第4話 保護のための生活
ラジールという王国は、シュディス帝国の猛攻により滅びた。
生き残りは、王族はほとんどだけど……私だけはジェイク様の計らいで『保護』の対象となった。というより、『証拠品』扱いとしてすぐに処罰出来なかったらしい。
私の内包された魔力が、国以外の『魔力脈』という魔力を行き渡らせる地脈とやらを大きく暴走させてしまっていたと。それ以外にも、あの父王は他国への貿易詐欺や陰謀計画など色々やらかしていたそうだ。攻め入られたのは、ほとんどがそっちの理由らしい。
逆に、『贄姫』の存在は伝説上のものだと思われていたため、ジェイク様が『箱庭』を確認しなければ私は火の海の中で死んでいただろうと。
だから……とはいえ、何故か身支度は下着以外彼に任せてほしいと言われたときは変な声を出してしまった。
「……武器は持っていませんよ?」
「それは確認したから問題ないよ? ……ん~、やっぱり魔力の内包が凄いな」
どうやら、身支度する前にそこを確認してほしいと……誰かに命令されたのだろうか。それにしてはじっくり見ている目が、優しくてこちらの羞恥心をあおるようで、少しくすぐったい。しかし、ほんの少し見たあとは、本当に身支度を手伝ってくれるようで久しぶりに着るドレスのボタンなどをつけてくれた。
「じ、自分でできますけど?」
「まあまあ。シンプルなデザインのでも久しぶりなんでしょう? 俺は姉とか妹多いから、ちょっと慣れているんだー」
「……ご家族、が?」
「そ。父上の爵位があがってからは使用人も増えたし。今では彼女らにお願いしてるけどね」
「……家族」
実母は早死にし、父は今どこかの牢獄に入っているかどうか。腹違いの兄弟たちとも会ったかどうかの記憶しかない。保護されたのは、除け者の『贄姫』である私だけ。魔力が何倍も多いだけで、除け者にした私だけだ。
でも、ジェイク様はそんなこと気にしないと言わんばかりにボタンの次は髪を優しく梳いてくれた。
「今後のことは、俺たちに任せて。素敵なレディに育ててもらえるように上から許可はもらっているから」
「……処罰、しないんですか?」
「君は被害者、って上もちゃんと認知してくれたよ。俺が見てきたあの『箱庭』の生活は生贄関係なく女の子にさせていい仕事じゃないからね。けど……戻りたい?」
「……いいえ」
あそこにいても、家畜の世話に追われているばかり。
あそこにいても、誰も何も来ることがなかった。
来てくれたのは、ジェイク様だけ。
火の海になるところを助けてくれた、この騎士様だけだ。
だから、救ってくださった以上のことを無理に望まない。連れてこられて三日経ったけれど、ご飯も持って来てくださるのだから、余計に文句が出てこない。
「じゃ、次は俺の部下に会ってもらおうか?」
「部下?」
「俺はこう見えて、騎士団の団長だからね!」
「……そうですか」
「あれ、反応薄い」
「……隊員さんかと思ってました」
「よく言われるけど! レティにまで言われるだなんて!!」
「……レティ?」
「そ。君の名前まだ聞いてないから、呼び名だけど?」
「……エルディーヌ、です」
「綺麗な名前だね? でも、まだレディになる前に呼びにくいなぁ。可愛すぎて、呼ぶたびに照れちゃう!!」
「そ、です……か?」
可愛い、と言われたのはいつ以来だろう。うろ覚えだが、実母が生きていた頃にあやされていたときくらいか。また胸の奥がくすぐったくなったが、言われ慣れていないだけだと深呼吸して落ち着こう。
それからふたりで廊下を歩いていると、少し前から何かがひゅっと飛んでくる音が聞こえてきた。
「団長!!? 姫さんの話し相手長過ぎ!!? まさか、身支度手伝ってたんじゃないでしょうね!?」
血のように赤い髪に、勝気さを表したような大きい瞳。ジェイク様になにか固いものを投げていたようだが、ジェイク様は私を守るようにしてそれを受け止めていた。
「ナーディア? レティがびっくりするじゃないか。砲弾をぶちかますのは訓練場にしてくれ」
「あ? 姫さんいたの?」
「小さいからって、ちゃんと周りをみろ!! レティ、ぶつかっていないかい?」
「……だ、大丈夫です」
「お! 銀髪に濃い青の瞳!! かっわいい!!」
「……ナーディア。私より先に行かないでください」
ナーディア、と呼ばれた女性の後ろから新しい誰かが。銀のなにかをかけている女性だったが、少し冷たい印象を受けた。怖くなって、ジェイク様の後ろに隠れると……その方からは苦笑いされてしまった。
「ん? シスファが怖い?」
「……あ、ごめんなさ」
「大丈夫ですよ。私は同性からもよく怖がられるので」
「こっわい雰囲気引っ込めなよ? あ。あたしはどーう?」
「……え、と」
「ナーディアは馴れ馴れしいんですよ。逆にびっくりされたのでは?」
「あれ?」
私を中心に、誰かが話してくれている。
私のことを、忌み嫌うなどの除け者扱いにしたりしない。
そのことが、すとんと胸の内に入ってきて……代わりに、何とも言い難い感情が込みあがってきて、私はその場で鼻水も気にしないくらい号泣してしまった。
「レティ?!」
「あ~……感情が色々追い付いてない?」
「とりあえず、団長には慣れているのでしょう。保護者申請、再更新しておきますか」
「あ、うん。それは任せた。……レティ? ここで君を卑下する者は完全にいないとは言い切れないけど。俺たちはそんなことしないよ?」
「……は゛い゛」
そこから滞在十日目まで、騎士団の皆様とご飯をごいっしょすることで保護の対象としては最高位をいただき。次は、英才教育のやり直しを始めることになったのだ。
次回はまた明日〜




