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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第4章 マルガリテス

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105.不自由な人生

「このパメラというのは、瑠璃宮の侍女パメラのことですか?」


「そうだ。彼女はペイトンの妹で、マルガリテス伯爵の娘だ。マルガリテス伯爵家唯一の生き残りでもある。もっとも、もはやマルガリテス伯爵家というのは存在しないがな」


 アナスタシアが尋ねると、メレディスはため息混じりに答えた。


「彼女は一度は親戚に引き取られたのだが、結局は侍女として瑠璃宮で働くこととなった。もう良い年になるのだが、このまま一生独り身でいるつもりなのか……いや、それは今する話ではなかったな」


 苦笑しながら、メレディスは言葉を打ち切る。

 どうやら、家族を失ったマルガリテス伯爵家の生き残りということで、パメラに目をかけているようだと、アナスタシアは思う。


「マルガリテスに関してですが、現在、帝国と返還交渉中です。結界の魔道具は作り直しになりますが、いちおうの目処は立っています。時間はまだ必要ですが、今のところは順調に進んでいます」


 話を切り替えるようにアナスタシアが現状を報告すると、メレディスは唖然とした顔でアナスタシアを見つめてきた。


「……早いな。正直、もっと難航するかと思ったが……」


「ただ……現在、マルガリテスは荒れた状態になっているらしくて、もし返還されたとしてもすぐに元通りにはならないかもしれません」


「それは致し方あるまい。完全に復興するまで結婚を待てとは言わぬよ。それに、復興作業をそなたたちだけにやらせようとは思っておらん」


 メレディスは言葉を区切ると、しばし考え込む。


「……そなた、本当に女王になる気はないのか?」


「ありません」


 ややあって投げかけられた問いに、アナスタシアは即答する。


「それは、ブラントくんと結ばれるとすれば、女王になる未来はないと言ったことからか? 結ばれた上で女王になるというのならば、どうだ?」


「それでも嫌です」


 さらに質問は続くが、アナスタシアはそれもきっぱりと断る。

 すると、メレディスは大きく息を吐き出した。


「……ならば、仕方がない。そなたには苦労をかけた分、望みはきいてやりたい。地位を望むのも、逆に地位を望まぬのもな」


 諦めたように、メレディスは呟く。

 ただ、アナスタシアは断りはしたものの、王位継承権者がアナスタシアとジェイミーしかいないのも事実だ。

 それ以降となると傍系になり、争いの種となりかねない。


「ジェイミーはどうしていますか?」


「新たな教育係をつけ、教育中だが……なかなか難しいな」


 苦い表情で、メレディスは答える。

 どうやらはかばかしくないようだと、アナスタシアはそっとため息を漏らす。


「……新しい王妃を迎える気はないのですか?」


 少し迷ったものの、アナスタシアはメレディスに尋ねてみる。

 メレディスはまだ三十代前半のはずだ。これから子ができても、遅すぎるということはないだろう。


「そなたは新しい継母ができてもよいのか。またそなたに対し、つらく当たるかもしれないとは思わぬのか?」


「ええと……まあ、今さらいじめられたところで……」


 以前ならばともかく、今からいじめられたとすれば、アナスタシアはやり返す。

 かつてとはアナスタシアの立場が違うのだから、距離を置くという方法もあるだろうし、いくらでも対抗策はあるだろう。


「……そうだな。むしろ、そなたをいじめるような度胸のある者、なかなかおらぬだろう」


 メレディスは苦笑しながら納得していた。


「それとも……王妃のことを愛していて、次はいらないとお考えですか?」


 アナスタシアにとっては良い思い出がかけらもない王妃デライラだが、メレディスにとっては違うだろう。

 まだアナスタシアの母が存命だった頃から、愛妾として迎えていたと聞く。

 政略結婚だったアナスタシアの母とは違い、デライラのことは望んで迎えたのだろうから、未だ愛情があっても不思議ではない。


「愛している、か。デライラとも政略だよ」


 ところが、メレディスは口元に皮肉そうな笑みを浮かべる。


「え……? 愛妾として望んだのでは……」


「正妃として帝国の姫を娶ったからな。国内の力の釣り合いから、愛妾としてデライラが選ばれたのであって、私の意思ではないよ。まだ十代で即位した私は、立場が弱かったからな」


 淡々と語るメレディスだが、アナスタシアは胸の痛みを覚える。

 王族、まして国王ともなれば当然ではあるのだろうが、恋愛などとはまったくの無縁だ。

 条件付きとはいえ、好きな相手と結婚できる自分がいかに恵まれているか、アナスタシアは思い知らされる。


「これまで、恋愛は……」


「それは、私だって王子時代に恋くらいした。だが、私は唯一の王子で、立場を理解していたからな。全ては淡い思い出だよ」


「その相手は今は……」


「とっくに嫁いだよ。子も授かり、幸せに暮らしていると聞く」


 初めて知る父の不自由な人生に、アナスタシアは涙が浮かび上がりそうになってくる。

 恋する相手とは結ばれず、攻め込んで友人の命すら奪っていった国の皇女を妻として押し付けられ、愛妾までが勝手に選ばれた相手なのだ。


 もしアナスタシアがメレディスの立場だったとしたら、帝国の血を引くアナスタシアのことなど愛せただろうか。

 むしろ、放置して当然だとすら思えてしまう。

 呪いが解けてからは精一杯取り戻そうと頑張っていることを思えば、未だわずかに燻っていた、ずっと顧みられなかったことに対する恨みなど消えていく。

 父としてクズだと思っていたが、むしろ全てを飲み込んで立派ではないかと、アナスタシアは認識を改める。


「もし、今からでもそういった相手がいれば、私は応援します。うるさいことを言ってくるようなのがいれば、私が殴りに行きます。どうぞ今度こそ立場など気にせずに、好きな相手と……」


 すっかりメレディスに同情したアナスタシアは、熱意を込めて励ます。

 前のめりなアナスタシアに、メレディスはやや気圧されていた。


「そう言ってくれるのはありがたいが……何と言うか……そなたが女王の座を蹴るのは、正しいことに思えてきたな……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女王というより特攻隊長の方が向いてるよね。旦那も脳筋だし。 元パーティーメンバーに対してもお爺さんみたいに殴ってから考えても悪くない気がするんだけどなぁ。今のところの前回の屑達は元王妃以…
2020/12/19 19:13 退会済み
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