第7話 団長じゃなかった
「……いいんですか?」
レティの部屋から離れてしばらく廊下を歩いていたけど。声をかけてきたのはナーディアじゃなくて、シスファ。おそらく、俺のレティへの気持ち以外を気にしているのかもしれない。
『俺』のことだけどね。
「いいんだよ。今はこれくらいの距離感で」
「だ……殿下は十分くらいに図々しくしてますけど?」
「ナディ? それは言わないでほしいよ」
身分を偽り、態と近づいても問題があまりないような距離感で近づいていたことは……レティ本人にもまだ言えない。俺がこの帝国の第一皇子で将来の皇帝だと知ったら、あんな風に懐いてもらえないかもしれないとなると……。一目惚れは嘘じゃないから! 拒絶でもされたりしたら、本当に困るんだけど!! 俺の愛情はすでに、もうあの子にしか向けられない。だってさ。
(鉈で向き合う子……なんて、今までいなかったしさ)
王族の残りはいないか探し回っていたら、魔力脈が激しく動く箇所を見つけたんで、騎士団とであちこち回っていたんだけど。実際に目にしたら……ぼろぼろの服をきた銀髪の美少女が奥地で生活してたんだ。手には、薪を割るようになのか鉈を持ってたけど。でも、手には鶏の首を持ち上げてたから……捌こうとしてたのか。戦火をもろともしない勇ましさに、俺の心が疼いたのは当然だ。
愛らしさの中の、勇ましさを見てしまったんだから!! 一応騎士団の団長地位は持っているから、それらしい対応で……まあ、連れてきちゃったんだけど。だって、あんな廃れた『箱庭』でずっと生活なんてさせたくなかった。
温かいご飯やお風呂とか知って、ゆっくりと凍った心を溶かしてやりたい。……本当に『贄姫』だったから、魔力脈に関する呪詛はきちんと受け継いでしまってたことは、反省します。
最初に下着だけの格好で見たときは気づかなかったけど、首の後ろに『移動』していたから気づかなかったんだよね? 腕に移動している動きを見て気づけたのも、侍女を頼む前日だった。
「『生きている呪詛』とでもいいましょうか。移動する痣だと殿下が気づいてくださったおかげで、さきほどは腕に移動したのかもしれません」
「あんな毒々しい痣なあ? シスファ、あんたの破邪とかで剥がせないのかい?」
「現状、私でも我が当主でも厳しいでしょう。すでに『瘤』の浄化に向かってはいますが、炙る程度しか効果がないと」
「もっと、破邪の能力が必要か。それ以上……かよ。むっず」
「レティは、絶対死なせない」
「「殿下……」」
枯れた蕾少しずつ手入れされて……あれだけ、自分のことも他人への気遣いも出来るようになったんだ。俺へのハンカチを別の誰かに贈ろうとしていたのを疑ったのは、俺の落ち度だけど。世話していると言っても、最近は側仕えをつけたから俺が可愛がったり綺麗にはしていない。
でも、『俺』を気にしてくれているのには変わりないから……半分監視と偽って、レティの着替えを手伝ってて良かった!! ほかの男に見せたくないから、執事役もつけなかったし? 下着だけでも、ふんわりした胸が凄くてびっくりした。あれは、他所の男になんて当然見せたくない!! 俺だけのレディに育て上げたいのは本当だ!! 父上に進言して、お嫁さんにしたいって強く言ったのが俺自身だもん。
だから……惚れた子のためなら、なんだってするさ。子リスから子ウサギに成長した今だってすっごく可愛くていとおしいもん。
「破邪の能力。実は俺にもあるって、調べれるかな?」
「……首に逃げた、痣だからだと?」
「そうしたら、俺をきっかけに『抜け落ちる』かもしれない。憶測でも、レティの呪いは早いうちに解放してあげたいんだ」
「……レティをそんな早く嫁さんにしたいんですか?」
「うん!」
「「……わかり、ました」」
「……魔力脈のこともだけど。あんな可哀そうな風習。もう絶対に、他国であれさせるわけにはいかない」
どんな理由があれ、民を使い走りにするだけでなく。国そのものと家族を犠牲にしまくる慣習が当たり前だと……それに麻痺して、除け者にされても常識がズレてしまったレティ。
いや、エルディーヌが俺に少し懐いてくれているのは……ヒナの刷り込みと同じだったとしても。ちゃんと向き合って、恩人とかそうじゃない『好意』を俺に持ってほしいとか……いろいろ、俺もずるい性格をしているな。
そんな感じに世話したら、地位とか告げれば妃にするなんて簡単なこと。
わかっているけど、ほかの捕縛した王族は拷問を終えたら処刑されることは確実。ラジール王国の民は、そのままシュディス帝国の民に吸収されるので王宮はもぬけの殻になるだろう。『箱庭』は瘤以上に魔力脈が強い地形だから、簡単には壊せない。
だけど、エルディーヌの身体にある『呪詛』がこのまま内部のさらに奥に根付いたら……あの子は命を落としてしまうかもしれない。俺でわかる範囲の文献で調べたが、『贄姫』は国の繁栄時期とともに命を落としているケースが多かった。
つまり、繁栄が過ぎるどころか『亡国』になった現在ではそれがいつなのかもわからない。安心させるために、シスファはゆっくりと言ったけれど……実際はそうはいかないだろう。
だから、他家の血筋を多く受けた皇族の俺なら……親近感は持たれているし、シスファと同じ『破邪能力』が本当にあれば……エルディーヌを生かすことが可能かも。
俺は、決めたことには一途だ。特に、やり遂げると本気で決めたことには。
婚約者候補は今までいっぱいいたけど、エルディーヌのように殺されてもいいと諦めてしまっていた『可哀想』から育てたいと思った女の子と……出会うのは初めてだった。初めて、一から教えてあげたいと思えたんだよ。飽き性の多い俺が。
だから、皇帝である父上には婚約パーティーは全部蹴るかわりに、皇位継承の英才教育は全部受け直すと宣言したくらいにね?
『……俺に似たな? ジェイクよ』
あとで父上に聞いたけど、母上もなかなかに皇族との婚姻に首を振らない女性だったので……そういう女性を好きになる運命なんだなと親子でため息を吐いたよ。
「ひとまず、『瘤』を浄化できるかどうかから確かめませんと」
「ん~。宮殿の奥にある『あれ』からか?」
「精霊に管理させてるんでしたっけ? 殿下にどーさせんの?」
「いえ。この場合、姫にも来ていただかないと。『抜け落ち』の魔力を与えた方が賢明な処置かもしれません」
「「え??」」
俺だけで解決できればエルディーヌとの結婚とかどうとか……には、簡単に進まないようだ。やっぱり、呪詛というだけあって生贄の姫にも影響ゼロにはいかないらしい。
次回はまた明日〜




