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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第20話 『おでかけ』再開

 今度はきちんと訪れることが出来た、ルリルア湖畔への『おでかけ』。


 以前のように、お腹が痛くなることも気分を損なうこともなかったのはうれしい。月のものについては、基本的に月に一度ということでその名がついているらしいから、余程のことがない限りあの出血はないようだ。それについてはほっと出来た。



「レティ、そろそろ着くよ」



 馬車の座る位置は前回と同じ、右にジェイク様で左にシスファ様だった。馬車が止まるまでも、何も起きず。降りるときはジェイク様たちの手を借りて、こけないように踏み台からゆっくり降りたが。


 目の前に広がる、新緑と澄んだ青の水辺を見てため息を吐いてしまう。ジェイク様はふふっと笑ってくださったが、私の手をつかんだまま少し水の方へと近づいていく。



「目に見えるこれが湖畔のすべてじゃないよ? もっと広くて奥の方まで続いているんだ」

「……水たまり、ではないですよね?」

「湖に、近いかな? 周りには木々多いし野生の魔物や獣も生息している。瘤のある場所は別だけど……痛みは本当にない?」

「はい。今は大丈夫です」



 何度も聞かれるが、何度も答えるようにしないといけないのは私のためだ。魔力脈の瘤とやらは、呪詛の一部がふくらんで出来たもの。それの原因を作ってきたのは、私の実の父。


 瘤の中に『悪魔の卵』をつくってしまうくらい、『箱庭』は神聖なものではなく、害悪という最悪の事態を起こす土地と化してしまった。私の中に『痣』である呪詛が継承してしまったことで、それがどんどん膨らんでいき、帝国に攻め入られても間に合わなかった。


 罪滅ぼしになるかわからないが、各地の瘤もとい『悪魔の卵』の破壊を可能に出来るのも私の魔力。今日は沁み込ませた『玉』を使い、ここの瘤を破壊しに来た。以前の作ったものはシスファ様のおうちの方が別の場所に向かわせているらしいけれど……うまくいったかの報告がまだない。


 だから、今日は今日でこの場所で再挑戦したかった。


 シスファ様が先頭となり、案内していただいた場所は湖の側にあるちいさな祠のようなところ。扉を開けば、きれいに見える結晶の塊が入っていた。大きさは私の顔以上にありそうだ。



「……まだ小さいとは言え、中に『卵』があるのかもしれません。エルディーヌ姫、玉をお願いします」

「はい。ここに」



 馬車に揺られている間握っていたので、ゆっくりと一滴以上の魔力を染み込ませたのだ。どれくらい効能があるかはわからないが、魔力脈がもとに戻るのなら使ってほしい。眼鏡を外したシスファ様の隣にはナーディア様が。私は少し離れてジェイク様の後ろで待機だそうだ。


 目の前で起こることに目を逸らすつもりはないが、少し以上に怖い思いをするかもしれないと言われた。それでも、私の魔力が原因で起きるたことならば……自分の魔力でどうにかしたい。浅はかな願いでも。


「……では」


 シスファ様が濃いオレンジになった玉を瘤に触れさせようとする。そうしたら、中身が割れるそうだが……玉が勝手に浮かんで、祠より少し上まで飛んでいってしまった!?



「あんらぁ? 贄姫の魔力じゃなぁあい? お・い・し・そ~」



 男性の声だが、変な女言葉を話していて気持ちが悪い。ジェイク様は剣を抜いて、片手は私を守るように抱き込んだけれど……くすくす笑う声はまだ聞こえている。シスファ様たちも剣を抜いて姿を探しているようだが見つからないらしい。


 玉の動きをよく見ていると、何もないところから手足が表れ……緑の執事服を着た男性が宙を浮いていた?



「一個壊れたって聞いてたけどぉ? 順番に壊すのをただ黙っているわけにはいかないわぁ。贄姫の魔力は、悪魔以外にもご馳走だものー?」



 気持ち悪いしか浮かばないが、ぺらぺらといろんなことを話す人間だ。れろれろと舌を唇回りで動かすのも気持ち悪いが、玉を奪ったままなので返してほしかった。あれは、ここの瘤を壊すのに作ったものだから。



「……返してっ」

「あんらら~?? 貧相な顔立ちだけど、歴代の贄姫にしちゃいい方ね? 呪詛がちょぉっと薄れているし、なに? ラジールの馬鹿王とかに回してた『毒獣』の毒素抜けてきた?」

「「なっ!?」」

「レティに……毒?」

「そうよん? 贄姫の魔力は本来『聖』を司っていたけど……何代か前にあたしとかが加わってから堕としたのよねぇ? 精霊に捧げるくらいなら、悪魔精製に捧げるのはどーぉって?」



 だから、と言いながら……そいつは玉を自分の口の中に入れ、すぐに嚥下するように飲み込んでしまった。



「飲んだ……?」

「あ~……、お・い・しっ!! けど、少しスパイス足りないわねぇ? 帝国に流さずに引き込めばよかったわん。堕ちた魔力の味がすこーし、うっす~い」

「……どういうこと?」



 帝国がラジール王国を攻め入った理由は私の父が誤った政治をしていたせいもあると聞いていたものの、この男の言動からするとそれだけではないような気がした。


『箱庭』と『贄姫』両方を得るための、ただの取り合いのように聞こえたのだ。


 男は鎌のように口をゆるませ、大きく両手を広げながら声を上げた。



「そうよん。悪魔を生み、魔力脈そのものも堕とす。何十代も前からの我ら『魔界』の使者が施してきた呪詛。それが、お嬢ちゃんの中にあるのよねぇ? 連れて行こうにも、うまく融合しているから……殺しちゃおうかしら?」



 最後の言葉とともに、ジェイク様が前で剣をふるった。男が何か魔法でも仕掛けたのか、地面にたたき落したのは真っ黒な矢だ。固いのか折れずに、地面に刺さっているだけ。気づいていなかったが、シスファ様たちもほかの矢を叩き落すのに剣をふるっていた。



「レティを利用なんて、させない。絶対に!」

「おっと」



 次の矢をジェイク様が弾きかえしたのを男に当てようとしたが。勢いが弱いのか余裕なのかで簡単に避けていた。何も出来ない私は守られるしか出来ないかと、自分で悔しく思う。


 でも、ここにまだ魔力がある。


 瘤を消滅させても、また作られるかもしれないが悪魔を出してはいけない。


 だから、と手を組んで祈るように構え。身体全部から魔力を流すイメージを起こしていく。顔に痣がうろうろする感じはしたが、今は気にしなかった。

次回はまた明日〜

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