れ?」


 僕の家――それがあるべき場所が……ただのがれきの山となっていた。


 なんだ、これ……?


 両親との思い出の詰まった家。

 寂しい思いをしていた妹に、一身に愛情を与えていた空間。

 ささやかながらも三人で暮らし、幸せを噛みしめていた場所。


 それが見るも無残な姿になっている。


(う、嘘だよね……)


 僕はゆっくりと野次馬をかき分けながら、思い出の場所(ガレキ)へと近付いていく。


 押しのけられて迷惑そうな顔をしていた者達も、僕だと気付いた瞬間に道を開け、僕は確実にその歩みを進めていく。


(なんで……こんな……)


 ヨロヨロとガレキの前に落ちている表札を手にとる。


 何故か僕の名前の部分だけが残り、二人の名は切り刻まれて読めなくなっている。


 僕はその表札を抱えながら、後ろを振り返る。


「何が……何があったんですか……?!」


 皆が僕から目を逸らす。


 この反応は、何があったか知っているはずだ。


「ねえ……教えて下さいよ……!?」


 僕がよろよろと人ごみに近付くと、皆が後ずさっていく。


 そんな中、見知った顔が二人。

 ラーナの両親だ。


「お義父さん、お義母さん……何があったか、知っているんですか……?」


 僕の言葉を聞いた瞬間、義母がせきを切ったように泣き出してしまった。



 なんだよ……泣きたいのはこっちだよ……!

 家を、思い出を、財産を失ったのはあなたじゃない……僕なんだ!



 彼女の涙の理由や意味なんて知ったことではない。


 僕の心の冷静になりきれない部分が、義母に対し、ただ純粋に怒りを感じていた。


「すまない、レイム……落ち着いて聞いてくれるか?」


 そんな憤りを感じていた僕の前に、義父が義母を遮るように立ちはだかる。


「なんですか……どうしてこんなことになったか、知っているってことですよね……?」


 義父の目を覗き込むと、何故か義父は少したじろぐ。


 何に怯えているんだ?

 そんなことより早く家がこうなった理由を――!


「い、今のレイムは冷静さを失っている……。君はいつでも優しく、冷静であっただろう……?」


 冷静……?

……ああ、そうだった。


 父親からも言われていたはずだ。

 男たるものは、いつでも周りを冷静に観察しろと、決して感情的になるなと。


 父のいうことはいつだって正しかったはずだ。


 だからこそ今までだって、ラーナ達と三人で良好な関係を築けてきたんじゃないか……!


「すいません、家が壊れていて……少しだけ、感情的になっていたかもしれないですね。……もう大丈夫です。教えてもらえますか?」


 僕がニコリと微笑んで義父を見ると、彼も少しだけ安心したようだった。


「えっと……その、だな……誰が家を壊したかなんだが……」

「はい、ここまで酷い被害なら、何か大型の魔物でも出たんでしょうか? どうしましょう……今日ラーナ達が帰ってくるのに……」


 僕がラーナの名を口にすると、二人は体をビクリと反応させる。


 どうしたんだ? まさかラーナに何かあったのか?


「その、だな……。もう一度言うが、落ち着いて聞いて欲しい」


 やはりと、僕は最悪の事態を想像する。


「ラーナ達が怪我でも負ったんですか……?!」

「……いや、違うんだ」


 違う?

 なら何が――


「君の家を壊したのはな……我が娘ラーナと、君の妹ジャンネなんだよ……」


 ラーナとジャンネが……?


「こ、こんなときに冗談を……」

「悪いが……冗談ではないよ。二人は馬車に乗って帰ってくるなり、私達に別れを告げ、私達の目の前で魔法を使って、君の家を崩してしまった」


 この人は何を言っているんだ?

 別れを告げた?


 意味が分からない。


 どこの世界に建て替えるわけでもないのに、自分の家を壊す人間がいるっていうんだ?


「娘はね、私達に行ったんだ。『私達は王に忠誠を誓い、心も体も全てを捧げることを決めた。よって私達は過去の汚点を全て清算する。あなた達には肉親の情もある為、言葉だけで縁を切らせてもらう。そしてジャンネは家という財産を壊すことによって清算の代わりとする』ってね」


 本当に……何を言っているんだ……?


 忠誠? 心も体も捧げる? 清算?


 その言葉の全てが僕の頭に入ってこない。

 脳が理解を拒んでいるのかもしれない。


 だって理解してしまったら――


「悪いことは言わない、ラーナ達のことは忘れるんだ。家なら、私達と一緒にしばらく暮らそうじゃないか。手切れ金と言わんばかりに金を渡されてね。一応君の分も預かっているんだ」


 義父の言葉が、遥か遠くの方から聞こえてくる。


 彼女達を忘れろ……? そんなことできるはずがない……!

 二人はどこに……連れ戻さないと……!


「ラーナ達はどこへ行ったんですか!」


 僕は義父の襟を持ち上げ、迫る。


「お、落ち着くんだ、レイム! 彼女達はもう私達の知っているあの子じゃない!『手切れを受け入れるか、死を受け入れるかの二択だ』と私達に迫ってきたんだぞ?! もちろん君も同様だと!」


「う、嘘だ……!」


 彼女達が僕にそんなことをいうはずがーー


 僕は力なく地面にうずくまった。

 眼鏡がカランと地面に落ちる。


「もう良いだろう……? 君は優しいから、今後他にも良い女性が現れるさ。娘のことは悪いと思っている。だが、もうあの子に関わらない方がいい。本当に殺されてしまう」

「それでも……! 僕は……!」


 僕は、ラーナ達を愛しているんだ……!


 雫が地面に落ち、染み込んでいく。


「君が受け入れなかった場合に渡せと、一応手紙を預かっているが……見るかね?」


 義父に差し出された封筒を、乱暴に開け、中身を確認する。


「…………!」


 僕は眼鏡を拾い上げ、すぐさま立ち上がり、大地を駆ける。


「おい、レイム!」


 後ろから僕を呼ぶ声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。


 僕はただ、今来た道を戻り、街へと駆ける。


 手紙には簡潔にこう書かれていた。


『今日一日は町へ滞在する』と。

次回はついに、ラーナ(ヒロイン)の実態をレイムが垣間見る話です。


続きが気になるという方は、いろいろと応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ