151.突然の国王訪問
天人教団に向かう決意を固めたアナスタシアだが、その前にレジーナとホイルの問題がある。
談話室に閉じ込めてきたが、うまいこと話が進んだだろうかと、不安になってくる。
「そうだ、ブラント先輩。あのときホイルに何を言ったんですか?」
ふと、談話室を出てきたときのことを思い出し、アナスタシアは尋ねてみる。
ブラントがホイルに何かを耳打ちした途端、ホイルは慌てふためいて、声も出ないようだった。
「ああ……ぐだぐだ言わず、最初に告白しておけってことを言ったんだよ。後回しにすると、余計なことばかり言いそうだからね。ホイルくんは、気になる子に意地悪をするような、幼いところがあるからね。前にも、そんなことをしては嫌われるだけだよって言ったことがあるんだ」
ブラントの答えに、アナスタシアはなるほどと頷く。
確かに、レジーナとホイルはよく言い合いをしていた。
険悪な雰囲気になってしまっては、告白などできないだろう。最初に一番大切なことを言ってしまうのは良いことに思える。
「……アナスタシアさんは、気づいていなかったのかな」
「え? 何ですか?」
ぼそりと呟かれたブラントの言葉を聞き取れず、アナスタシアは問い返す。
だが、ブラントは軽く微笑みを浮かべて、首を横に振った。
「いや、何でもないよ。それより、結構時間も経ったし、二人の様子を見に行ってみよう」
ブラントに促され、やや首を傾げながらもアナスタシアは頷いて、談話室に向かった。
聞き耳を立ててみると、談話室の中からは普通の調子で会話をしているらしき声が聞こえてくる。
告白がうまくいったかどうかは定かではないが、険悪な雰囲気にはなっていないようだ。
アナスタシアは扉をノックして、ブラントと共に中に入っていく。
「ええと……調子はどう?」
アナスタシアは何と言ってよいものか迷い、かなり的外れなことを言ったような気がするが、レジーナとホイルは口ごもりながらお互いを見つめた。
「その……わたくしの家族に、二人で挨拶に行こうとなりましたのよ……」
やがて、ぼそぼそとレジーナが口を開いた。
その言葉を聞き、アナスタシアはレジーナとホイルの顔を交互に見る。
二人とも照れているのか、顔が赤くなっていた。
「ということは……お付き合いすることになったの?」
「ええ……」
アナスタシアが尋ねると、レジーナは俯きながら頷いた。
「まあ……おめでとう。ホイル、レナを泣かせたら本気で殴るからね」
「あ……ああ……それは死ぬな……」
にっこり笑いながらアナスタシアが祝福の言葉を送ると、ホイルは頷きながらも怯えているようだった。
その様子を、ブラントが微笑ましそうに見ている。
和気あいあいとした空気に包まれてきたところで、扉を叩く音が響いた。
「国王陛下がお見えになりました」
侍女がもたらした知らせに、この場の全員が驚いて固まる。
アナスタシアも、いったい何故だろうと考えているうちに、国王メレディスがやってきた。
「突然、すまぬな。楽にしてくれ」
立ち上がるアナスタシアたち四人に向け、メレディスは鷹揚に座るよう促す。
アナスタシアとブラントはすぐにその言葉に従う。レジーナはやや遅れておそるおそる座り、ホイルは直立不動のままだった。
隣のレジーナにつつかれて、ホイルもようやく椅子に座る。
侍女が用意した椅子にメレディスも腰掛けると、穏やかな表情で四人を見回した。そして、ホイルで視線を止める。
「きみが、魔術学院一年三席のホイルくんかな?」
「は……はひ……」
メレディスに問いかけられ、ホイルは舌を噛む。
しかし、メレディスは穏やかな表情を崩さない。
「もし卒業後の進路に宮廷魔術師を考えているのなら、セレスティア聖王国に来るとよい。歓迎しよう」
「は……はい……ありがとうございます……」
メレディスは先日のレジーナに続き、ホイルのことも宮廷魔術師に勧誘した。
少し呆れながら、アナスタシアはメレディスを見つめる。
「何だアナスタシア、その顔は」
「いえ……何でもありません」
「せっかく魔術学院の上位席次者がいるのだ。声くらいかけてもよかろう」
悪びれることなく、メレディスはそう言い放つ。
確かに、ホイルは三席なのだから、十分に宮廷魔術師になれる位置にいる。
しかもレジーナが次席なのは筆記試験の成績によるもので、実技試験はホイルのほうが上だ。
もともとの魔力量だけでいえば、アナスタシアよりもホイルのほうが多いだろう。
考えれば、宮廷魔術師に勧誘するのも何もおかしくないことなのかと、アナスタシアは納得する。
無理強いする気もないようで、とりあえず声をかけておいた程度だろうから、特に気にすることもないかと、アナスタシアは流すことにした。
もしレジーナとホイルが二人で宮廷魔術師になれば面白そうだが、それは二人が決めることだ。
「さて、では本題に入ろうか。街中で魔物発生事件があったそうだな。そなたたちが倒したと聞く。よく被害を出さずに食い止めてくれた。礼を言う」
少し雰囲気が緩んだところで、メレディスが切り出す。
やはり勧誘だけではないかと、アナスタシアは気を引き締めてメレディスの言葉に耳を傾けた。






