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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第19話 調査を進めようにも

 皇帝はため息を吐きたいのを我慢していた。自分の態度ひとつで、目の前で繰り広げられている会議の進行が変わるのが面倒だからだ。


 眉を動かせば。


 顔をしかめていれば。


 そのあとに息を吐けば、などと。


 誰もが当たり前にすることを、『皇帝』だからというので窺われるのが面倒でしかない。だが、それなりに地位と権威がある身分上仕方がないのだ。この場に本来いなければいけないはずの、息子で皇太子のジェイクは……あの贄姫だった元王女をなだめるとかで欠席している。



(動くとこは動いているが、判断力が少し遅い)



 それが惚れた女への気遣いを忘れないためなら……と、男でなら仕方のない感情だが。帝国のこと以外を視野に入れると、どうも普段の半分以下の判断力になってしまうのはまだまだ青臭い部分が出るのはどうなのか。


 親としてなら、わからなくもない。


 しかし、皇帝とその息子とくれば違ってくる。ジェイクは知らないでいた『箱庭』の略奪行為について、どの国がそれを成し遂げたのかはいまだに判明していない。公国、王国などと、候補の国はいくらでもいるが……利用して何になるかと言えば、ラジールと同じような愚か者がそれを計画するのはまだ予想はつく。



「この帝国のみならず、他国を吸収して統一王国にさせようとしている国があれば大変ですみません!!」



 宰相がかわりに一括してくれたことで、やっと息が少し吐けたが。それがきっかけで、ほかの出席者が黙るのはもう仕方がなかった。ここは皇帝なりに発言かなにかしておこう。



「宰相の言う通りだ。我らを脅かす以上に、『箱庭』を盾にして『統一国家』にしようとする者が出てもおかしくないな。実際に統一国家の歴史はあったらしいが、この戦乱が多い世では終結など……難しいで終わる」



 意見が一致すれば、統一も可能だろうが。


 意見が食い違うのが多過ぎて、離れていくのが王国なり帝国となった始まりの歴史。


 『箱庭』を盾に、統一を成しても何の意味があるか。魔力脈の瘤が各地にあることで、根源の『箱庭』を破壊すればどうとか掲げても意味がないのは皇帝自身がよくわかっていた。


 神殿で破壊できたあの瘤の中身。悪魔の卵である伝承はその通りだったし、破壊するには贄姫の魔力を吸わせた『玉』などをばら撒いても……すべてを破壊できるかは怪しい。



「『破邪』『炎帝』だけでは人材も乏しい。ほかの能力者を集う必要があるのに……最悪だが、各地に派遣させてしまっている。『箱庭』を奪った連中はそれを知って、逆にラジールを我らに襲撃させたかもしれんぞ」



 この読みが当たっていれば、帝国を利用するのも大したことではないと画策可能だ。であれば、皇帝すらもまんまと利用されただけ。どよめきは収まらないが、自分で発言したからにはそれくらいの責務は負うつもりだ。むしろ、皇帝以前に自分を利用されたことに腹が立っていた。


 もともと好戦的な性格ではないが、国の繁栄よりも『維持』に重きを置いていた皇帝をわざわざ襲撃に利用して……奪いたいものだけあとで奪うのに、国一つを崩壊させるなど簡単。などと、こちらにわからせる意味が解せない。



「我らとて、利用されたのであれば。各地の魔力脈の瘤もそれでしかない。贄姫はこちらにあろうが、彼女はあくまで被害者だ。見る者は見ただろう? ろくにまともな食事をせずに痩せていて、生きる気力を失った目を」



 自分とて直接は見ていないが、息子のジェイクと一時的に『共有』した魔眼の魔法で見ただけのこと。女性には失礼だったが、下着姿から診てもあの体型は哀愁を感じるものでしかない。側妃の娘であれ、国民ぎりぎりの奴隷に近い生活をさせられた情報は手にしていたが……あまりの細さと頼りなさ、そして光のない瞳に原因だったラジールの豚王への粛清をさらに増やそうかと思ったくらいだ。


 皇帝の言葉で、宮城に入るときの姿を見た者もいたのか……何人かは黙りだした。



「『箱庭』をさらに厄介なことに利用しようとしているのは、はっきりしている。だが、行方を追うのは早々容易ではないはず。近衛騎士団は本日ルリルア湖畔へ瘤を破壊するのに向かっているし、贄姫もそちらだ。我らは我らで、『箱庭』を捜索する部隊を組もうぞ」

「……それで、自分らを呼んだわけですかい」



 発言を許可したわけではないが、このタイミングを見ていたかのように手を挙げた者がいた。釣り目で怠惰を露わにしたかのような、胡散臭い雰囲気の。その者が何者であるかを知る人間はこの会議の中でも少ない。


 しかし、そろそろ正体を明かすのも、手段のひとつだ。



「ああ。工作部隊、特に貴様のような『閃光』の能力を持つ者で足早に追ってくれないか? メディス=レジェファ」

「もちろんですわ~。『箱庭』の捜索にはもってこい。相手の術師にも興味ありますし、皇帝の命であればなおのこと承りますー」

「……では、早急に」

「ほな」



 相づちの返答をしたと同時に、メディスを含めて何名かの参加者が瞬時に姿を消した。能力を知らない者らはこの場にわざと『工作部隊』がいるのに気づかないで茫然としてしまってたが。



「我が目の前に居ろうが関係なしに情報を流せば……ほかに、能力者が潜んでいても当然だと思え」

「がっ!?」

「ぐっ!!?」



 発言と同時に崩れ落ちた何名かの上には、騎士に変装していた護衛直属部隊らが足蹴にしていた。倒れた連中の懐は、短剣や毒瓶のようなものを隠し持っていたのがここで判明し……帝国内も、『箱庭』を我が物にして国を繁栄させる道具扱いなどとしようとしていたのか。


 悪魔の卵の事実はここでも告げていないのに、愚か者が愚か者を引き寄せてしまうのだろうか。早急に『箱庭』を見つけて、浄化なり破壊なりしたいがエルディーヌへの影響がゼロとは言い難いので簡単にできない。



(エルディーヌへの影響が大きく出たら……ジェイクに、俺殺されるな)



 厄介な女性を愛しやすい親子の性格。それがそっくり同じであれば、亡国の王女を娶った事実は同じなので……多少は手助けしようかと、姫の衣服とかは手配してあげることにした。


 会議はもうとっくに成立していないため、宰相の指示で退室するしかない。仕事は面倒だが、責務があるからには面倒でもしなくてはいけないのだ。


次回はまた明日〜

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