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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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190.呼び出し

「さて、余計な話が長くなってしまったが、ヨザルードの参謀を呼び出してやろう。あやつの名は……グシオセだったかのう……」


 エリシオンは話を切り替え、考え込む。


「それほど緊急というわけでもないので、連絡だけつけてもらって、後日という形でも……」


 今にも強制召喚しそうなエリシオンに向け、アナスタシアは慌てて緊急ではないことを伝える。

 おそらく強制召喚はかなりの魔力を必要とするはずだ。

 寿命が近いと感じているエリシオンに、なるべく無理はさせられない。


「ふむ……ならば、ダンジョンコアを通じて連絡をつけてみるか」


 そう言って、エリシオンは玉座にもたれかかったまま、腕を組んで目を閉じた。

 しばしそのままの状態が続き、アナスタシアとブラントはじっと見守る。

 やがてエリシオンは目を開けると、大きく息を吐く。


「すぐ来るそうだ。しばし待っておれ」


「そんなにすぐなのですか……?」


 あっさりとしたエリシオンに、ブラントが驚きながら尋ねる。


「この城の一階には、転移用の座標があるのだ。正式に成人した魔族にはそれが伝えられ、転移できるようになる。儂が眠っている間は封じていたが、先日開放したところだ」


「先日、ララデリスに一階は開放しておくとおっしゃっていましたね」


 天人教団の本部から帰るとき、エリシオンはララデリスに対して仕方がなさそうにそう言っていたことを、アナスタシアは思い出す。


「うむ。あのときまですっかり忘れておってな。そういえば、顔を見せに来いと声をかけた連中が誰も来ないと思っておったが、開放した途端に来て、文句を言われたものだ」


「それは……」


 やはり抜けていると、アナスタシアは苦笑する。

 しかし、魔王からの呼び出しを無視するなど何事だとはならなかったのだろうか。


「本当に用事があれば儂から行くからな。連中も年寄りばかりだから、調子の良いときに来いとしか伝えず、来ないのは体調でも悪いのだろうとしか思っていなかったのだ。……まあ、そのような話はどうでもよい。来たようだぞ」


 エリシオンが玉座の間の入口に視線を向ける。

 すると、焦った様子で一人の男がやってきたところだった。

 アナスタシアとブラントは奥の一画からやってきたので、エリシオンと同じ壇上にいる。

 三人に見下ろされる形となり、男は微かに震えながら跪く。


「お……お召しに従い、参上いたしました……」


「こやつがヨザルードの参謀を名乗りながら、イリスティアの件をまったく知らなかったという、グシオセだ」


 冷淡な声で、エリシオンは言い放つ。

 これまでエリシオンが彼のことを話すとき、どことなく棘を感じていたが、そういうことだったのかとアナスタシアは納得する。

 エリシオンの娘であり、ブラントの母でもあるイリスティアの命を奪ったのは、ヨザルードだ。本当に参謀だというのなら、それくらい知っていただろう。

 だが、もしグシオセがイリスティアの死に関わっていたとしたら、今こうして生きてはいられなかったはずだ。

 グシオセもそのことはわかっているようで、跪いたまま何も言わない。


「儂の孫ブラントと、その番いであるアナスタシアが、そなたに聞きたいことがあるという」


「は……はい……何でもお聞き下さい……」


 それきり、エリシオンは玉座にもたれかかって目を閉じたまま、口を開かない。

 あとは勝手に話せということだろう。

 アナスタシアはブラントと顔を見合わせて頷き、口を開く。


「……以前、セレスティア聖王国に占い師として潜り込んでいた魔族が、今どうしているかを聞きたいのです」


「フオナのことですか。実は、私も今フオナがどうしているかは存じ上げなく……」


 おどおどとしながらグシオセは答えると、ちらりとエリシオンの様子を窺う。

 だが、エリシオンは目を閉じたままで動かないことを確認し、グシオセはほっとしたようだ。

 占い師として潜り込んでいた魔族の名は知らなかったが、フオナというらしい。


「……ヨザルードさまが亡くなり、セレスティア聖王国とジグヴァルド帝国での企みが発覚して以来、黒い翼の魔王を作るという目的で集まっていた魔族たちもバラバラになってしまったのです」


 黒い翼の魔王を作ろうとすることに関しては、エリシオンは咎めなかったはずだ。

 だが、中心的存在を失い、それ以上まとめることができなかったのだろう。


「奴ら、もう飽きた、面倒になった、魔王さまに殴られたからもう嫌だなど、好き勝手言って……。最初は目的のために人間社会に潜り込んだはずが、そちらの仕事のほうが楽しくなったとぬかす奴まで……」


 ぶつぶつとグシオセは呟く。

 エリシオンへの恐怖すらいっとき忘れ去るほど、鬱憤をため込んでいたらしい。

 随分とあっさり瓦解したようだと、アナスタシアは思わず苦い笑みが浮かびあがってくる。


「まあ、そのようなものだろうな」


 黙っていたエリシオンが、ぼそりと口を開いた。

 グシオセがびくりと身をすくめるが、エリシオンは目を閉じたままで、そちらを見ようとはしない。


「魔族というのは、あまり協調性がなくてのう……基本的には群れることもなく、せいぜい家族単位だ。何らかの目的のために手を組むことはあっても、面倒になってそう長続きはせぬ。むしろ、よくここまでもったといえるだろうな」


 これまでエリシオンが黒い翼の魔王を作ろうとする企みを放置していたのは、魔王として動く案件ではないということだけではなく、どうせすぐに立ち消えになるだろうと思っていたからかもしれない。

 人間にとっては恐怖の象徴ともいえる魔族だが、実際は結構どうしようもない種族なのだなと、アナスタシアはぼんやり考える。

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