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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第4章 マルガリテス

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92.いつまでその呼び方

 学院の授業が再開するまでの数日間、アナスタシアとブラントはほとんど魔道具に触れることもなく、のんびりと過ごした。

 街中の食べ歩きをしたり、近場の初級ダンジョンで魔石集めをしてみたりと、二人で一時の休暇を楽しんだ。

 そしてとうとう学院の授業が再開する日となった。


「ステイシィ、久しぶりですわね」


 朝の食堂で、レジーナと久々に会った。

 数日前からアナスタシアは寮に戻ってきていたが、レジーナはいなかったのだ。


「レナ、久しぶりね。レナもどこかに行っていたの?」


「ええ、少し実家の手伝いをしていましたのよ」


「そうなんだ。私もちょっと実家に行っていて……」


 二人は共に食事をしながら話し、そのまま一緒に教室に向かった。

 その途中、以前アナスタシアを睨みつけてきた女子生徒たちともちらほらすれ違ったが、全員が苦い表情を浮かべ、視線をそらして遠ざかっていった。

 ブラントがホイルとの噂を流してからは、睨まれることはなくなっていたが、どうもそれとは様子が違う。

 いったい何だろうと不思議に思いながらも、授業が始まったので、アナスタシアは置いておくことにした。

 休憩時間になる頃には、すっかりどうでもよくなり、アナスタシアはレジーナと話す。


「そうそう、お土産があるから、後で渡すね」


「まあ、実はわたくしもお土産がありますのよ。後で交換いたしましょう」


 二人で和気あいあいと話していると、ホイルが近づいてくる。


「お前ら、久しぶりだけどやっぱりやかましいな」


「まあ、いきなり失礼だこと。あなたの無礼さも相変わらずですわね」


 憎まれ口を叩いてくるホイルに、レジーナがわずかに眉をひそめながら返す。


「あ、ホイルにもお土産があるよ。どうぞ」


 だが、アナスタシアは構わずに菓子の入った袋をホイルに渡す。

 すると、ホイルがぽかんとした顔で、アナスタシアと袋を交互に見つめた。


「……ありがと」


 照れたように、ホイルはぼそりと礼を呟く。


「いちおう、わたくしもお土産を用意してありますわ。ありがたく受け取りなさいな」


 レジーナもホイルへの土産を用意していたようで、可愛らしいリボンのついた袋を差し出す。

 素直に受け取りながら、ホイルは顔をしかめる。


「……毒とか入ってないよな?」


「どうして、わたくしには素直にお礼を言えないのかしらね……!」


 憤慨した様子でそっぽを向くレジーナ。

 思わず、アナスタシアはくすりと笑ってしまった。


「そういや、先輩と付き合ってるの、さらけ出すことにしたのか? なんか俺にまで、そんなの嘘だと言ってくれとか泣きついてくる奴がいたんだけど……」


「うん……もう、国元にも知られているし、隠す必要はないなって……。それにしても、泣きついてくるって……」


 答えながら、アナスタシアには苦い笑みが浮かび上がってくる。

 何故か、ブラントとアナスタシアが付き合うのは許せないが、ブラントとホイルは許せるという考え方の人間が一定数いるらしい。


「そういえば、廊下ですれ違ったとき、様子が変だった女子生徒たちがいたかな。前は睨まれたけれど、今日は視線をそらして逃げていったような……」


 アナスタシアは廊下ですれ違った女子生徒たちのことを思い出し、首を傾げる。


「そりゃあ、学院対抗戦のときの、あの戦いぶりを見て喧嘩吹っ掛けられるような奴はいないだろ……正直、あんな化け物だとは思わなかった……」


 すると、ホイルは呆れたように呟く。

 横ではレジーナも同意するように頷いている。


「しかも、魔族まで倒したのですわよね? わたくしたちはそのとき外に出ていたので見ていないのですけれど……そのような相手に突っかかれるような勇気、普通は持ち合わせていないと思いますわ」


「……魔族を倒したといっても、そんなに強くない魔族だったから。ブラント先輩が倒したのは強かったけれど、私が相手したのはせいぜい中位程度だったから、たいしたことないよ」


 アナスタシアが倒したのは中位程度の魔族だった。三人まとめたところで、ブラントが倒したヨザルードの強さには及ばない。

 前回の人生でも、あの程度の魔族は珍しくもなかった。

 そのため、アナスタシアは謙遜ではなく本気でそう思っていたのだが、レジーナとホイルは苦笑するだけだ。


「いや……もう、基準がおかしい」


「魔族という時点で、並みの魔物よりよっぽど強いでしょうに……」


 二人から呆れた声が漏れる。

 アナスタシアは何と答えてよいものかわからず、迷う。


「……そういえば、国元にも知られているっていうことは、もしかして認めてもらえましたの?」


 気まずい雰囲気を変えようとしたのか、レジーナが切り出す。


「えっと……条件付きだけれど……その条件を達成できれば、結婚を認めるとは言ってもらえたの」


「まあ! それはよかったですわね! そのお話、もっと詳しく聞きたいですわ」


「……じゃあ、今日の放課後はどうかな?」


「ええ、わたくしは大丈夫ですわ。ステイシィはブラント先輩とお約束はありませんの?」


「うん、今日はブラント先輩も放課後に用事があるそうだから」


 少し気恥ずかしくなりながら、アナスタシアはレジーナと放課後の約束をする。

 盛り上がる二人を、ホイルが押し黙って見つめていた。

 何か考え込んでいたホイルは、ややあって口を開く。


「あのさ……疑問なんだけど、何でまだ『ブラント先輩』呼びしてるんだ? 先輩だって『アナスタシアさん』呼びなんだろ? もう隠しているわけでもないのに、いつまでその呼び方してるんだ?」

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