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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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Ep.22 新たな取引き






「お初にお目にかかります。ホーソーン子爵家のヨアヒムと申します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」



「初めまして、アシュフォード公爵家嫡男、アーサー・アシュフォードだ」




シャーロットが用意した新しい取引先候補の中に、この『ホーソーン子爵家』の名があった。



確か没落間近だと聞いていたのだが、目の前にいるヨアヒムの身なりは整っている。


仕立ての良い服に、カフスなどの小物も質の高い物ばかりだ。




「……失礼だが、ヨアヒム殿はホーソーン子爵家の当主という事で相違ないだろうか?」




名乗りの際、自分の立場を明らかにせずに家名だけを名乗った事が気になり、私は問いかけた。




「……ああ!申し訳ございません!実は、私は庶子でして。最近、当主候補としてホーソーン家に迎え入れられたばかりなのです」




一瞬、何を問われているのか理解出来ずに呆然とした顔を見せたが、すぐに自分の名乗りが足りていなかった事に気付くと、彼は恐縮して見せた。



……しかし、庶子がいきなり迎え入れられ、公爵家との交渉を任されるとは……よほど優秀なのか、あるいは人材が不足しているのか……


しかも、公爵家の人間を前に自らを『庶子』だと臆せずに明かしている。



貴族の中には『混ざりもの』……つまり、愛人との間に産まれた子を厭忌する者も少なくないが、彼はそれを気にする様子もなかった。


……単なる世間知らずなだけか?




「そうか。言いづらい事を言わせてしまったな。取引の話だが、綿と麻を可能な限り仕入れたいと聞いた。用途を伺っても?」



「はい。実は新しい生地を開発いたしまして……こちらをご覧ください」




彼が従者から受け取った包みを広げると、ローテーブルの上に現れた生地が、室内の光を吸い込んで艷やかに波打った。




「なるほど、これは……」




思わず目を見開き、感嘆の声が漏れた。



シルクのような光沢を放ち、軽く指先を滑らせれば、カシミヤのような柔らかさが伝わってくる……




「綿と麻を使って、これを?」



「はい。独自の混紡比率で織り上げた自信作です!ただ、まだ量産が難しいので、価格帯は少し高めに設定し、限定的な販売を考えております」



「それでは、赤字になるのではないか?」




可能な限りの数を融通するという事は、かなり大口な取引になる。


契約を結んだ後にホーソーン子爵家が破産してしまえば、せっかくの新たな供給先を失う事になる。



それだけは避けたい。




「ご心配には及びません。実はこの生地を独占的に扱う、完全予約制のオーダーメイドドレスショップを設立いたしました。見栄っ張……んんっ失礼、美意識の高い貴族を対象としますので、利益率は十分に確保できております」




なるほど……この男は商売の本質をしっかり理解しているようだ。




「もし契約をいただけるようであれば、アシュフォード公爵家の方々の予約は優先的にお取りさせていただきます」



「……確かに悪い話ではないな。分かった、契約をしよう。ただし、もし事業が立ち行かなくなった際には、その生地の権利は当家に譲渡してもらう」




万が一の保険だ。


最悪、この技術さえ手に入れば、アシュフォード公爵領内で再現し、利益を回収できるだろう。




「承知いたしました!では、こちらが契約書になります!」



「……随分と準備がいいな」




先ほどの権利譲渡の条項を付け足し、無事に締結させた。




「そう言えば、近々王太子殿下の婚約披露パーティーがあると耳にしました。よろしければ、婚約者の方にこの生地を使ったドレスを贈られてはいかがでしょうか?」



「……そうだな。採寸の必要があるだろうから、予定を確認してから改めて連絡する」




ヨアヒムは人当たりのいい笑顔で「かしこまりました!」と一礼し、公爵邸を後にした。






⸺⸺⸺







「……あれが、オーナーのお兄さんっすか?さすが公爵家の嫡男っすね~。にこりともしなかったっすよ?」




馬車に乗り込み、公爵邸の敷地を出た途端。


ヨアヒムは今まできっちりと着ていたスーツのボタンを外し、雑に足を組んで背もたれに体を預けた。




「……ヨアヒム、もう少し慎んでください。あなたは『貴族子息』になったのですよ?」



「いやー、まさか、マジで貴族籍に入れられるとは思わなかったっすよ~。ノインさんが当主なんすか?」




向かい側に座る黒髪の執事、ノインへ軽い口調で問いかける。




「いいえ。私や主が表に出ますと、すぐに露見してしまいますから。当主は別の者にしてあります」




主からの命を受けた際、私の頭の中に浮かんだのが商会の従業員であるヨアヒムだった。


彼は本当に没落した男爵家の庶子である。



平民が貴族を騙るのは重罪だ。


その為、正式な手続きを経て彼を子爵籍に入れたのだ。



つまり、彼が庶子である事も、貴族である事も『嘘』ではない。


ただ、それがホーソーン子爵家の実子ではないというだけだ。




「……でも今度、()()が店に来るんすよね~?自分で勧めておいてなんすけど、あの人を前に平然としていられる自信がないんすけど……」



「……大丈夫でしょう。当日は『小公爵』も同伴されるはずです。でしたら、彼の前で本性を出すような真似はしないはずです」



「……その間が怖いんすけど……」




ノインやヨアヒムは、シャーロットの生家であるローズウェル侯爵家で教育を受けた過去がある。



ローズウェル侯爵家は、代々レイブンクレスト王国の『()』を束ねる一族だ。



彼らは王家ではなく、王国そのものの為だけに存在する。



故に、仕えるに『相応しくない』と判断すれば、その正体を明かす事はなく、協力を要請する事すら叶わない。



かつての王家とローズウェル侯爵家の間で交わされた、強力な『魔法契約』によって取り決められているのだ。



現在、当代の侯爵が正体を明かし、対等な付き合いをしているのは、この世にただ二人だけ……



ヨアヒムもまた、商会に雇われた際にローズウェル侯爵の目に留まり、『影』として訓練を受けた一人であり、ノインの弟弟子でもある。




「そういえば、主からの()()()()への贈り物は届けていただけましたか?」



「はい、ばっちりっす!……ただ、あの薬のうち一つは……」




ヨアヒムが懸念しているのは、もう一つの薬の方だろう。




「あれは、いざという時の為の物です。使わないに越した事はありませんが、相手が()()()()ですので、念の為に準備したまでです」




「なるほど……」と、ヨアヒムは納得したように頷いた。




「……主のドレスやアクセサリーも、準備しないといけませんね……」




馬車のカーテンの隙間から、流れる景色を眺めながらノインは呟いた。



 



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