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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第22話 仔ではない『胤』

「はい、レティ。サンドイッチ」

「……ありがとう、ございます」



 野営といっても、少し離れたところに暖を取るための焚火をする以外はピクニック程度の準備だ。


 もともと、瘤の中の卵破壊を終わらせたら、観光名所を回るのがついでだったらしいが……ついさっきのことで、そうもいかなくなってきた。ジェイク様から美味しそうなサンドイッチを受け取っても、すぐに口に運べない。


 あの気色悪い男がべらべらしゃべっていた話がまだぐるぐると、頭の中を回っているようで気持ちが悪かったから。



「……推測のひとつ、は当たってしまったかもしれません」



 シスファ様たちにもサンドイッチは行き渡ったが、手をつけようとしなかった。いつもなら、先にかぶりつくナーディア様でもだ。



「『タネ』ってなんなのさ? まさか、『子種』じゃないよね?? 失礼だけど、レティは清い身のままだろう?」

「清い?でしょうか?」

「あ、まあ。簡単に言うと、誰も男と寝てないよね?」

「寝て……?ない、と思います」

「寝てたら、相手の男ぶっ殺す」

「団長こっわい!! けど、月のものもちゃんとあったし、寝込み襲われてないぽいね。だとしたら、違う?」

「こちらも言葉足らずでしたが。その話を聞けて少し安心しました。『胤』とは子種のことを忌み嫌う言い方ですが……おそらく、贄姫に継承させられた『呪詛』の中で育った子種のことを意味します。なぜ、瘤の中に悪魔の卵があったかもこれではっきりしました。親になる魔力が贄姫の呪詛そのものだったのです」

「私が、親ですか?」

「呪詛が、です。姫自身は魔力が美味しいということで栄養になっただけですね」

「……でも、さっきまでの『俺』は?」

「そこは今すぐに解明出来ません。ですが、こちら側の味方であるのならひとまずは安心できます」



 『俺』は何なのか。私が母親であることを望み、ジェイク様に頼み込んでいたのはなにか。


 ジェイク様を見ても、会話にあまり参加せずにサンドイッチも食べずに考え込んでいらっしゃるだけ。笑顔は当然ないが、その……何故だろうか。いつものへらっとした笑顔がないと、すごく違う人に見えてしまう。怖いとかそうではなく、目元などに口づけをくださったあの甘い雰囲気に近いような? 勝手なことだが、そんな表情に興味を持ってしまう私はおかしいのか。


 だけど、胸の奥が温かい以上に焦げそうだ。昔、火をつけるのが下手でやけどしたときのようなあの感じに近い。ずっと見つめていたらさすがに気づかれたけれど、ジェイク様は口元をゆっくり緩めただけだった。



「お腹空いてない? あ、お茶の方がよかった?」

「あ、いえ。……いただき、ます」



 気持ち悪いとは思われなかったらしいが、柔らかい笑顔の甘さについ、サンドイッチを食べることで見つめることをやめた。大好きな卵を使ったサンドイッチのはずなのに、あんまり美味しいなどの味がしない。ゆっくり食べても同じだったが、きっと緊張しているだけだと思うことにした。ジェイク様たちも軽く腹ごしらえするかで食べていたのを見れば、少しずつ味も感じ取れるように。


 ふわふわで、しっとりしていて、少し酸っぱくて甘い。なんの味に近いかは知らないのでたとえられなかった。



「俺の!」

「あたしのですよ!!」



 私は二、三個でお腹が満たされたが、ナーディア様とジェイク様が最後のサンドイッチを取り合うのに言い合ったりもしたけど。



「姫の前ですよ? 食べる食べないなら、エルディーヌ姫にお渡しするのが一番です。召し上がった数も少ないんですから」

「あ、いえ。お腹はそれほど」

「まだまだ少ないですが、入りますか?」

「……そう言われれば、はい」

「では、このサンドイッチは姫のです」

「「あぁ!?」」



 お肉のサンドイッチだけど、自分で以前調理したときのようにぱさぱさしていないし、食べやすい柔らかさで美味しかった。たしかに、この味ならジェイク様たちが取り合いになるのも無理はないかも。


 話の再開は馬車に乗ってからで、今度はナーディア様も一緒だった。



「で? レティの魔力が悪魔の卵たちを『生かすも殺すも』出来るってわけ?」



 いきなりの切り出しだったが、ナーディア様もあの男の話を聞いていたから……観光は取りやめになったが、お城に戻るまで護衛として同乗されているかも。あの男は出てこないが、ほかの『敵』が出てくるかもしれないし。



「……そうですね。毒にも薬にもなる、という言葉が正しいかもしれませんが。姫の魔力は瘤を作るだけでなく壊すことも出来ます。悪魔の卵もこれで破壊可能と立証されました。ですが、『胤』の方は厄介ですね。悪魔の卵が一部でも孵ってしまっていたら……親の魔力を求めに、帝国への侵入を目論むのが連中の真意でしょう」

「レティがいるからかい?」

「はい、団長。贄姫を最終的に『喰わせる』が目的であれば」

「絶対させない。けど、簡単にはいかないか」

「ややこしいね~」

「そのとおりとしか言えないですね。しかし、姫の中から出てきた……『彼』の正体がいまいちわかりません」

「……私も、初めてです」



 嫌だと思って、変わってくれた『俺』。


 生まれるのであれば、私がきちんと親であることを望む。


 相手は誰とか決めてはいなかったけど、私に旦那様が出来るなんてあり得るのだろうか? 皇帝陛下に保護されているだけで、地位とかは特にないはずなのに。国民にしてもらっているとも違うから、帝国の誰かといっしょになるなんて……いいのかな?


 もしそれなら、とジェイク様を少し見れば。ちょうどこっちを見ていたのか、互いの視線ががっちり合い……すごく、優しく目元を緩めてくださった。そのあとに、隣の席にいるからかナーディア様たちに気づかれないように私の手を握る。手袋越しなのに、熱い。伝わる熱が、しびれるようになったが甘いと思った。

次回は火曜日〜

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