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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第3章 セレスティア聖王国

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82.魔王エリシオン

 王城の地下神殿に向かうと、地下に続く階段の前に見張りの兵士がいた。

 兵士はメレディスからの命令書を見ると、すんなり通してくれる。

 アナスタシアとブラントは階段を下り、地下神殿へとたどり着いた。


 神殿とはいっても、所々に柱があるだけのがらんとした空間だ。

 ひんやりとしていて、壁には魔力による明かりが灯っている。

 勝手に周囲の魔素を取り込んで光る、古代の遺産だ。


 奥には固く閉ざされた大きな扉があり、翼と剣をモチーフとしたセレスティア聖王家の紋章が刻まれている。

 そして、翼と剣の間に透明な球体が埋め込まれていた。


「……あれ、図書室の隠し部屋にあるのと似ているような気がする」


 ブラントが透明な球体を見ながら、呟く。

 言われてみればその通りで、アナスタシアも壁に近づいてよく見てみる。

 前回の人生でもこの扉は見ているはずだが、アナスタシアの記憶には残っていない。

 当時は図書室の隠し部屋の存在を知らず、透明な球体のことも単なる壁の飾りとして、気にも留めなかったのだろう。


「もしかして……【転移】で指定できる……?」


 以前、図書室の隠し部屋で授かった【転移】は、特定の場所に転移するものだった。

 その転移先は図書室の隠し部屋しか選択できず、他の場所に書き換えることができないかと色々試したが、結局無駄だったのだ。

 だが、アナスタシアが試しにこの場所を指定してみると、【転移】を問題なく使えるようだった。


 ちなみに学院対抗戦でブラントが見せた【転移】のアレンジは、ごく近くに見えている場所にしか移動できない。

 あの後、アナスタシアも教えてもらったのだが、消費魔力が多くて使いどころはよく考える必要があるという印象だった。


「……本当だ。ここを指定して転移できるみたいだね」


 ブラントも試してみて、頷く。

 これまで薄々感じていたことだが、セレスティア聖王国の天人セレスティアも、おそらく魔族だったのだろうと、アナスタシアは考える。

 ラピス魔術学院の創設者ラピスとも、何らかの繋がりがあったのかもしれない。

 かつて学院ダンジョンの管理者代理とやらも、ラピスが魔族であること、そして天人セレスティアらしき存在のことについて触れていた。


「学院とここを行き来できるのは便利ですね」


 アナスタシアは、とりあえず魔族云々は棚上げしておくことにした。

 いちおう、後で父にも地下神殿が転移箇所であることを話して、許可をもらっておこうと心に留めておく。


「さて……それでは」


 思わぬ副産物があったが、アナスタシアは本来の目的である扉に触れる。

 天人セレスティアの血を引き、一定以上の魔力を持つ者がこの扉を開けられるとは、前回の人生で勇者シンが言っていたことだ。

 今でも大丈夫だろうかと少し不安になったものの、アナスタシアが扉に触れて魔力を流すと、あっさり扉は開いた。


「開いたね……」


 あっけにとられたように、ブラントが呟く。

 アナスタシアは深呼吸して、これからの心構えをする。

 二人は頷き合うと、扉の先へと進んでいった。


 古びた地下通路は一本道で、まっすぐ歩き続ける。

 やがて上階への階段があり、昇っていくと古めかしい城の片隅に出た。

 中央の大きな通路へと向かっていくが、誰もいない。

 前回の人生では、強い魔物たちがひしめいていたはずだが、今は生きている存在の影すら感じられない。


「誰もいないね……」


 ブラントも緊張した様子で、用心深く進んでいく。

 【罠感知】や【索敵】を使っても、反応はない。

 中央の通路をまっすぐ進み、さらに階段を昇っていくと、誰とも出会うことなく、やがて玉座の間にたどりついた。

 明らかに雰囲気の違う部屋に、アナスタシアとブラントは気を引き締める。

 前回の人生では、ここが旅の終着点だったのだ。


 ゆっくりと進んでいくと、暗かった部屋に明かりが灯っていく。

 そして、玉座に目を閉じて座っている姿が見える。

 まるでブラントがそのまま年を取ったような、初老に差し掛かろうかという整った顔立ちの男だ。

 銀色の髪も、彫像のように端整な顔も、そして今は閉じられている紫色の瞳も、ブラントと同じものであることを、アナスタシアは知っている。


「……っ」


 ブラントが思わず息をのむ。

 本当によく似ていると、自分でも実感できたのだろう。


「魔王エリシオン……」


 アナスタシアはぽつりと呟きながら、足がすくみそうになってしまう。

 魔王ならば情報を知っている可能性が高いと来てみたはいいが、やはり本物を目の前にすると、本能的な恐怖がわきあがってくる。

 それでも、震えそうになる己を叱咤して、アナスタシアは進む。


 アナスタシアとブラントは二人寄り添いながら、玉座に向かっていく。

 玉座は高い場所にあり、そこに至る段々の手前までたどりついたところで、魔王エリシオンが目を開けた。


「……っ!?」


 思わず、二人は息をのんで身構える。

 エリシオンは気だるそうに周囲を見回し、のろのろとアナスタシアとブラントに視線を向けた。

 その途端、紫色の瞳が大きく見開かれる。


 ブラントから視線をはずすことなく、ふらふらとエリシオンは立ち上がる。

 まるで夢遊病者のように、おぼつかない足取りで一歩を踏み出す。

 そして、足を踏み外して段から転げ落ちた。

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