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逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!  作者: ブーブママ
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【こく営放送を見た結果】ハクション大事件【大調和弊国コラボ】

バーチャル帝都チャンネルに投稿された動画です。

※リアルタイムのコメントはありません。

 豪奢な調度品が飾られた部屋――よく見るとその大半は壁や床に描かれたものでペラペラだ――に、男が二人やってくる。


「いや、今朝は冷えますな」


 白いローブを着た、禿頭の老人が言う。目はまるで二重丸のようで、異様に瞳孔が大きく、白く濁っている。カエルのような顔の怪僧。ゴシックな飾り文字の字幕で『ナイ司教』と表示される。


「確かに」


 応えるのは縦長の顔の軍服の男。眉は剃られており、小さな丸いサングラスが目を隠し、表情を表すのは一文字に引き締められた口元だけ。ゴシックな飾り文字の字幕で『アツベ局長』と表示される。


「昨夜は暑かったので寝具をのけて寝てしまい、起きたら腹の調子が悪くなりましたよ」

「ほっほっ。アツベ殿ほどの男が腹を壊すとなると――」


 二人は揃って顔を部屋の奥に向ける。部屋の中心にきちんと立体で存在している玉座を。


「陛下の体調(ちょう)が心配ですな」

「弊国の(ちょう)として、国民の(こう)例となっていただきませんと。今日はお言葉放送の日ですから……」

「ナイ司教、アツベ局長」


 イケボが画面外からして、二人は声の方向を向く。そこに立っていたのは、豪奢な金髪と氷の瞳、詰め襟の軍服を着たイケメン。


「早(ちょう)から大儀である」


 『ヨルニナルト・ヘガデル陛下』──と、子供が書いたような極太の茶色いポップな字体で字幕が表示される。


「これはへ!いか。おはようございます」

「ウム。(けい)らに変調(ちょう)はないか」

「吾輩は恥ずかしながらこの寒さで腹をやられてしまいました。陛下はいかがですか」

「フム」


 ヨルニナルトは顎に手をやる。


「卿らには、余に変わったところは見当たらないか」


 ナイ司教とアツベ局長は一瞬顔を見合わせ、ヨルニナルトに向き直る。


「いや……特には」

「拙僧にはいつもどおりの陛下に見受けられますが」

「やはりか。どうやら理論は正しいようだ」

「理論……とは?」

「実は今、余は下半身に何も身に着けておらぬ」


 上半身しか映していないカメラでヨルニナルトが言う。

 ナイ司教とアツベ局長は、そろってヨルニナルトの顔を見て、くいっと首を傾けて下を見て、戻す。


「確かに」

「気づきませんでした」

「これぞ余が今朝気づいた理論。映らなければ、言及しなければ誰も気にしない。まさにシュレディンガーの下半身といえよう」

「おお……」


 パチパチ、とナイ司教とアツベ局長が拍手をする。カメラが三人を引いて映すが、ヨルニナルトの下半身だけは巧妙に花瓶で隠されていた。


「しかし陛下。なぜ下半身が裸なのですかな?」

「ウム」


 ヨルニナルトは玉座に向かい、大股開きでドカりと座る。素足が見えた──が、股間はナイ司教の禿頭に隠されている。


「今朝は寒かっただろう」

「ええ。恥ずかしながら吾輩は腹を出したまま寝てしまい、腹痛が」

「自愛せよ。余は布団をしっかりかぶって寝ていた」


 別枠で寝室で寝ているヨルニナルトが表示される。


「そのせいか目が覚めても暖かい布団の外に出る気が起きなくてな。そんな時に高貴(こうき)の訪れがあったのだ」

「なんと……」

「しかしそれでも布団から出たくなかったので、余は布団の中で高貴を発露した」


 別枠の中で「ボンッ」と音がし、布団が急激に膨らむ。


「そうしたら布団はおろかズボンとパンツからも匂いが取れなくなってしまったのだ」


 別枠の中でヨルニナルトの下半身から茶色いオーラが放たれる。


「そこで下半身を脱いだのだが、気づいてしまったのだ。映らなければ誰も気にしないのではないかとな。それで今日は下半身を着るのをやめた」

「なるほど。さすがです陛下」

「フ。実際、これまでも何度か放送をしてきているが」


 2D時代の動画がいくつか表示される。動かない上半身のみで話している動画。


「あれの大半、下半身は裸で収録している」

「なんと!」

「気づきませんでした!」


 さすがさすが、とナイ司教とアツベ局長は拍手をする。ハッハッハ、とヨルニナルトは高らかに笑った。


「ハックショイ!」


 そこへ一人の男がやってくる。簡略化された軍服を着た赤毛の男。


「ズッ。すいません、遅れました」


 ゴシックな飾り文字の字幕で『アサカラ兵士長』と表示される。


「構わぬ。それよりもアサカラ兵士長よ、風邪か?」

「いや、これは、ハックショイ!」


 わざとらしいくしゃみをして、アサカラ兵士長は大げさに、お辞儀をするように90度腰を折って頭を下げる。


「すいません。俺、寒いとクシャミが出る体質で。ハックショイ!」


 90度腰を折って頭を下げるアサカラ兵士長。


「おやおや、大丈夫ですかな?」

「平気です。今日は陛下のお言葉放送の日。そして俺が名誉あるカメラ係ですから。任せてくださいよ」

「ふむ、アサカラ君がそういうのなら……よろしいですか、陛下」

「勤(べん)なことだ。許す」


 場面転換し、アサカラ兵士長がカメラを構えて玉座に座るヨルニナルトを撮影する。


「それでは開始しまーす。3、2、1、キュー!」

弊国(へいこく)民よ、好調(こうちょう)であるか」


 画面が、アサカラ兵士長の構えるカメラからのものに変わる。右上に表示される「生放送中」のアイコン。


「余はヨルニナルト・ヘガデル。大調和弊国(だいちょうわへいこく)(ちょう)である」


 一瞬、ヨルニナルトの背後からの画面。玉座に腰掛けるヨルニナルトの素足が見える。


「今日は早(ちょう)から一段と寒い。そこで余は弊国民たちに新しい健康法を伝えようと──」

「ハッ……ハッ──」


 カカカッ、と画面が分割されて四人の顔が映る。いまにもくしゃみをしそうなアサカラ兵士長と──目を見開く残り三人。


「ハッ──ハッ──」

「(いかん!?)」

「──ハック──」


 アサカラ兵士長がカメラごと頭を下げかけ──時が止まる。灰色になった画面の中で、ヨルニナルトの言葉だけが紡がれる。


「(いかん! このままではカメラが下がって下半身が映る! しかし隠せるようなものはない……どうする? そうか!)」


 カッと目を見開くヨルニナルト。


「(全力で高貴(こうき)を発する! 黄金色のオーラが下半身を包み込むようにだ!)うおおおおおぉぉぉお!」

「──ハックショイ!」


 スー……


「クッ、高貴(こうき)が足りないッ!?」

「え?」

「いけません!」

「アサカラ君、やめたまえ!」


 一瞬映るヨルニナルトの下半身のモザイク。ガタガタバタン、と倒されるアサカラ兵士長とカメラ。次の瞬間、画面がさわやかな春の風景を映し出し「しばらくお待ちください」のテロップが流れ始める。




 ──という様子を、ブラウン管テレビがニュースとして流している。


『──……以上が先日発生した大調和弊国でのヨルニナルト・ヘガデル陛下の不祥事の内容です。このことについてヨルニナルト・ヘガデル陛下は、朝はまだ高貴(こうき)の溜まりが少ないなどとコメントし……』

「何これ」


 学校の教室ほどの大きさの部屋で、ブラウン管テレビを見ていた少年が呟く。青い書生のような着物を着た少年。七見屋(なのみや)アキラ。


「アキラ君何見てるの?」


 机で事務仕事をしながら問いかけたのは、大正時代の女学生風の少女、穂之木(ほののぎ)クヌギ。


「あー、なんか遠くの国で偉い人が、下半身丸出しで放送してしまったみたいです」

「そ、そうなんだ。偉い人の考えることはよく分からないね……」

「確かに放送では下半身まで映すことはないですけど、だからって脱いでいていいわけないですもんね」

「当然でしょ。私たち新式放送局も似たような形式の放送はやってるけど、だからってねえ」


 うんうん、と二人は頷く。


「ところで局長。今日はオウマ君は休みですか?」

「学校には来てなかったけど、局には来るって連絡が──」


 がらり、と引き戸の開く音がする。


「おはようございます、局長、アキラ」

「あ、おはようオウマ君ぅええぇ!?」

「ん?」


 奇声を上げるアキラに、枉王院(おうおういん)煌真(オウマ)は首をかしげる。


「いやいやいやいや、なんで下半身裸なの!?」

「ふう。考えが足りないな、アキラ」


 やれやれとオウマは肩をすくめる。


「カメラに映したり言及しなければ、下半身が裸かどうかなんて分からないだろう?」

「そういう問題じゃないよボクたちには見えてる――あぁ! 局長がいるんだから隠して!」

「そもそもなぜ俺が下半身裸でいるかというとだな、朝寒かったから布団に包まっていて――」

「いやそういうの聞いてないから!? 局長なんとか言って」

「まさかこれってシンクロニシティ? 同時発生的な発想いやでも自然に起きたとは考えられないまさか宇宙人そう隣の銀河から来ているという――」

「局長も壊れた!」


 目をぐるぐるさせながらクヌギは支離滅裂なことを言う。


「ああーもうどうしたらいいんだぁ!」

「なにしてんのー?」


 そこへやってきたのはアキラとよく似た、ピンクの着物を着た眼鏡の少女、七見屋(なのみや)ミサギ。


「あっ、ミサギ! 助けてよ大変なんだ!」

「おぉ、ミサギ。おはよう」

「あー、おはよ……は!?」


 ミサギは目を丸くし小刻みに震えながらオウマに指を突きつける。


「ああああ、あん、は? なっ、なんで!?」

「やれやれ、動揺しすぎだろう。この効率の良さがわからないとは、ミサギもまだまだ子供――」

「誰が幼児体型じゃこのド変態!」

「グワーッ!」


 アッパーカットを食らって下半身にモザイクのかかったオウマが窓から空に吹っ飛んでいく。


「いやー助かったよミサギ――」

「アンタもだよっ!」

「ウワーッ!」


 アッパーカットを食らって下半身にモザイクのかかったアキラが窓から空に吹っ飛んでいく。


「はーっ、はーっ、あの変態どもっ」

「いやーまさかアキラ君も下半身脱いでたなんて気づかなかったよ」

「いや気づこうよクヌギちゃん!?」

「えへへ。ねえ、ところでさ」


 クヌギはミサギに近づいて手を取る。


「なんで私たちもさっきからずっと上半身しかカメラに映らないのかな?」

「クヌギちゃん!?」

「お願い死ぬときは一緒だよ!?」

「いやいやいやいや!?」

「正直に答えて! どっちなの!?」


 ミサギは視線をちらりと下に向け……戻す。


 クヌギはニコリと笑って――


「死のう」


 取り出した自爆ボタンを押した。


 遠景から爆発する帝都。やがてその爆風は日本を、世界を巻き込み、地球が爆発四散した。


(デカデカと表示される「完」)


(に追加される「(けつ)」)




公開コメント(一部抜粋)


 ◎ 急に別のチャンネルの動画が始まったかと思ったwwwww

 ◎ へーこくとコラボとか混ぜるな危険すぎるwwwww

 ◎ 生放送は普通なのに動画はぶっとんでるのほんと草

 ◎ 貴重なナイ司教とアツベ局長の3Dありがとうございます!

 ◎ 俺も下半身裸で見てます

 ◎ カメラッ! もっと下げるんだよッ!

 ◎ 困った時の自爆オチまたかよwwwww

 ◎ 完尻じゃあないんですよ

 ◎ 上半身しか映ってないVが下半身裸だと思う呪いにかかってしまった

 ◎ アキラくん?

 ◎ 可能性って無限大だな……

 ◎ どっちもいつものノリ過ぎてひどいwwwwwww

 ◎ 次回には何事もなかったかのように元に戻る地球さん

 ◎ いつもながらクォリティ高いなあ専門生とは思えない

 ◎ 新式放送局のカメラになりたい

 ◎ 残念なイケメンしかいない動画

 ◎ 低評価を押しました。理由はもちろんおわかりですね?クヌギちゃんとミサギちゃんの下半身を映さないからです!

 ◎ BANされそうな動画wwwwww

 ◎ 概要欄たすかる。へーこくの人たち登録しました

 ◎ 玉音放送が空振りに終わってしまったのか……

 ◎ またコラボしてほしい

応援ありがとうございます。

すいません。毎秒(毎週)投稿が厳しくなってきたので毎秒(隔週)投稿になりそうです。


なので次回は来週日曜に短めのを更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高貴たすかる テレワーク会議なんかでもたまに出るジョークですね。 アンダーフリー。
[良い点] 無理しない様に腹を温めながら全裸で毎秒投稿しろ [一言] シュレディンガーの全裸
[一言] ★4にしました!理由はおわかりですね? 毎秒投稿を辞めたからで・・・ ん?毎秒投稿するのか。 ならいいか(★+1)
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