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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第4章 マルガリテス

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91.必要なのは気晴らし

 ジグヴァルド帝国第三皇子エドヴィンとの話を終え、アナスタシアとブラントは図書室の隠し部屋に戻ってきた。

 思いがけず、マルガリテス返還の可能性が出てきたのだ。

 あとはエドヴィンの手腕に期待するしかない。


「ただ……あれって、恩を売られていますよね」


 最後にエドヴィンが浮かべた笑みを思い出し、アナスタシアは苦笑する。


「まあ、そうだろうね。でも、この先何かあったときのため、いちおうの繋ぎを作っておこうか程度じゃないかな。特に何かを要求されているわけでもないし」


「そうですね……考えようによっては、双方ともに利点になるかもしれませんし、悪いことじゃないかもしれませんね」


 友人として親しくしていこうということなので、特に問題となることでもない。

 帝国の皇子との繋がりはアナスタシアたちにとっても、悪いことではないだろう。

 そこでいったん、エドヴィンに対する話は終了となった。


「マルガリテスに瘴気が渦巻いているというのは、考えもしませんでした。まさか本当に祟りや呪いというわけでもないでしょうし……」


 祟りや呪いをかけられるのならば、その力を使って奪い返せばよかったはずだ。

 きっと何か別の原因があるのだろうとアナスタシアは考える。


「そうだね。もしかしたら、もともと瘴気が発生しやすい場所で、結界の魔道具でそれを抑えていたという可能性もある」


「なるほど……結界が壊れて、元の状態に戻ったということもあり得ますね。何にせよ、魔道具の修復も必要ですね」


 二人は話しながら、テーブルの上に魔道具を置いて眺める。

 両手ほどの大きさだったので、難なく持ってくることができていたのだ。


「ある程度は調べてみて、資料とも見比べたけれど、多分これは大がかりな魔道具の一部じゃないかと思う。おそらく、他の魔道具を操作するためのものじゃないかな……操作盤というのかな」


 ブラントが魔道具を見つめたまま呟く。

 壊れてしまった魔道具は、薄い板のような形をしている。

 今となっては動かすことができないが、言われてみれば本体というよりは、何らかの指示を出すための道具にも見えた。


「……もし、そうだとしたら、本体は別ということになりますね。そちらは失われてしまったというのなら、かなり難しそうですね」


「マルガリテスにまだ残骸でもあれば、修復すればいいから助かるんだけど……こればかりは実際に探してみないとわからないな」


 現状では何もできなさそうだ。

 一度、マルガリテスの状態を実際に見て確かめてみたい。

 瘴気が渦巻いているとエドヴィンは言っていたが、もしかしたら魔素がやたらと濃くなっているかもしれないとアナスタシアは思っていた。

 濃くなりすぎた魔素は、ほとんど瘴気のようなものだ。

 だが、瘴気だろうと魔素だろうと、どちらにせよ対策をしないと人は住めないだろう。


「もっとこの魔道具について調べてみながら、マルガリテス返還を待つのが、今できることかな」


「そう、ですね……」


 歯切れ悪くアナスタシアは頷く。

 ブラントの言うとおり、今できることはそれくらいだろう。

 だが、アナスタシアはもっと何かできることはないだろうかと、必死に考えを巡らせる。


「……アナスタシアさん、何か焦っているみたいだけれど、どうしたの?」


 やや眉根を寄せ、ブラントが心配そうに声をかけてくる。


「その……マルガリテスの元住人から話を聞いて……それまで、マルガリテスに住人がいたということすら、考えたことはありませんでした。単なる結婚の条件としか思っていなくて……何だか、申し訳なくなって……」


 アナスタシアは俯きがちに話し出す。

 じっと黙ったまま、ブラントはアナスタシアが語るのを聞いている。


「もちろん、早く取り戻せと急かされたわけじゃありませんけれど……故郷を失った人たちの期待を背負っていると考えたら、なるべく早く故郷に帰ることができるようにしてあげたくて……」


「うん……アナスタシアさんは責任感が強いし、優しいからね。でも、焦ってもアナスタシアさんに負担がかかるだけだ。もしアナスタシアさんが体調を崩してしまっては、元も子もないよ。焦らずに待つことも必要じゃないかな」


 アナスタシアが話し終えると、ブラントは穏やかに微笑みながら、優しい声で語りかけてくる。


「そうだね……ここのところ、ずっと気が張っていただろうし、疲れているんだと思うよ。そういうときに無理に考えようとしても、思い詰めてしまうだけだ。いっそ、気晴らしに行こう」


 ブラントは立ち上がり、アナスタシアに手を差し出してくる。


「気持ちが安定しているときのほうが、良い考えだって出てくるよ。何か美味しいものでも食べに行こう」


「……そうですね」


 やや後ろめたい気持ちはあったものの、ブラントの言うことももっともだろう。

 現状ではたいしたことができないのだから、焦らずに気分転換したほうが結果的にうまくいくのかもしれない。

 アナスタシアは頷いて、ブラントの手を取る。


「それに、俺にとってはアナスタシアさんが元気でいることのほうが大切なんだよね。それに比べたら、他はどうでもいい」

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