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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第23話 病みつきは危険極まりない

 予想外の覚醒とかのせいで、あたしは簡易的な牢獄に押し込められていた。


 まったく、嫌になっちゃうわね? 『胤』が自我を持ち始めているだなんて……しかも、毒されたのか寄生しているはずの贄姫に似た感情を抱いている? 『魔』が『善』に傾いているですって?



(冗談じゃないわ!!)



 あたしたち、魔界の存在が何十年、いいえ何百年以上も贄姫の魔力を繰り返し繰り返し与え続けて……やっと、今代で『胤』そのものが成熟してきたと報告があったんで『箱庭』の移動のために豚王を消そうとしたけど。


 器である贄姫をシュディス帝国に預けたのが面倒だったわね? まだ半月くらいで器の内側が育ってきてしまっている。その影響で『胤』も感化されたのか、魔界側を拒否するだなんて!!



(ぜぇっったい、ここから出てやるわ!!)



 さっきは油断したけど、今はあの姫さんから吸い取った魔力が馴染んでいなかったせいで動きが鈍っていた。今は時間が経ったことで、少しずつだけど濃い魔力に変換されている。これなら、と縄をまず焼き切ったあとに立ち上がったんだけど。


 それがいけなかったのか、全身が酷い痛みに襲われ……床の上に再び倒れてしまったわ。



「ぐ!? がっ!!?」



 外の騎士らに音が聞こえただろうから、『どうした?』とか悠長な言葉は聞こえたが気にしている場合じゃない。全身を巡るあの姫さんから奪った魔力が蠢いているのか、あたしの腹部に集まろうとしている? まさか、さっきは向こうの味方とか言っときながら『あたし』に寄生した? 魔力を吸いだしたのは、あの『彼』が出てくるよりも少し前なのに?



『いいや。我らはあれとは違う』



 痛みに耐えている間に、意識が遠のきそうだったけど。あたしの考えを否定する『声』が聞こえてきた。ひとりどころか複数も。濁声のようでいてうまく聞き取りにくいが、あたしの考えを何回も否定していたわ。



『あれは、たしかに『魔王』。しかして、我らを捨てた『魔王』の魂そのもの』

「すて……た?」

『そう。我らはぬしらが求める『魔王』の一部』

「そ……な」



 贄姫を据えさせ、器を育て。『魔王』を育てる儀式を何百年もかけていたのに。かつて滅んだ『魔王』が転生を拒んだってこと?? あたしら、魔族が何百年もかけて『箱庭』に貴方様の核を埋め込んでいたのに??



『だからこそ。『胤』が育ってきた今……お前を供物にしよう』

「……は?」

『贄の魔力を喰っただろう? 男だろうが、苗床にするには充分』

「が!?」

「なんだ!!?」

「なにかしているのか!!?」



 激痛と大声が同時に響きわたり、さすがに外から見張りの騎士らがきたようだけど。



『「我……魔の一端」』



 あたしの意識なんて、外の外に追いやることくらい……簡単だったようね、魔王の一部とやらは。男のあたしでも、魔族だから苗床にはしやすい。あの贄姫の魔力はたしかにおいしかったから……病みつきになって結構吸ったけど、自分をこんな犠牲にするとは思わなかったわ。肉体変化をあっという間に変貌させるくらい、触手やもろもろ気持ち悪い状態にさせて騎士らを襲っているもの。



「くそ!? なんだこいつ!!?」

「さっきまでなんともなかったのに!! 誰か! 団長たちを呼びに行ってくれ!!」

『「ぐははは」』

「「ああぁああ!!?」」



 魔族の身体に人間の技が普通効くはずがない。能力者じゃない限り、ね? あの炎帝のお嬢ちゃんくらいなら別でしょうけど、ふつーのなーんもない素人が武力だけで壊せると思う? 逆に喰っちゃうのが魔族よね? 魂の一部になったあたしだけど、この調子だといずれ吸収されちゃうのかしらん? 魔族としてなら……至福の感情よね? ふつーは。


 それが本物の魔王の一部に喰われてしまったの、『彼』を見たあとにはなーんかむしゃくしゃするけどぉ。利用されるだけ、利用されてない? あ・た・し??



『「に、え……姫!! どこだぁああああ!!」』



 喰いたいだけ喰いたいのかしら? 『彼』を引き戻そうとするのに、器の贄姫まで喰いたい? たしかに、この感じだとそうよね? 本体があの姫さんの内側よりもさらに中にいるとしたら……だけど。



「怯むな! 姫を守れ!!」

「贄だろうが、姫は渡さない!!」

「破邪の者はいるか!!?」



 短期間なのに、随分と慕われちゃっているわね。あのお嬢ちゃん? たしかに、哀愁漂うとこに付け入れば……だけど。騎士たちを奮い立たせるには充分な要素を持っていること。だから、魔力脈の瘤とかの成長が早かったのね? 毒獣を食べるスピードは遅かったけど、『育てる』に関しては魔王の『胤』から『箱庭』を経由して流れていく魔力は極上の味。


 あたし以外の魔族がここに到着するまでの時間はどんくらいかわかんないけど。このまま、瘤も壊したここで臨戦態勢?? 贄姫を逃がさないためとは言え、面倒なことをするのね?



「はっ!」

『「ぐっ!?」』



 あたしに痛みは届いていないけど、喰われた肉体にはなんか変化あったみたい? 外野からの確認だけど、あの封印具を身に着けていたお嬢ちゃんがやってきたようね? 破邪の中でも次代候補筆頭……ってところかしら? 眼鏡だった封印具を武器に変換しているんだもの。あら、もっとちゃんと戦いたくなるじゃない?


 どうせ、死ぬなら。


 その意識が肉体へのリンクをうまく繋いでくれたのか、『魔王』の一部の意識が逸れて『あたし』になったわ。痛いけど、『彼』とあの皇子様とかにぼこぼこにされた程度ね? 喰われたから、魔族としての死滅は避けられないけど……ほかの魔族が来るまでの時間稼ぎくらいいいでしょう?


 だって、魔王の『胤』を改心させられることはほかの魔族にしかもう出来ない。中間職のあたしより、もうちょい上の御方らにお願いするわ。あたしはここで堰き止めるくらいしか無理だもの? 

次回は木曜日〜

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