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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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23/24

Ep.21 直面






今日も皇女(あの女)が、やって来る。




「クララ様、ごきげんよう。今日はお茶の作法をおさらいいたしましょう」




…………また、基本作法。



幼い頃に身に付けたはずのものを、「あなたの所作は、すべて間違いなのよ」と突き付けるかのように、毎日一つずつ、丁寧に塗り替えられていく。




「……はい、承知いたしました……」




離宮の庭園へ移動すると、既に席は整えられていた。


皇女が優雅に腰を下ろしたのを確認してから、私も席に着く。



テーブルの上にはスリーティアーズが置かれ、使用人たちが手際よく紅茶の準備を進めていた。


ちらりと皇女へ視線を向けると、彼女は優美な扇子を広げ、こちらを見て柔らかく微笑んでいた。



緩く波打つベージュブロンドの髪、小さくて可憐な顔立ち……傍目には、()()()側妃を気遣う『お優しく気品のある王太子妃様』に見えるのだろう。



……でも、違う。



皇女は『こちら側』だ。



いつも優しい顔で微笑んではいるけれど、私には分かる。


皇女(この女)の笑顔は、お姉様と同じで精巧に作られた偽物だ。



皇女の本性は、恐らく冷酷で狡猾な人間のはずだ……




…………でも、だから何だというの?



私は『完璧な淑女』と呼ばれたお姉様からハインリヒ様を奪い、舞台から引きずり落としたのよ?



皇女(この女)の方が上手(うわて)だというなら、私はそれを超えるまでだわ!!



供された紅茶に、皇女が先に口を付ける。


毒が入っていない事を示してみせると、皇女はにっこりと微笑んだ。




「さあ、クララ様もどうぞ」



「……ええ、ありがとうございます」




作法通りにカップを摘むように持ち、ゆっくりと口を付ける。




「いかがかしら?」



「……珍しい茶葉ですのね。初めていただくお味ですわ」




素直に答えると、皇女はくすりと笑った。




「ええ、クロンヴァルトから持ってきた私のお気に入りですの。よろしければ、お持ちになって」




断る理由もなく「ありがとうございますわ」と、受け流す。


けれど、皇女が頬に片手を添えて、困ったように小首を傾げた。




「ですが……以前、アシュフォード公爵令嬢……あら、今はトレヴァント辺境伯夫人でしたわね。夫人もこの茶葉をお気に召したようでしたので、少しお分けしたのですけれど……」




「あなたは飲ませてもらえなかったのね」と、言外に滲ませた。




「……姉は……普段、家族とはティータイムを、共にしておりません、でしたので……」




私は俯きながら震える声で答えると、膝の上で拳を強く握り締めた。



その時、皇女の目が細められ、扇子の陰で冷ややかな嘲笑を浮かべていたことに、私は気付いていなかった。





「アシュフォード公爵令嬢。手をテーブルの上へお出しください。俯くことも許されません。ホストに対して失礼です」




皇女の侍女の冷ややかな声で、はっと意識を引き戻される。




「まあ、そうでしたのね。ふふっ、夫人は独り占めしたかったのかしら?」




顔を上げれば、皇女は変わらずに笑みを浮かべていた。



「そうかも、しれませんわね」と、何事もないようにカップへ手を伸ばしたけれど、怒りに震える指先までは隠せなかった。


ハンドルを指で掴むとカップがソーサーに触れ合い、カチャカチャと不快な音を立てる。




「アシュフォード公爵令嬢。食器の音を立てるのはマナー違反です。お気を付けください」




侍女がそう告げた瞬間、私は我慢出来ずに「申し訳ありません!」と声を上げ、ガシャンと大きな音を立ててカップをソーサーの上に戻した。


そして、動揺したかのように装い、悲痛な表情を作りながら目を伏せた。





「……驚いたな。これほどマナーがなっていないとは」




その声に弾かれたように顔を上げ、視線を向けた。


そこには、待ち焦がれたハインリヒ様の姿があった。




「ハインリヒ様!!」




やっぱり、私を忘れられなかったのね!!



私は席を立ち上がり、ハインリヒ様のもとへ駆け寄った。


きっと、以前のように、強く抱き締めてくれると信じて……



けれど⸺⸺ハインリヒ様は私を視界に入れることすらなく、素通りすると皇女(あの女)のもとへ向かった。




「ヴィクトリア、大丈夫か?」



「まあ、ハインリヒ様。心配してくださったの?」




皇女の手を握り、その指先にそっと口付けを落としているのが見えた。



……私は、あんな風に慈しまれたことが、あっただろうか?




「大変なら教育など止めてもいい。どうせ、『表に出ることはない』のだから」




ハインリヒ様は皇女(あの女)を抱き寄せ、吐き捨てるように言った。




「……表に出ない?……それ、どういう……」



「あら?彼女はご存知ありませんの?」




私が零した呟きを拾い、皇女が不思議そうにハインリヒ様を見上げる。


すると、ハインリヒ様はこちらを憎々しげに睨み据えた。




「……どういう事か、だと?自分が何をしたのか、まだ理解していないのか?()()()()君は毒杯を賜るはずだった。君のついた嘘のせいで、王家は一度、正当な婚約を破棄させられたのだぞ?」




そこからは、ハインリヒ様の言葉が上手く頭に入ってこなかった……



一度お姉様との婚約を破棄したから、続けて私との婚約を白紙にするわけにもいかず、かといって毒杯で死んだことを病死としても不審に思われる。




……だから、皇女の『慈悲』で側妃として『置かれている』に過ぎない……



…………何、それ……



私とは子を成すつもりもないし、この離宮から出すつもりもない?…………




……じゃあ、私は何で、何の為に、ここにいるの?……



……何故、こんな無意味な礼儀作法を学ばされて、耐えているの?……




「それは、いつ何があるか分からないからですわ。今学ばれている事は、側妃として、王家の恥にならない為の最低限の『嗜み』ですもの」




皇女はハインリヒ様の腕に自分の腕を添えながら、哀れむような表情で告げる。




足元がガラガラと音を立てて崩れていく……



私はよろよろと、その場に崩れ落ちた。




「……ヴィクトリアが私の正妃になってくれて本当に良かった。セシリアやアーサーは完璧だったから、君がまさか、最低限の作法すら身に付けていなかったとは……」





『セシリア』





その名がハインリヒ様の口から出た瞬間、急に目の前が真っ赤に染まった。


私は俯きながら、気付かれないようにドレスを強く握り締める。




「クララ様、大丈夫ですわ。私とハインリヒ様が挙式をする頃までには、王族として最低限の『形』には整えて差し上げますから」




ゆっくりと紡がれ、反響して聞こえる声……



皇女の顔を見上げた視界が、ぐにゃりと歪み、お姉様の顔と重なって見える……





……ああ、また……またなの?




……お姉様、まだ私の邪魔をするのね?





憎しみと怒りで頭の中が塗り潰され、私はそのまま意識を手放した。






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― 新着の感想 ―
悲劇のヒロインぶろうとも、周りに味方はなし。 気に留める人間もいない。 後は朽ちていくだけ。 まさしく「ざまあ」 無知で愚かで世間知らずのガキのわがままがどこまでも通るわけがないってことが、なんで分か…
ヴィクトリア様、内心大笑いですね。
更新、ありがとうございます! ハインリヒ君、あれ程セシリアに面と向かって言われてても意味が分からんかったんや(笑)。 国王どころか、王太子も向いてないよね。…あぁ……現国王のハインリヒパパも駄目なか…
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