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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第6話 『贄姫』の呪い

 お茶の時間が終わったあとに、シスファ様が『せっかくですから』と話題を切り出してこられた。



「エルディーヌ姫、というよりも『贄姫』の代償をいくつか調べてきました」

「……贄姫、のですか?」

「レティ? あんた、思いっきりやっばいことに関わらせられてたそうよー? 団長も調べてくれてるのに、ここ何日かこもりっきりになるくらい」

「俺のレティのためだからね!」

「勝手に姫を所有物にしないように」

「い゛で!?」



 このやり取りは見ていてはらはらしてしまうが……本気でジェイク様も痛がっていないので、加減はされているのだろう。とりあえず、自分のことなのでシスファ様のお話はちゃんと聞くことにした。



「姫、失礼ですが。『腕』を見ても?」

「腕?ですか?」



 見せたくない理由は特にないが、裾をめくってみると……いつからあったのか、『茨の蔦』のような模様がしゅるりと出てきた? 今までこんな模様というか、痣は見たことがなかったのに?



「……やはり。私のように『破邪』の家系の人間が寄ると出てきましたね」

「……これは?」

「はっきり言いましょう。これは『呪詛』です。正確には、贄姫として継承した者が受け続ける呪いですね」

「……呪い」



 魔力が必要以上に多いだけ。


 国全土の魔力を補うだけの生贄。


 それだけを言い続けられてきた以上に……なんで。


『贄姫』というのはそれ以上の仕打ちを受けなくてはいけないのか。ツン、と鼻の奥が痛くなってきたが、まだ話は終わっていないので泣くのは我慢した。



「魔力脈が請け負う『負の魔力』を、生贄となった人間が逆に……と、古い伝承にあったのです。この段階ですが、エルディーヌ姫の容態はまだ初期段階。保護対象にしたのも……無闇に殺めれば、魔力脈がさらに暴走する可能性もあったのです」

「……そう、ですか」



 そのために、生かされていたのかと……今なら納得が出来る。また戦争の火種になるような『入れ物』を壊せば、この国の存続も危うい。だから、殺さずに生かしている。……あの優しさは嘘なのかと、少し落ち込んでいると。


 温かい腕が、私をすぐに包み込んでくれた。



「呪詛はあったけど。俺はそれだけで、レティを殺さなかったわけじゃないから」



 ぎゅっと優しく包み込んでくださったのは、ジェイク様。力は強くなくても、あの痣のある腕ごと包み込んでくださる。乾きそうな私の心の奥に、優しい雨を降らせてくれるような……いとおしい、温もり。


 甘えたい気持ちがすぐに湧き上がってしまう。でも、それはよくないことだ。こんな眩しい人の好意にただただ甘えていては。呪いが移ってしまうのでは、と私は少しもがくことで拒絶をした。



「だ……め、です。わ、たし……」

「その呪いは、魔力脈に大きく影響していただけだよ。人間には、干渉されない」

「……ですが」

「そうですね。単純に『魔力脈を大きくする』などと、戯言をいったあの豚王でしたが。実は世界全土を脅かしていた張本人はあちらです。むしろ、姫は本当に被害者なのでご安心を。呪いとなっているその痣も解く方法は、ゆっくり探していきましょう。身体全部に行き渡る前に、ですが」

「そーさ。あたしらが利用価値のあるないで、レティと仲良くしてたわけじゃないんだから。泣かない泣かない」

「……ふぇ」



 ナーディア様にハンカチをお借りしなければ、ぼろぼろと泣き崩れていたでしょう。だけどそれより、皆さまが私をただ『贄姫』だったからという理由だけで接していた、のではないことがうれしくて良かったというのが強い。


 これが、感動……という感情なのだろうか。



「俺が『見た』レティの腕の証言だけで、よくその呪い気づけたな?」



 ある程度泣く声が落ち着くころ合いを見ていたのか、ジェイク様はシスファ様に質問されていたのだけど。シスファ様が眼鏡をくいっと傾けて、ジェイク様に詰め寄られた?



「気づくのが遅過ぎます!! 五日前の貴方様の発言がなければ……我が家の伝承を調べ直すのも大変だったんですからね!!? 破邪の家系でも血の濃い私がいるとき限定にしても……この濃さに早く気づいてください!! 命をまだ危ぶむことがなくても、好意を持つ相手には失礼ですよ!!?」

「あ、はい。……すみません」

「魔力脈の『瘤』の各地に行って、浄化の儀式を随時行っていても……贄姫本体だった姫でもこの症状。気づけて良かったですが、『箱庭』から出してこの広がり。間違いなく、呪詛が発動していますね」



 出てはいけない『箱庭』だったのか。


 あそこを主軸に、魔力を抜いてもらってたから。


『抜く』場所が足りないのでは?と思って、私はシスファ様に言ってみることにした。



「あの。『箱庭』に居た時、魔力が抜け出る感覚があったんです。……私の中で作られる魔力を流す場所さえ、あれば」

「なるほど。姫自身から流れ出る魔力が逆に……! もしかしたら、呪いは逆か!? いや、しかし」

「おーい、シスファ? レティにもわかるように言ってあげなよ。あたしもわかんないけど」

「……俺はちょっと、わかったかも」

「マジ? 団長」

「まだ推測程度だけど。……名残惜しいが、お茶の時間はこれまで!! レティ、また夕ご飯まで刺繍頑張って!!」

「あ……はい」



 私がいつ死ぬかどうか、とかは大丈夫らしいので……ジェイク様の言葉に、つい頷いてしまった。ほかのおふたりにも何かわかったようなのだけど、シスファ様は出て行かれる最後までつぶやきが止まらないでいた。意外に個性的な人だなと思えた。



「姫様。お片付け致しますね?」

「お茶はまだいりますか?」



 そして、隣の部屋でずっと控えてくれていた侍女のふたりは何もなかったかのように仕事をしてくれた。……これが、玄人の仕事なんだなと少し感心してしまう。私には、やはり家畜の世話以外大して出来ないからだ。


 なので、そこはちゃんとお願いすることにして、卓に置いたままの刺繍の続きを始めた。

次回はまた明日〜

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