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出会い

 錦織の目の先には女性が説明した通り色黒でがっしりした体型の男がいた。ノースリーブタイプのシャツから出ている二の腕は柔道でもしていたかのように男性らしい形をしている。


「あっ、電話くれたにしこりさんね。ちょっと待ってて」


 掛川はやりかけの仕事を終えると首に巻かれたタオルで額の汗を拭きながら錦織の所へやってきた。


「すみません。お仕事中に。集講文庫のにしこおりと申します」


 錦織はバッグから名刺入れを取り出し、その中の一枚を掛川に手渡した。


「へー。にしこおりさんて読むんだ。それで? 誰を探してるの?」


 錦織は吉村から預かった二枚目の手紙と自分で拾った最初の手紙を広げ掛川に見せた。


「名字はわからないんですけど、この手紙の送り主を探してるんです。アヤトさんと読むのかジュントさんと読むのかさえも分からないんです」


 錦織はそう言って項垂れた。しかし掛川がすぐさま声をあげた。


「あっ、これケントだよ。ケントが優花ちゃんに送った手紙じゃないかな。でもこの日付おかしいな。本文はまだ読んでないけど優花ちゃんが亡くなってからずいぶん日が立ってるね」


「ケントさんと読むんですね。日付に関してはおかしくないんです。亡くなった優花さんに宛てた手紙なんです」


「優花ちゃんの事愛してたからな。絢斗らしいって言えばそれまでだけど、送り先もないのになんであいつこんな手紙書いたんだろ」


 絢斗の事を「あいつ」と表現した事で絢斗と掛川は仲の良さが推測できる。錦織は一筋の光が見えたかのように安堵した。


 その手紙が今は亡き優花に送った物である事、郵送された物ではなく海に投げ入れられた物である事、一通は九十九里で拾った物でもう一通は茨城県ひたちなか市の沖合いで拾われた物である事、そして二通とも日付が十一月五日である事を錦織は掛川に説明した。


「なるほどねえ。あいつ漁師だから船から投げたのかもね。でもなんで十一月五日なんだろ」


「わたし、直接会ってお話を聞きたいんですが連絡先ご存知ですか?」


 すると掛川は苦笑いしながら錦織に向かって話しだした。


「連絡先も何もあいつん家うちの隣だよ。俺たち幼馴染みなんだよ」


「そうなんですか? 今日会わせていただく事ってできますか?」


 錦織は瞳をキラキラさせながら背の高い掛川を見上げると、両手の指を胸の前で交差させた。


「いいよ。あいつにも電話で連絡しておくよ。五時に仕事終わるから待ってて」


 錦織は掛川を待つ間、スマホを取り出し電話をかけた。


「あ、もしもし。守さん? 栞菜です。ご挨拶もなしに出て行ってしまってすみません。これから手紙の送り主に会わせていただく事になりました」


『石巻に行ったんだって? さっきお袋から聞いたよ。でも良かったね。協力できて嬉しいよ。あ、お袋栞菜ちゃんがいなくなって凄い寂しそうにしてんだよね。良かったらまた遊びに来てやってね』


「はい。必ず行きます。本当にありがとうございました。お母様にも宜しくお伝え下さい」


 その後錦織は掛川の仕事が終わるのを待ち、軽トラックの助手席に乗り込んだ。


「じゃあ行こうか。汚い車でごめんね。あいつと俺は腐れ縁でね。小中高とずっと一緒でさ、同じ野球部でバッテリーでね。誕生日も一週間違いで挙げ句の果てには結婚したのも一週間違いなんだよ。まあ、あいつの奥さんは結婚して一年も経たない内に亡くなっちゃったんだけどね。あ、それにね、食べ物の好みも似てるし嫌いな食べ物も同じ納豆なんだ」


「えー、そうなんですか!」


「変な仲だろ? 唯一好みが違ったのは女性のタイプかな。ははっ」


「じゃあ女性の事で喧嘩になんなくて良かったですね」


 錦織は運転している掛川の顔をいたずらっ子のような表情で覗き込んだ。


「そうだね。あいつイケメンだから好みが被んなくて良かったよ、ホント」


「一週間違いって事は掛川さんも平成二十二年に結婚されたんですね」


「そう。平成二十二年の十一月十二日……」


「あっ!」「あっ!」


 二人は同時に声をあげた。お互い声をあげた理由は同じである。二人は目を合わせ人差し指を立てながら再び同時に声をあげる。


「結婚記念日だわ!」「結婚記念日だよ!」


 手紙の日付、十一月五日の謎が解けたのだ。二人はなんだかおかしくなりプッと吹き出した後笑いだした。


 しばらくすると掛川は車を停め、クラクションを小さく二度鳴らした。


「絢斗すぐ出てくると思うよ。あっ、出てきた。ちょっと待っててね」


 掛川は車を降り門の中へと入っていった。錦織は名刺入れを取り出し車の外で待機する事にした。庭にある木により錦織の場所からは絢斗の姿が見え隠れしている。


「絢斗、ほら、こっちこっち」


 掛川が絢斗を呼ぶと長靴姿のまま一人の青年が錦織の目の前に現れた。


 錦織はあまりの驚きに動く事も声を発する事もできずにいる。あんぐりと口を開けたまま静止画のようにぴくりともしない。と、その時、固まった錦織の手から名刺入れがぽとりと地面に落ちていったのだ。


「大地さん……」


「錦織さん? どうしたの? 錦織さん?」


 掛川の呼び掛けにふと我に返った錦織は慌てて腰を(かが)め名刺入れを拾い上げた。


 初恋の相手――尾藤大地――に瓜二つだったのだ。現実と異世界のはざまにある空間にでも引き込まれてしまったような感覚を覚えた錦織は名刺入れを拾い上げた直後ふらりと身体をふらつかせた。


「あっ! 大丈夫?」


 そう言って錦織の身体を支えたのは絢斗だった。

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