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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第8話 ただただ怖い

 『贄姫』はやはり、生贄以上の存在だった。それが私自身に襲い掛かっていただなんて……知らなかった。『呪詛』とやらが身体を這いずり回っているだなんて、知らなかった。それをジェイク様だけでなく、ほかの方にも見られてしまった。


 恥ずかしいより……怖い。


 死ぬ覚悟は、国が崩落するときにジェイク様の前で一度覚悟したはずなのに。ジェイク様たちがくださったこの温かな毎日を知った今では、大きく変化が表れ……私の中の無関心さがどんどん消えていく。


 王女というよりも、普通の娘のように心が育っていったのか。こんな短期間で、自分でも驚くくらいなのに。


 あれから、刺繍も進まずにベッドにくるまっているしかしなかった。時々侍女たちに心配はかけてしまったが、せっかく淹れてくれたお茶も冷たくなってしか飲めないくらいに気落ちしてしまっている。


 ご飯に行きたくても、ジェイク様のお顔を見たら……また、泣いてしまうのが嫌で行きたくなかった。だから、呼ばれてもいらないと返事をしてしまう。せっかくの美味しいご飯を身体は求めていても、今は怖くて怖くて皆様のところに行きたくなかった。


 死ぬかもしれない。


 それ以上の、迷惑をかけてしまうかもしれない。


 既に迷惑じゃないか、甘えるだけ甘えて。


 などと、暗い考えに悩み続け……とうとう、布団の中でぐずり出してしまう。こんなにも感情を与えてくださった方たちに、なんて迷惑をかけてしまったのだろうか。ジェイク様が今もし来られたとしても、こんな泣き腫らした顔は見せたくない。


 何度か見せてはいたけれど、あの輝かしい笑顔が曇るのは見たくない。お仕事もあるようだから、今も来ないけど……もし、夕飯のときにいない知らせが届いてしまったら、シスファ様か誰か来てしまうのだろうか。


 それなら、ちゃんと顔だけ洗って整えて……と起き上がろうと布団を外す。



「あ。出てきた」



 音も気配もなく、今考えていたジェイク様がいらした。びっくりしてまた布団に入ろうとしたら……剝がされてしまったが、懐に優しく抱きしめてくださった。せっかくの衣装が鼻水で濡れても問題ないと言わんばかりに、私の頬がとんと当たってしまうくらい近い。



「じぇ、ジェイク様!」

「ごめん。困らせる以上に、怖かったんでしょ?」

「……え?」

「侍女たちから聞いたよ。昼間の会話のあとから、さっきの状態だったって。シスファもあれで気を遣っていたのに、それでも怖かったんだよね? あんな痣があるって知ったら」

「い、え」

「ちゃんと言いなよ。怖かったんなら、俺とかが傍にいてあげる。俺の大好きな女の子が困っているなら、泣き止むまで傍にいてあげたい。こうして抱きしめて、髪を梳いて落ち着かせてあげるしか出来ないけど」

「……ジェイク、さま」

「ほんと。魔力が高い理由だけで、自分の子どもに虐待行為していいことなんてない。親なら子どもを幸せにすることが、一番考えなきゃいけない。……俺は、自分の両親にそれを教わったよ」

「……母は、もういません」

「ん。亡くなって……たんだっけ?」

「……はい。小さい頃に」



 あったかい。怖くない。それがとても不思議。


『箱庭』にこもった生活を強いられていたときは、誰も来ずに会話もすることがなかった。お肉のためと牛や鶏に話しかけても意味がないのはわかってたが、声らしきものはかけてた気がする。


 でも、だけど。


 このお城に来て、半月くらい。温かな食卓と気遣われる優しさを知って……欲が出てしまったのだろうか。養育のやり直しもさせてくれて、課題も与えられた。恩返ししたいという普通の感情も出てきた。


 放って置かれずに、適度な距離には人がいるということを皆様に教えていただけたのだ。恩人のジェイク様は、私にかかった『呪詛』を恐ろしくも思わず……こうしてあやしてくださった。魔力が高いだけの小娘相手に、『好き』と言ってくださるのがくすぐったい。


 ただ愛玩とも違う感情なのか、まだ私自身が受け止めきれないけど……今は、その温かさに縋っていたかった。泣き止んだ頃には、わざわざご自身のハンカチで顔を拭いてくださる。至れり尽くせり過ぎではないだろうか。



「俺は君より年上だし、妹もいるから年下の扱いにも慣れてる。けど、レティは家族以上の特別だと思っているから」

「……ありがとう、ございます」

「ん。とりあえず泣き止んでよかった。ご飯行こう? 皆待っているから」

「……はい」



 そのあとに、お腹が音を立てたので……空腹はどうも誤魔化せなかった。ジェイク様には苦笑いされたが、いっしょに行こうとマナーの練習も兼ねてエスコートしてくださる。やはり、騎士の団長という地位にいらっしゃるので、とても優雅だ。私の方が断然小さいのに、うまくサポートしてもらえるのでありがたい。



「おーい。レティ、連れてき」

「団長、おっそい!」



 食堂に到着すると、ナーディア様が腕をジェイク様の顎に突撃させた。当然、ジェイク様はすぐに倒れ、私はナーディア様に縦抱きされてしまう。女性なのに力が強いのが凄いが、ジェイク様の起き上がる方が早いので左右に引っ張られる形になった。



「ナディ? レティをこっちに」

「レティはあたしの隣にさせます! 団長はさっきまで独り占めしてたでしょ!!?」

「いいじゃないか! 俺のレティなんだから!!」

「だーれが、婚約者にさせたんですか!? 同意もないのに!!」

「え?」

「「え??」」

「あ、すみません」



 ジェイク様の婚約者……というのは、たしかに言われてはいないけれど。あれだけ好意的な態度があるので『そういう扱い』ではと勘違いしていたのかもしれない。なので、変な声が出てしまったのだろう。


 しかし、ジェイク様の力が抜けたのか、そのままナーディア様に抱っこされたときに見えた顔は『絶望』と言えるような暗いものだった。


次回はまた明日〜

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