俺は俺
ちょっとサブタイトルが読みにくいかもしれません。
少し、加筆しました。個人的にはこちらの方が気にいっているので、読んでみてください。
既に日付が変わっていた。
勿論、ジンヤも既に熟睡――――――出来るわけが無かった。そもそも、ほんの数時間前まで迷宮という極限状態の状況に居て、常に寝るときも警戒をしていた人間が、普通に寝れるわけがないのだ。
『冒険者ギルドにて危険を察知。危険度B―ランクと判定しました』
「よりによって今、その警報を鳴らすなよ……。もう少しで寝れたかもしれないのに」
俺は如何にも、面倒臭そうな声で呟いた。
ちなみに、『危機察知』スキルの効果は、使用者に危険を自動的に知らせてくれることだ。そのため、常に危険の瀬戸際の状況だった俺は、寝る際にこのスキルを必ず発動させていたのだが、今回はその設定を切り忘れていたのが原因だった。
「ご主人様、どうしたの?―――――ん、んん」
レイは、俺の事を心配そうに見てくるが、心配しなくて良い、ということを伝えるために俺が彼女の頭を撫でると、顔の頬を緩めていた。
んー、それにしてもレイ、俺が声を出してから直ぐに反応してたよな。何でだ?
―――――ちなみにその理由だが、自分のご主人様が床でまだ寝ていないのが何となく分かって、自分だけ寝るわけにはいかなかったので、ずっと起きていた、というだけだったのだ。
だから、ジンヤの声が聞こえた時にとっさに反応出来たのだが……その事をジンヤが知る由も無かった。
「ん?いや、ちょっと冒険者ギルドので問題があったようでな。『危機察知』スキルがメッセージを流しているんだ」
俺が声を出した原因を、レイに話した。
それを聞いて、レイは少し考える表情をしたかと思うと、自分の意見を言ってきた。
「でも、ギルドはご主人様に酷い事をしたと聞いてる。行く必要はないと思う」
レイは、俺の事を全て分かった上で、意見を述べている。
――――――つまり、俺は話したのだ。
俺の正体も、この世界の人間ではないことも全てだ。
……俺は普通、自分の正体がバレるようなことは決して言わないのだが……俺はどうやらレイに甘いようだな。
それにしてもまあ、確かに俺もそうは思うんだがな。正直、いきなりギルドを追い返されるとは思わなかったわけだし……。
そして、今回も本来なら俺は、わざわざギルドに行くつもりはなかった。
だが―――――今回は『危険度』がマズいんだよなーー。
迷宮に居た時は『Bランク』や『Sランク』なんて当たり前のことだった。
だが、俺がこの強さになってからは、DランクやEランクまでがほとんどだったのだ。それなのに、『B-ランク』が付いてしまった。
そんな俺ですら、少し怪我をするかもしれない事を、ギルドの連中だけでするなんて、危険すぎて、見ていられないわ。
「俺が行かなかったら、ちょっとギルドの連中には荷が重いな」
俺は苦笑い気味に、レイを見た。
……本当は、行きたくないんだけどね。
「ん、流石ご主人様」
レイは目を輝かせて、俺の事を見てくる。
だけど―――――――
「流石って言われる程、俺は凄くないよ」
そう、俺は凄い奴なんかじゃない。
本当にすごい奴は、最初から強い勇者みたいな奴だろう。あいつらは最初から『力』を持っている。そして彼らは何も失なわず、全てを得て、その全てを守るのだ。
今の俺ならば、どんな存在にも負ける気は起きないが、昔の俺だったならば話は違う。……昔の俺は、脆弱だった。今のこの強さも、全て迷宮で手に入れた力だ。
俺の力は、最初からあった物ではない。
「……ご主人様が何を思っているかは、分からない。でも私、レイと言う人格も名前もご主人様が創ってくれた。私にとっての全てはご主人様。これは覚えていてほしい」
……本当に、レイにはまだ会ったばかりなのに、心配をかけてばっかりだな。
レイの言う通りだ。
俺は、俺だ。勇者なんかでもなく、ただ冒険者になろうとしている普通の……旅人だ。変に気構える必要はない。ただ、のらりくらりと旅をするだけのな。
それに、何も努力せずに力が手に入るより、努力して力が手に入る方が良いに決まってるじゃないか。
「俺は一体いつまで、自分が勇者じゃ無い事を引きずってたんだかな」
レイのおかげで、自分の気持ちの整理が出来た。
レイと会ってから、感謝ばかりだ。
それにしても、
「そろそろ、行かないとマズイだろうから、準備をするぞ」
「ん、ギルドはご主人様の広い心に感謝するべき」
その会話から5分もしない内に、両方とも準備が終わったので、俺たちは部屋の窓から冒険者ギルドがある方角へ飛んで行った。
1話じゃ、前回の一番最後の部分までいけませんでしたね。
恐らく次話で、閑話と同じ時間列に戻ると思います。




