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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第16話 わからないでいる

 温かいものに包まれているので、何かと思って目を開けたのだけれど。


 なぜか、私はお風呂に入れられていて……侍女のふたりがぐずりながらも、髪や身体を丁寧に洗ってくれていた? たしか、魔力を『流す』ために横になるようシスファ様に言われただけなのに? 久しぶりに流したのがきっかけで眠っていたにしても……このふたりがなく理由がわからないでいた。



「……ミンナ、アーシャ? なんで、私?」

「「……覚えて、いらっしゃらないのですか?」」

「……なにを?」



 全然わからないでいると、髪を洗っていたミンナが髪ゆっくりとお湯をかけてくれた。ふんわり、香油みたいな匂いがして落ち着く。



「私たちは直接見ていませんが」

「姫様……大変だったそうですよ。死にかけ……なくらい、魔力を与えたとかなんとか?」

「え? そう? すっきりはしているけど」

「「えぇえ??」」



 それは本当だ。『箱庭』で生活していたときは、寝ているときに常に垂れ流しさせていたので……翌日の昼まで起き上がれずに、家畜らの餌が遅くなって彼らの機嫌をかなり損ねた経験ばかり。


 でも、今回は。身体をさっぱりしてもらったおかげですぐに目を覚ますことが出来た。もしかしたら、清潔さとやらが必要だったのか。にしては、比べ物にならないくらいに、気分も身体もさっぱりなのがびっくりだ。



「……『箱庭』では、全部自分でしなきゃいけなかったから。お風呂もつくれなかったし」

「……あの、姫様?」

「お風呂……もしかして、こちらに来るまでは?」

「……薪で沸かしたお湯を、タオルで拭うくらい」

「「もっとピカピカにしましょう!!」」

「アーシャ、香油は最後に。石鹸の泡づくりをいっしょにお願い!」

「わかったわ、姉さん!」



 そして、もこもこの泡に包まれるように……湯舟の外で泡まみれになり。ごしごしとふたりにまた念入りに洗われてしまい。もう一度湯舟に入ると、さらにすっきりした気分になれた。言い方が合っているかわからないが、身体が溶けてしまいそうなくらいに気持ちがいい。ふたりは私の長い髪を手入れするのに、また必死になって頑張ってくれていたが。



「……気持ちいい」

「かゆいところはないですか?」

「気持ち悪いところは」

「……ない」

「「よかったです」」



 ふたりに話を聞くと、私の身体から流れ出た魔力は『色々厄介』というものしか報せてもらっていないが。例の革袋を持っていったのはナーディア様で、ジェイク様もお手伝いかなにかでそのまま付いていったそうだ。


 私は魔力を流し過ぎたことで意識を失ったらしいのだが……集中して流すのは久しぶりだったので、寝た感覚しかないのに? だが、腕とかにいるはずの呪詛の痣は見当たらないので、アーシャに聞いてみたら苦い顔をさせてしまった。



「その、私もびっくりしたんですが……痣が顔から移動してないんです」

「あ、そっか。ごめんね? 気持ち悪いでしょう?」

「いいえ。贄姫の事情を少しは伺っています。王女ですのに、道具同然の扱いを受けていらしたとか」

「……そう、言い聞かされてきたから」

「でも、酷いです」



 ミンナが肩にお湯で濡らしたタオルをかけてくれたが、とても温かくてほっとする感じになった。本人は私のこれまでについて、少し怒っていたけれど。



「そうよね、姉さん」

「ええ。王女様以前に、人間以下の扱い……国民にぎりぎり留めていても、生贄だからぞんざいにしていいことだ……なんて」

「……うん」

「……泣かないで、ふたりとも」



 苦しくなったのか、ふたりの手が止まった。勢いで色々手を尽くしてくれていたようだけれど……あんな怖いものを見ても、私を怖がってはいないようだ。それがうれしく思うのに、ふたりには違う感情を与えてしまったらしい。正式な主人ではないけど、大丈夫だよと声をかければ……余計に泣かせてしまったが。


 他人の泣き顔を見るのは初めてなので、どうすればいいのか悩んでいると誰かがお風呂に入ってきた。騎士の装いではないが、シスファ様とナーディア様だった。



「え? なに? レティが泣かせた?」

「そちら、お願いします。……エルディーヌ姫、お加減は?」

「あ、はい。ふたりのお陰できれいには」

「それは見てわかりますが。魔力をあれだけ流しても……他には」

「気分がすっきりしたくらいでしょうか?」

「……なるほど。香油の手入れくらいは私もできますので、話しながらにしましょう」



 侍女ふたりはナーディア様に連れられ、お風呂の外に。シスファ様が腕まくりされてから、私の髪の手入れと同時にお話は始まりました。



「……騎士様に、わざわざ」

「団長にさせるわけにはいきませんし、同じ女の方がいいですから」

「あ、はい」



 下着まではジェイク様にもすでにみられているが、裸は流石に恥ずかしい以上のことなのでそれはもちろん。しかし、シスファ様とふたりきりも、なかなかに緊張することだ。ナーディア様は侍女らをなだめているのか戻ってはこない。



「はっきり申し上げますが。姫の魔力を吸わせたあの革袋……あれを使用して、一番近いところにある瘤は解消できました」

「! 本当ですか?」

「はい。少し荒業でしたが、瘤の消滅も確認できるほどに」

「でしたら、これからも」

「いえ、それはよくありません。今回のことで、また対策が必要になりましたから」



 うまくはいっても、『贄姫()』が毎回倒れるような事態になっては意味がないということか。たしかに、『おでかけ』でも近づけばあの調子に。魔力を流しても気を失ってしまう。


 なら、何がいいのか……も、私だけでは考えられないのは当然。


 ジェイク様にも嫌な思いをさせてしまっているだろうし、こればかりは自分勝手に提案をしても意味がない。



「……魔力を流すだけじゃ意味がないんですね」

「そこでひとつ。提案があるのですが、お風呂から上がってからお伝えします」

「え?」



 そろそろいいでしょうと、シスファ様の手を借りて脱衣所に向かえば……まだ泣き腫らした顔が回復してなくても、侍女のふたりはタオルを持って待っていてくれてたようだ。


 身だしなみを整え、部屋に戻ったときには……なぜか、ナーディア様に足蹴にされていたジェイク様が床の上でもぞもぞと動いていたのにはびっくりした。



「レティ~……助けてぇ」

「……なに、しようとしていたのですか?」

「レティの風呂、覗きに行こうとかバカなこと言い出したんだよ!!」

「ナディ!!?」

「……足蹴にしたままでいいです」

「レティ!!?」



 少し心配したのがもったいないと思ったが、こういう会話もできるようになった自分にも……また少し、変化が出来たと思えた。


次回はまた明日〜

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