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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第4章 マルガリテス

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99.魔道具作り

 魔族の目的についてはひとまずわかったものの、ブラントの母を殺した理由など、不明な点もある。

 だが、もし魔王エリシオンの言うとおり、ヨザルードとその側近しか知らないことで、それが学院対抗戦のときに倒した相手だとすれば、もうどうしようもない。


「まあ、思い出した相手がいれば、また殴りに行こう。……ところでそなたたち、子はまだ作らぬのか?」


 唐突なエリシオンの質問に、アナスタシアとブラントは固まる。


「魔王の因子を色濃く持っているのは、儂の知る限りではそなたたち二人だけだ。まだ儂も当分は死なぬとは思うが……生きているうちに次代に引き継ぎもせねばならぬしのう……」


「……さっき、邪魔されました」


 しみじみと呟くエリシオンを、静かな怒りを秘めたブラントの声が遮る。

 すると、今度はエリシオンが固まる番だった。

 エリシオンはしばし何かを考え、やがて納得したように長い息を吐き出す。


「……そうか……儂は邪魔をしてしまったのか……それは悪いことをした……」


 しゅんとうなだれ、素直にエリシオンは謝る。

 あまりにもあっさりと認めたことが予想外だったのか、ブラントはやや怯んだようだった。

 アナスタシアも、先ほど甘い雰囲気を邪魔されたことによる苛立ちはあったが、こうも殊勝な態度を取られると、かえって申し訳なくなってしまう。


「……いえ、考えてみれば、途中で止まってよかったかもしれません。まだ婚約にも至っていないわけだし……」


 ややばつが悪そうに、ブラントが呟く。

 すると、エリシオンは不思議そうに首を傾げた。


「そなたたちは番いではないのか?」


「ええと……アナスタシアさんは王女なので、色々としがらみがあるんです。今、結婚を認めてもらうために条件を出されていて、それを達成するために動いているところです」


 ブラントが答えると、エリシオンは顎に手をあてて何かを考え込む。


「……人間には人間の取り決めがあるということか。ならば、儂も手伝ってやろう。その条件とはどのようなものだ?」


 思いがけないエリシオンの申し出に、アナスタシアとブラントは顔を見合わせる。

 本当に良いのだろうかと思いつつ、二人は条件について説明した。

 ジグヴァルド帝国に奪われたマルガリテスという地を取り戻し、壊れた結界を修復することが条件であること。そして、マルガリテスは現在、返還交渉中であり、問題となっているのは結界の魔道具であることを語る。


「マルガリテスという地は人間たちの呼び名だろうから、よくわからぬが……魔道具ならばどうにかなるだろう。今、持っているのか?」


 エリシオンから問われ、ブラントは魔道具を取り出して渡す。

 受け取ったエリシオンは、一瞬魔力を流したようだった。


「これはセレスティアの作ったものか? セレスティアは魔道具作りが得意だったからな。なかなか複雑だが……これは操作盤か。肝心の本体はどうした?」


 これまで調べてきてわかったことを、エリシオンはこの一瞬で見抜いてしまう。


「それが壊されたらしくて……残骸があるかも不明です」


「ならば作り直しか。まあ、この操作盤にある指示命令を見れば、可能だろう」


 ブラントが眉をひそめながら答えるが、エリシオンはそれはそれで構わないといった様子だ。


「……できるんですか?」


「儂を誰だと思っている。いくら儂が考えるより殴るほうが得意とはいっても、これくらいは造作もないことだ」


 残念な行動が目立つため、忘れがちではあるが、エリシオンは魔王なのだ。

 魔族の頂点に立つ存在なのだから、当然魔術に長け、人間の領域を遥かに超えているのは間違いない。

 今まで、このような当たり前のことすら忘れかけていたと、アナスタシアは苦笑しそうになってしまう。


「先日、そなたに渡した通信用の魔道具も儂が作ったものだ。故に、修復も容易だ」


 エリシオンはそう言って、罅の入った水晶玉を取り出す。

 ブラントがもらった通信用の魔道具と同じもののようで、おそらく馬車に轢かれた際に壊れてしまったという魔道具だろう。

 手のひらに乗せ、アナスタシアとブラントに見える状態で、エリシオンは水晶玉に魔力を流す。

 圧倒的な魔力が繊細な構成で水晶玉に集約していき、あっという間に水晶玉の罅が塞がって綺麗な状態になった。


 アナスタシアとブラントは唖然としたまま、それを眺めていた。

 流す魔力が多くなれば、それだけコントロールも難しくなってくる。

 だが、エリシオンは強大な魔力を流しながら、完璧な術式制御で、しかも素早かった。

 前回の人生でも、アナスタシアはエリシオンが魔術を使うのは見たことがあったが、攻撃魔術であった上に戦闘中という状況から、じっくり見る余裕はなかった。

 こうして間近で見てみれば、凄まじい魔力と技量に圧倒されてしまう。


「そなた、魔道具作りはどの程度できるのだ?」


「いえ……まったくといっていいほど……」


 エリシオンに尋ねられ、ブラントは気後れしたように答える。

 だが、それを見下したり馬鹿にしたりするようなことはなく、エリシオンはただ頷いて考える。


「そうだな……ならば、作り方を教えてやるから、そなたが作ってみろ。その方が今後のためにもなるだろう」

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