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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第24話 『箱庭』の虚

 ほかの『閃光』の能力者を持つ連中に待機しとけとは言っといたが……いやはや、目星つけてた場所がラジール王国からそう離れていない位置に『隠して』いただけだった。



「国関係なく、人間でもない。『魔族』ですかいー」

 

 

 別の部下が殿下らのとこに潜んでいたものの、疾鳩の式手紙で知らせてきた内容は最悪極まりないもんやった。あちらでの『悪魔の卵』は無事に破壊できたものの、それ以上に厄介な面子が出没。


 贄姫の中には『魔王』。


『魔王復活』を崇拝していた『魔族』の暴走。


 後者が特に面倒で、破邪の筆頭候補でもあるサファス女史だけでも対応しきれるか怪しいとの知らせ。自分が出向きたいところだが、発見した『箱庭』をこのままここで放置しておけば、ほかの部隊らで魔族が来ても対処できるか難しいときた。



(勝手な推測やったけど、『胤』がこん中にめちゃくちゃあったのが……ない?)



『箱庭』に植え込まれた『胤』を代々の贄姫の宮腹が受け継ぎ。それを育ててるために、成熟期を計算してたとしたら?? シスファ女史んとこにいる魔族が下っ端であろうが贄姫の誘拐企ててここに連れてくるかもしれん。



「引き合わせたら、あかん。絶対に」



 聖と聖でふくらませることで浄化を促すならまだしも。今回は魔が強い分、贄姫の生を食わせることで魔王復活を狙うのが魔族らの本命や。そんなこと、させたらシュディス帝国以上にほかの近隣の友好国や同盟国があっちゅーまに滅亡するだけに終わる。


 それをさせんためにも、シスファ女史らには悪いが耐えてもらうしかあらへん。こっちはこっちで俊敏さが売りでも……ほかがほとんど出来んのに等しいんや。あんさんほどの破邪適応者はここにはおらん。雑魚でないにしても、有能性を問われれば格下に近い。


『箱庭』は切り離された部分から粘着性の高いオレンジ色の濃い蜜を流し、壁になる岩肌へと自分をくっつけようとしていた。おそらくだが、切り離したところへ戻るつもりかここへと根付くつもりか。


 どちらにしてもよろしくないことに変わりないが、近隣に魔族が潜んでいるかもしれん。下手に動いて死ぬのは、任務遂行しとらんのに絶対あかん。



「なにとなにを引き合わせちゃだめだって~?」



 耳元近くに、生ぬるい呼気を感じた。


 懐から苦無を取り出し、横に投げたが岩に埋まっただけに終わった。だが、呼気を出した相手が姿を見せてくれたのか……いやに、小柄な美少年のお出ましやったわ。声高いのに、女ちゃうんかい。



「……魔族か?」

「え~? 俺の正体もろばれ? あぁ、さっき飛んできた手紙の中身?? 向こうのドアホが何かしたんだもんねー?」



 ここ数十年で発見すらされてこなかった、『魔族』。魔力の質と量以外、姿かたちは調整すれば人間となんら変わりないし、言語も通じる。魔王の配下……だったかの曖昧な記録しか残っとらんけど、変に美形過ぎて気持ち悪いわ……。


 自分の特性苦無の上に片足で乗るあたり、身体能力が高いことは承知。下手に投げれば、避ける以外の行動もとる可能性があるから……変な間合い出来たやんけ。しんど!



「……ぺらぺらしゃべってくれるあたり。なんや、話し相手ほしいん?」

「ご名答。俺ひとりで、あの『箱庭』を維持するの大変だもーん。自分で移動しようとしてるけどぉ? 姫ちゃんいないのに、どーしろと? そのために貯めてきた魔力使いたくないしー」

「……ほぉ。よーくしゃべってくれるな」

「そっちもほとんど似たこと考えているでしょー? 俺の相手したら、すぐ死んじゃうじゃない? 人間って、もろいもん」

「もろいはもろいなりに能力はあんで?」

「速いは速いけど、能力全開したら焼けない? 足」

「……しっとるんか?」

「俺、これでも二百年以上は生きてるもんで」



 能力解放には、封印具を外せば全開可能とも言われている。しかし、破邪の場合は『眼』とされているが、閃光は魔族が言った通り『足から焼けて』しまうので最後の手段とされているんや。普段から結構鍛えとっても……こんな坊ちゃん魔族に避けられるって、まだまだやな。ほかの部下が来ないあたり、こいつにやられたかもしれんけど工作員としての責務として……陛下に式手紙は飛ばしたはず。


 それを信じて、ここで足搔くしかないか? 『箱庭』奪還のためにも。



「けど、はいそーですかにならんわ!」



 両手に構えた苦無を魔力で操作しながら仕掛けたが、どこをどう刺そうにも避けられてしまう。小童以下の自分でも、結構魔力操作には自信あったんやけど!? この坊ちゃんにはあかんのかい!?



「げ、最悪。お気に入りのマント破けた」



 体にはダメージないけど、気に入りの服が代わりに受けた方が嫌だったんか……目力強くなった!? こっから反撃は、苦無よりは……と、組み立て棍棒を準備して構え直した。



「……意外と、おしゃれさんやな?」

「そりゃ? 魔王様に褒めてもらいたいんだもん。……胤が向こうにあるからさっさと行きたいし、死ねば?」

「ぐっ!?」



 魔力弾くらいの閃光と衝撃でぎりぎりこらえたが、棍棒がないと弾けないと予測しといてよかったわ。とはいえ、それで逃げたいうか向こうと合流したい感じだったのか……あの坊ちゃんの姿がもうなかった。


 とくれば、こっちはこの隙に『箱庭』をなんとかするしかない。さっき、『胤』とかどうとか言ってたんなら……姫さんをここに戻さないように、陛下の許可ないけど破壊したるわ!!



「隊長! ご無事で!!」

「自分らあの戦闘を見て近づけなかったんで!!」

「……あ、そう」



 部下らは殺されてたわけではなく、自分なりに防御策でこの近くには待機しとったらしい。んなら、式手紙は確実。今から『箱庭』破壊決行と指示を出せば……当然、あいつじゃない魔族と遭遇は絶対やったわ!!?


 ただ、めちゃくちゃ強くもないが弱くもないので完全な足止め雑魚やったけど……シスファ女史ら、すまん! 頑張って!! としか自分らには出来んわ!!

次回は土曜日〜

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