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第5話 防御の強化と解放

 魔道具、火魔法の棒によって狩りの効率が格段に上昇した。

 それで暇な時間が出来たわけだけど、ずっと遊んでいるわけではない。


 たまには遊ぶこともある。

 例えば、定番と言えばゴブリン相撲だ。

 ゴブリンはバカだけど、運動神経は悪くはない。

 バカといいつつ小賢しいというか、悪知恵は働く。


「よ、ほらほら」

「どうした、どうした」

「いけ、やっちまえ」


 二人のゴブリンが組んで相手を投げ飛ばそうと動く。

 力が互角なのかなかなか決め手にならない。

 しかし片方のゴブリンが側面に回り込み、腰だめで投げた。


「うぉおお」

「あらぁ」


 こうして土に手をついたりほうが負けだ。


「負けちまった」

「あはは」

「きゃっきゃ、デル弱い」

「姫様にそう言われたら、困っちまう」


 グレアはご機嫌だ。

 デルと呼ばれた戦士は頬を掻いて笑顔を浮かべる。

 みんな家族みたいなもので、仲はよいのだ。


 それでだ、時間が出来たので防御力を強化することになった。

 もう少し北の崖には、北のゴブリン一家が住んでいる。

 こういうとき仲良しならいいのだが、基本的に交流もなく、敵でも味方でもない。

 それから森の奥にはオークなども生息している。

 オークは森の原住民で豚人族とも呼ばれる種族だ。亜人である。

 もし襲ってきたらひとたまりもない。

 ゴブリンは食べられたりしないものの、普通に惨殺される。悲しい運命なのだ。

 そうならないように準備をしよう。


 まず入口の内側に少し土地を確保する。

 その外側をぐるっと囲うように、土を掘る。

 掘った土は内側へ積んでいく。

 これで穴と山を同時に作っていく。

 知っている人は分かると思うが日本でも江戸時代以前に作られた土塁だ。

 土で作った簡易的な城壁のようなものだ。


 俺たちはだいぶ暇だったので、せっせと働いた。

 ゴブリンは幸いにも働き者である。単純バカともいうが。


「よいしょ~こらしょ~」


 へこみの底から土塁の上までは約二メートルほどになった。

 これならゴブリンは登ってこれない。


 土塁の上の内側は傾斜になっていて登ることができる、上から火魔法の棒や弓矢で攻撃できる。

 それから石を配置して投石が可能だ。


 人間やゴブリンの共通の能力として、手先が器用、火熾し以外にこの投石がある。

 野球をやっていなくても、ある程度訓練すればだいたい目標地点へ投げられる種族的な能力があるのだ。

 人間も原始時代からこうして戦ってきた。


「よし、訓練をやるぞ」

「おおお」


 敵が外から来たとして想定する。

 ゴブリンが外から逃げ帰ってくる。

 土塁の中央正面は普通に通路になっていた。

 内側へ入り、左右の土塁へと登っていく。

 そこで準備された火魔法の棒と石で外の敵を一方的に攻撃していく。

 もしかしたら巨体のオークだとぎりぎり上まで届くかもしれないが、それはご愛嬌ということにしよう。

 こうして上から攻撃して、犠牲を減らす。



 さて、リーリアとグレアなのだけど、もう三か月経ちグレアもお留守番ができるようになった。


「リーリアを解放する」

「え、いいの?」

「ああ。グレアが人質となる」

「あぁそういうこと」

「そういうことだ」


 長が決断をした。


「村へ帰り、商人を連れてきて欲しい」

「あ、うん」


 今のリーリアには子供がいるのだ。無碍には出来まい。


「じゃあ行ってくるわ。グレア、それからドル」

「なんだ、リーリア」

「今まで、お世話をしてくれて、ありがとう」

「いいんだ」

「グレアをお願いね」

「もちろん」


 リーリアと抱き合って、別れを惜しむ。

 リーリアは粗末な草の服の上から毛皮を着ている。

 それからもともと持っていたナイフを装備した。

 他にも捕虜になったときに持っていた水筒などいくつかの冒険者道具を持っていく。


 リーリアのナイフがこのルフガルで一番新しい。


「魔石、持ったな」

「はい」


 奥でくすぶっていた魔石をいくらか持たせた。

 資金にするつもりだ。


「あとは、ジャーキー」

「あるわ」


 余っていたジャーキーも交易品に加える。

 あとは一応、牙のネックレスも持たせてみる。

 オオカミがたくさん取れるようになって牙も数が揃っている。


「行ってきます」


 リーリアが手を振ってルフガルの洞窟から離れていく。

 俺たちゴブリンは見守るだけだ。

 もし帰って来なければ、その時はその時だろう。

 しかしリーリアは優しい。娘を置いていなくなったりしないだろうな。



 リーリアは崖伝いに移動していく。

 メルセ川に出ると、さらに下流へと歩く。


 半日ほどの距離を歩いた。懐かしい生まれ故郷、シャーリア村が見えてきた。

 入口の門番が驚いているのが見える。


「リーリア、リーリアじゃないか。今までどうした?」

「あ、うん、ちょっと色々あって」

「そうか。よかった、よかったな」


 とにかく中に入り、普段お世話になっていた教会へ行った。

 リーリアの両親は他界しており、教会に身を寄せていた。


「神父様」

「リーリア」


 おじいちゃん神父と再会する。


「実はゴブリンに捕まっていたのですが、解放されました。娘もいます」

「そうだったか」

「娘もいますし、ゴブリン村へ戻ります。今回は交易をしたくて、その商人を探してます」

「そうだな冒険者商人のガルドがいいだろう」

「ガルドさんですか、分かりました」


 ガルドはがっちりしたおじさんで、近所の町までよく買い出しに行く。

 冒険者兼商人をしている人だった。

 なるほど、彼なら適任だろう。



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