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『箱庭の贄姫』は呪い以上の愛を知ることに  作者: 櫛田こころ


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第13話 暇つぶしは意外に早く

「……でき、た」



 月のものとやらは数日安静にしている必要があるらしく。侍女のふたりに着替えを手伝ってもらう以外は、部屋から出ないようにしている。というか、案内無しに部屋から出たことはない。保護という名目で進撃した国の元王女を置いているのだから……敵国とも言い難いが、お世話になっているお城に迷惑をかけたくはなかった。


 なので、夫人との授業もスケジュールを調整してもらったこともあって……例の刺繍をハンカチに施すのを頑張っていた。丁寧にやる意識を持ち、三日かけて完成したそれは……木枠から外したらとても綺麗に見えた。


 これを自分が。


 恩人のために、作れた。


 その達成感というのが、なんだか新鮮だった。家畜たちを自分の糧にするのに……捌いて肉塊にしたあの何とも言えない気持ちとは全然違うのだ。


 これは、ジェイク様のために作った『贈り物』。考えたら、家族にもしたことがないので新鮮なのも当然なのかも。



「……このまま、渡してもいいのかな?」



 贈り物をこれまでもらった……というか、家畜の雌雄を追加とかそれ以外の、施しを得たのはこのお城でしかなかった。ジェイク様は物より食事で満たしてくださることが多かったし、衣類については最初から用意されていたため箱はなかった。


 けどこのハンカチは、きちんとなにかに入れて渡してみたい。ジェイク様がいつ来られるか今日はわからないが、そのまま放置というのもよくない気がしたからだ。


 なので、侍女のふたりを呼び鈴で呼んで、相談に乗ってもらうことにした。



「まあ、もう出来上がったんですね?」

「お上手ですね、姫様」



 侍女たちは双子らしいが、すごくそっくりではない。髪型を変えずとも顔のつくりを見てもすぐわかる。目が少しタレ目なのがミンナで姉、釣り目がアーシャで妹。ただ、声はそっくりなので顔をみないとどっちが発言したか少しだけわかりにくい。



「……贈り物、にしたいんだけど。なにかに包んだ方がいいのかな?」

「それはお任せください! リボンも袋もありますわ!!

「姉さん、はりきり過ぎ。……すぐ開けれるように、だと小袋の方がいいですね? いくつか持ってきます」



 そして、本当に『ちょっと』の量じゃないリボンと包む袋を持って来てくれて……ハンカチは汚さないように卓に置いてから、ベッドの上で袋とかを選ぶことにした。



「……どんなのが、いいのかな」

「姫様のお好み……も、もちろんですが。ジェイク様のことを思い浮かべるのも方法のひとつですわ」

「ジェイク様を?」

「姉さんの提案も一理あります。贈る相手のことを思い浮かべると、『似合う色』などもなんとなくわかるんです」



 相手のことを考え、色を選ぶ。私の身支度を手伝ってくださっていたとき、ジェイク様は『どのドレスがいいかな~?』とか言っていた。であれば、私がジェイク様に似合うように作ったハンカチの刺繍に……合わせてあげられるような、『色選び』をすればいいのかもしれない。


 少しくすんでも、綺麗な金髪。淡い水色の輝く瞳。


 刺繍は青をベースに金糸も使ったもの。


 それらを損なわないように、きちんと選んでいこうと決めれば。


 目についたのは、濃い緑色のやわらかい布で出来た小袋だった。



「……これに、赤いリボンってどう、かな?」

「あら、素敵です!」

「冬の例大祭も近いですから、その色合いにも似てますね?」

「れいたいさい?」

「皇帝陛下が、国民たちに数日休みを与え……城のバルコニーでは挨拶をするという式典ですね。緑と赤は冬でも目立つので、よく使われるんです」

「ジェイク様は団長としても出席されるので、その時期はお忙しいですが……」

「けど、姉さん? 私たちも知っている姫様の痣の解決の方が優先じゃない?」

「そうかも。姫様、今お腹は痛くありませんか?」

「痛くはないけど。……とりあえず、これでいいかな?」

「はい。結び方はお教えしますね」

「アーシャ、片付けお願い。私はココアの準備を」

「……ありがと」



 ココアという飲み物は、ひと目見たときは泥水に見えたが飲んだ時の甘くて優しい味わいを知ったおかげで好きになった。月のもののときは、甘くて温まる飲み物をどうぞとミンナが用意してくれたんだよね。最初はおそるおそるだったのに、ひと口飲んだ後の私の反応を見てはにかんでくれた。この三日の間もときどき飲ませてくれるので、ついその厚意にも甘えてしまう。


 ただ、袋にリボンをつけているときに、ジェイク様がやって来られたのでびっくりした。



「もう、顔色よさそうだね?」



 とっさに、袋は隠してしまったがミンナたちはにこにこ笑っているだけだった。渡すなら自分で、ということなのか。意地悪でないにしても、なんだか気恥しくてすぐに出せない。



「……痛みもありません」

「例の痣の方は何も?」

「……ないです」

「そっか。シスファたちが色々頑張ってくれているけど……今度はしっかり対策してから、ちゃんとおでかけしようね?」

「……おでかけを?」

「いや、だったかい?」

「いえ。それは」



 なぜか素直に、いやとは思わなかった。戻ってきて医師にも軽く診てもらったが、やはり栄養がうまく足りてなかったことへの身体の負担も大きかったのも原因があったらしい。だから、魔力脈への対処には体調が戻ってから頑張らなくては……くらいには、心構えは持っていた。


 労わりをいただいたからには、御恩は返したい。乾いた心を潤してもらっただけで、考え方もいくらか変化が出たのだろう。だから、ジェイク様への贈り物を作るのも苦じゃなかった。袋を選ぶのも楽しかった。


 それだから、と……後ろに隠していた袋を前に出したのだ。



「え? 俺に?」

「さっき……出来、たばかりですが」

「あ! あのハンカチ!? え、ほんとにいいの?」

「……もち、ろんです」

「やった!」



 ありがとうと、何度も言いながらジェイク様は袋を受け取ってくださり。すぐにリボンをほどいてメインのハンカチを出してくれた。袋をもちながら広げて……出来上がりがよかったにしても、こちらの胸が焦げてしまいそうな優しい眼差しで見つめていた。



「……き、きれいに、出来たとは思いますが」

「うん! すっごく上手!! 大事なときに使わせてもらうね」

「……例大祭、とかもですか?」

「あ、そこのふたりに聞いた? そうだね、それもいいかも。汗でべとべとにはしたくないから……緊張しないためのお守り用かな」

「……ジェイク様でも、緊張するんですか?」

「するする! 俺そんな図太く見えた」

「あ、はい」

「「……ぷふ」」

「え~……」



 黙っていた侍女ふたりも笑いを漏らすほどに、受けてしまったらしい。でも、ジェイク様も本気で気落ちされていなかったので、時間も時間だからといっしょに食堂へ行くことになった。

次回はまた明日〜

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