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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第29話 嘆くのはなにか

 あの魔族が焦るように消えてから……俺とか、工作部隊は『箱庭』に向かったんやけど。まあまあ、面倒な事態になっとるで!? 魔力脈の瘤にあったそれの本体かといわんばかりに、溜め込んできた魔力をふっとい触手にして、山脈になんとかくっついとるからな!!



(これここで壊す。のは簡単やけど、瘤の方にあるらしい『卵』とかみたいなのが中にあったら)



 面倒。超絶面倒。土地ごと破壊して、はいこんにちはとかやりたくない!! 工作部隊に炎帝の能力者とかがほとんどおらんのが厄介やった!! ここで観察している間に、あの魔族かほかが戻ってきたらさらに面倒!!



「……どうすっか」



 隊長の俺がこんなぼやきしている場合じゃないのはわかっているんやけど。俺や工作部隊の基準の能力が『閃光』なのがこの場合痛手に出るとは思わなかった。監視とか観察は出来ても『破壊』には不向きな任務。


 騎士団の誰かさんとか連れてきた方がよかったが、向こうの方が今回重要任務なのだから抜け出させることなど出来ない。とにかく、自分たちでなんとかするしかないと思うしかないのだ。陛下には『できれば、破壊込み』の任務と言い渡されていたが魔族絡みだと厄介過ぎて……マジで死ぬかもしれん!!



(あと、区画くらいあるとはいえ……そこそこ屋敷くらいあるな)



 うね、うね、と触手で山肌にへばりついている『箱庭』と呼ばれた土地。


 見える範囲だと、獣かなにかが蠢いているようにも見えたが黒いところを察するに魔物かもしれへん。贄姫に毒の獣、つまり魔物以下のそれを食わせていたとなれば……ちらっと見たけど、あんなかよわい姫さんに親以前の虐待しとったんやなあ? ラジールの元国王とその関係者。


 正確には魔族の意向とは言え、この中の『胤』を出したくないためにラジールの中に匿っていた。北の山脈が近いことから……魔族も気やすいとなれば、数百年前に討伐された『魔王』の復活のために、近いとこの人間を利用して代々育ててきたのか? 『胤』そのものを。


 今それが、贄姫に継承されていれば、この『箱庭』を壊して問題ないはずだが……まだ魔力が満ち満ちているために、周囲の被害損傷とかが想像しにくい。工作部隊なので、それくらいは考えんといかんからな?



「……隊長。破壊できるだけしてみます?」

「気持ち悪いし、見たくないっすよ。これ以上」

「待てや。俺かて考えるんに時間かけてる。……ただ、破邪と炎帝いないのが痛いわ」

「少しだけ……の能力者より、本家側に近い方がいいですもんね」

「土地全部焼き尽くす……はちょっと」

「「「ああぁあああ~~」」」



 知恵を瞬時に出し合うのが得意な部下らでもこの結果しか出せない。それくらい、目の前の障害物は面倒極まりない代物なのだ。


 だが、そんな連中でも瞬時に感知した殺意に気づき、苦無を明後日の方向に投げまくったのは流石や。



「ほう? わずかに出した殺気だけで気づいたのか?」

「めんど! あたし、向こうに行っていい?」

「少しは手伝え」



 上空に浮かぶ人間にも見える個体ら。


 苦無を素手で掴み、その辺に投げ捨てたら地面を穿った力量。


 つまりは、さっき来た魔族よりも面倒な魔族のおでましってことか。予想していたが、さっき以上の強者は勘弁してほしかったのに! まあ、それでも死ぬ気はさらさらないがな。



「なんや。新手の引っ越し業者かいな?」

「は? なんか美味そうな匂いしているけど、好みの男じゃないわね?」

「結構。俺もおばさんとか嫌やわ~」

「……殺そうか!?」

「あはは。嫌や」



 能力で間合いを詰めたが、反射神経がまあまあいいのかで苦無は弾かれた。ほかの部下らは男の方を対応していたが、まあ似た扱いをされてしまっとる。はっきり言って、こいつらさっきのナルシストの坊ちゃんより断然強いわ!!



「強くもないけど、弱くもない。『箱庭』はこんなだし……やっぱり、贄姫ちゃんのとこに行くべきだったじゃない? わざわざ心配して引き返してきたのに、意味ない」

「そうは言うが。一度確かめておくべきだった……」



 姫さんとこに本来は行くつもりだったが、『箱庭』の方を心配してきた……か。どっちがいいかとなれば、囮にもなる俺らの方が本来の任務としては得策やんな? 生きて城に戻れるかどうかの保障は全然ないが!!



「行かせんで、姫さんとこは」

「あら? まだ相手してくれるつもり?」

「騎士団ほどやなくても、裏の仕事はいくらでも引き受けるのも俺らの仕事。ま、綺麗な殺しなんてしたことないんでな!!」



 脚が少し焼けるのを覚悟して間合いを詰めたところ、やっとだが首根っこを傷つけるくらいは出来た。これくらいの不意打ちくらいしないと出来ないとは師匠らにげんこつ喰らわされるわ。



「ちょ!? 痛いじゃない!!」



 しかし、人間じゃない魔族には大したダメージにはならないのは承知の上。ここに畳みかけるようにして部下らも連中の隙を突くのが本番や。男の方もいくらか焦ったが、空中で跳躍したふたりはこっちと距離を開けてから退散してくれそうや。



「覚悟の覚悟くらい、とっくの昔に捨てたんや。卑怯くらいええやろ」

「むっかつく!! お前、殺したいわ」

「へーへー。殺せるか?」



『箱庭』が近いことで魔力脈が通じている。能力者にとって、逆に好都合過ぎた。多少脚は痛いが、能力を補う魔力はいくらでも使えて……逆に足が軽いくらい。この場合、『箱庭』の破壊は出来なくとも敵さんを応対するくらいは、なんとかなりそうやな?


 出来れば、炎帝のナーディア姉ちゃん来てほしいが……あん人は、今姫さんの護衛やし? あのレベルの炎帝の能力者くらいはこっちに誰か派遣して!! 持ちこたえたいけど、どっちかにはこいつら居るしな!!?

次回は木曜日〜

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