閑話2 元Sランク冒険者
次回、本編に戻ります。
しばらくして戻ると、彼の姿はありませんでした。
セリナさんに聞くと、
「ご、ごめん。まさかあんな大ごとになるとは思わなくて……」
――――――。
――――。
―――。
簡単にセリナさんが説明してくれましたが、その内容はとんでもない事でした。
そもそも、ギルドに登録しようとしていた人を追い返してしまった。これがまず、いけない事です。このままでは、ギルドの信用問題に関わると思い、私は『ギルドマスター』に話しましたが―――――
「知らん。最終的に判断をしたのは、セリナだ」
冷たく話されてしまいました。流石にそれは無責任すぎると思い、抗議しようとすると――――
「だから、セリナを説得して、謝りに行きなさい」
その声は、普段の優しい『ギルドマスター』の声でした。
「で、でも……許してくれるでしょうか?」
それが私の唯一の不安でした。ギルドに登録しに来たのに、追い返されるなんて事したら、私だったら許す気にはなれません。
しかし、ギルドマスターは―――――
「大丈夫ですよ。どうやら彼は、精霊に良く好かれているようですから」
「精霊にですか!」
「はい」
信じられません。ギルドマスターは『エルフ』と言う種族に分類されるので、精霊を見ることが出来る。と、聞いたことがありました。でも、精霊に好かれるのは、よほどの力を持った者か、心が優しい者か、あるいはその両方です。
その言葉を信じて私は、直ぐにセリナさんを連れて探しに行こうとしましたが、それより厄介な問題が発生してしまいました。
ドカンッ!!
ギルドのドアが壊されてしまいました。先程まで寄っていた冒険者の人たちの間にも緊張が走ります。当然、ギルドを出ようとしていた私たちも、直ぐに戻りました。
「おい!さっさと、女と金を出せ!!」
やって来たのは盗賊でした。
◆ ◆ ◆ ◆
ギルドが占拠されてから、数時間―――――。既に、外は闇に包まれています。
それほど時間が経って、ようやく盗賊の正体が分かりました。
彼らは2年前、こことは別のギルドでブラックリストに登録された冒険者パーティーだったのです。ですが、ここまでなら何の問題もありませんでした。ここに居る冒険者全員で戦えば、勝てる可能性もあったのです。
でも―――――
「おいおい、まだ状況が分かってねえのか?昔、俺たちが冒険者だったころのランクは……Sだぞ?」
「「「「!?」」」」
冗談ではありません!冒険者のランクは、Aまでなら才能のある者なら長い年月をかけてなることが出来ます。でも、Sは別です。このランクは化け物と呼ばれる人たちがなるランクで、Aランクが束になっても敵う事はない強さを持っているのです。そんな人たちに、私たちが幾ら戦っても勝てるわけありません。
「「「「………」」」」
先程まで敵意を向けていた冒険者も、受付嬢も、全員がそれを止めました。
「おい。そこのお前」
「………」
私は答えません。だって、本能が答えるのを拒否しているから。
―――――でも今回は、それがいけなかった。
「おいお前ら!上玉を見つけたぞ!!」
リーダーに呼ばれた彼らがどんどん、私のもとへ集まってきます。
「本当だ。これは確かに上玉だな」
彼らは下心丸出しで、私を見てくる。
……あの5年前の光景が頭をよぎる。次々と私を襲ってくる男の人……。次第に壊れる音が聞こえてくる私の心。全てをあきらめてしまった私が……。
「………」
盗賊は、私の服を触ってくる。彼らの手が、私の体を這う。
や、やめて。…やめて!やめてください!!………誰か、助けてください………。
「あのー、すいません。うるさくて寝られないんで、静かにしてくれませんか?」
「ん、ご主人様。……眠たそう」
やって来たのは、仮面をつけた男と、顔をフードで覆っている女の子だった。




