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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第3話 『箱庭』での

 九歳くらいになった年か。私は久しぶりに会う父王に『箱庭への生活』を言い渡された。


 当時の私は、頷く以外なにも許されていたなかった。側室の姫、魔力が豊富だから生きながらえているだけ、と周りからなじられる以外……何もかもを受け入れるだけの生きた人形だった。


 母の方は、流行病で私が二歳くらいの頃に亡くなっているから顔も何も知らない。側仕えも私がまだ制御できていなかった魔力に当てられ……怖がるばかり。だから、その生活を始めれば誰にも迷惑をかけない。そのときはそれでほっとしたくらいだ。


『箱庭』は北の塔一角を丸々つかった、文字通り『箱型の牢獄』に等しい流刑地だった。数年前に先代の贄姫が亡くなってからは、放置しまくりの荒れた家に庭。それを全部自分で直すところからしなくてはいけない。幸い、流行病のせいで肉と卵は古いのではいけないからと、ヒナや子牛は与えてもらえた。



(……ここで、誰にも会わずに死ぬのかな)



 子どもとしては達観した考えを持っていたかもしれないが。除け者扱いされていたこれまでを思えば仕方がないこと。心配してくれる親も兄弟もいないとなれば、死ぬまで魔力を吸われるまで生きるだけの場所があるだけでもいいものだ。


 畑を作り、子牛やヒナの世話をし、命の糧にするために……彼らが増えたら殺めては食事にする。養育では循環とか習った気もするが、同族でなくとも命を殺めるのはいい気分ではない。しかし、調理すれば自分の糧にもなるの繰り返しをすれば、その罪悪感もいつか消えていく。


 魔力の方は『箱庭』にいるだけで、国全土に行き渡るとされている以外、特に知らないでいた。家のベッドで眠るときに頭痛を伴ってなにかが身体から抜ける感覚はあったが……のちに、それが魔力脈の異変だというのを知らなかった。


 魔力が垂れ流しになるよりはいいのだと、十五歳になるまでその生活を延々と繰り返していた。誰も祝ってくれないので、感覚で一年を数えていただけだ。父王も兄弟も誰も来ない。それだけの側室の姫なんだなと、はっきり認識したのだが。


 その年の夏に、異変が起きた。


『箱庭』から王城の景色をぼんやり見ることは出来たのだが、煙が濃く立ち上っているのが見えて……なにか火事か襲撃でもあったのかと思った。もし後者なら、私はここで殺されるのか。解放されるにしても、『贄姫』は他国にとって価値があるのかとか考えたりもしたが。



(……敵国だったら、側室の姫でも殺すのが筋合いだろう)



 と思うことにしたが、まだ世話途中だった鶏と牛に構ってやることにした。自分たちの最後に、相応しい馳走を作るのもいいかもしれない。節約し過ぎて、痩せている私の身体など捕虜にしても娼婦には似つかわしくない。一応、王女だから殺されるのが妥当だ。なら、たっぷりの馳走を喰らって最後は突かれてでも殺されればいい。


 などと、来訪者が来るまでそんな楽観的なことを考えていたのだが。



「……君が、贄姫?」



 これから鶏を捌こうというときに、どこかの騎士らしき男性が鶏舎にやってきた。『箱庭』とはいえ、庭園でもなんでもない『囲った家のあるとこ』なので、彼も驚いただろう。側室でも魔力保持者の王女が肉を捌こうとしているだなんて。


 答えたら殺される……くらいには、覚悟を決めていたはずなのに。にこにこと優しく微笑む暗い金髪の男性の笑顔に頷いてしまった。誰かと会話も久しぶりだから、本当に頷いたのだ。



「そうか。こんなとこで、市民以下の生活を強いていた。……さっさと捕まえて正解だったな、あの豚王」

「……父、のことですか?」

「あ、そう。君とは似てないけど、あれ親だったんだ」



 何年かぶりの会話。父の情報は知らないでいたけど、昔は少し太っていた記憶はあるが……豚とはあれか。育て難いが、という理由でここにはいない畜生。でも、美味しいとは聞いたことがあるようなないような。


 とりあえず、つかまったというのであれば……鉈を地面に置き、私は出来るだけ低く腰を落とした。



「……たしかに。ここにいるべき『贄姫』として生活していました。父の罪を問うのであれば、娘の私も同罪。……殺すなり、お好きにどうぞ」



 この生活が好きかと言われると、否と答えたくなる。雑務も多いし、水は汚いし、ただただ魔力を吸い取られる以外は何も出来ないのが悔しくて堪らない。その感情を内側に閉じ込めていた分、ここで終わるのなら終わってほしい。


 それが騎士様の大義名分になるのならいいのではないか。他国の姫を殺せば、褒章とやらも入るかもしれない。足りない頭で考え、しばらく待っていたのだが……触れたのは剣の冷たい感触ではなく、頭には大きな手が髪を撫でてくれただけ。



「こんな可愛い子に、そんなこと言わせるだなんて。……殺さないよ。話を聞く必要もあるけど、君はどっちかと言えば被害者だ。ちゃんと保護してあげる」

「……ほ、ご?」

「姫らしい生活はともかく、普通以下だよ。こんなの。俺が、それを叶えてあげよう」



 と言って、さっと身体を持ち上げられてしまう。びっくりしてじたばたしかけるのにも、じっとしているように言われたため……墜ちた国側の人間だから、そこはすぐに大人しくした。城は最後に焼け落とすとかで、あの『箱庭』にいた畜生たちも終わりなのだろう。


 でも、食べられるよりは静かにお休み……と今なら思えるかもしれない。勝手なことだけど。


 それから、本当に衣食住を守ってくれて十日。ジェイク様とのやりとりが落ち着いたのも、そんな感じだった。

次回はまた明日〜

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