163話 ギデオン達の答え
キラミン王国。
リットの故郷であるロガーヴィア公国からさらに北西。
白い雪に覆われた北方の地にそびえ立つ巨大都市。
国としての規模は小さくとも、ハイエルフ達の築いた魔法の都は、アヴァロニア大陸最大の都市として名高い。
キラミン王国は人間以外が王国を名乗ることを認められている唯一の国家だ。
「気候はリットのいたロガーヴィア公国よりも寒いわね。冷たい北の大地に築かれた都市国家よ。でも魔法で都市の内部はどこも春の陽気のまま。数え切れないハイエルフとその友人達が暮らす麗しの都。水晶を散りばめた大神殿の伽藍はラストウォール大聖砦に勝るとも劣らない。街を守る永久岩の三重城壁はいかなる敵も寄せ付けなかった絶対の守り」
ヤランドララは歌うような声でキラミンについて話した。
「もちろんキラミンは理想の楽園なんかじゃない。良いハイエルフもいれば悪いハイエルフもいる、そこは人間と同じ……でも私達は裏切らない」
ヤランドララはじっと俺達を見つめる。
「待ってくれ」
俺は慌てて声を上げた。
「俺もリットもゾルタンでの暮らしを楽しんでいる、ここはいい町だ。俺達はどこへも行くつもりはないよ」
「今はそうかも知れない。でもいつかこの町もあなた達を裏切るかも知れない。私の国ならばそんなことはありえないわ」
「……確かに、未来のことは分からない。人間は心変わりもするし、自分の命や家族を守るために他を切り捨てることだってあるだろう。ゾルタンの人々は英雄じゃない、ただの一般人だ。どんな犠牲を払ってでも友情を守るということはないだろう」
「だったら……!」
「だけど、今この瞬間のゾルタンの人達と俺達との友情は本物だ。俺もリットもルーティもティセもうげうげさんも、みんなこのゾルタンに友達がいる。未来のために今の信頼を疑うことはしない」
リット、ティセもうなずいて同意する。
「私がゾルタンを選んだのは、ロガーヴィアから遠く離れているってだけの理由だった。でも、私も今ではこの町が好き。レッドと一緒に暮らして、ストサンやゴンズやタンタとか、色んな人達との暮らしが楽しいの。だから私もキラミンにはいけない」
「私はルーティ様と一緒にゾルタンに来ました。正直に言えば無理やり連れてこられたような状況だったのですが、おかげで私はルーティ様と友達になれました」
「親友」
ルーティが訂正した。ティセはちょっと照れた様子で少しだけ顔を赤くした。
「親友になれました。それもこのゾルタンという町の雰囲気があったからです。呑気で、他人の過去を気にしないおおらかな場所。私のような生き方をしてきた人間にとって、これほど良い環境はありませんから」
うげうげさんも八本の脚をフル動員し、ゾルタンの良さを全身で表現している。
俺達の様子を見て、ヤランドララは微笑んだ……少し寂しそうな微笑みだった。
「残念振られちゃったか」
それから真面目な表情に戻る。
「あなた達がこのゾルタンで幸せに暮らしているってことは分かった。でもハイエルフは気が長いのよ? だから私も気長に待つことにするわ、もしゾルタンがあなたを拒絶することがあれば……今度こそは私はあなたを一人で追放させたりなんかはしない」
ヤランドララは強情だな。
だけど、そこにあるのは俺に対する親愛の感情だ。
「分かった、未来のことは未来で考えることにしよう」
「うん、今はそれでいいわ!」
「あとヤランドララ」
「何?」
「多分、ヤランドララはそんなに気が長いわけじゃないと思う」
「まぁ!!」
ヤランドララは驚き、ちょっと怒った表情で俺の胸を小突く。
「そんなことないでしょ、ララお姉さんはいつだって優しく穏やかよ」
俺が出ていった後、アレスと殺し合い一歩手前までのガチバトルしたのによく言う。
ヤランドララは、些細なことで怒ったりはしないが怒るべき時は我慢せず怒るし、そういう時は凄まじく怒るのだ。
俺と出会う前のことだが、ヤランドララは生贄の風習がある村での騒動で村長の対応にキレて、村1つ破壊したことがあるらしい。
敵に回したらとても怖い女性なのだ。
「むー、ヤランドララは優しいお姉ちゃんって言いなさい!」
俺の表情を見て何を考えているのか察して、ヤランドララは俺の肩をゆすりながらそう言った。
その様子に、みんな声を上げて笑う。
俺とヤランドララも、すぐに楽しく笑った。
「話は終わった?」
俺達の様子を見てルーティが言った。
「私達がゾルタンを出ていくわけがない。最初から結論は決まっていた」
はっきりとそう言うルーティに、ヤランドララは少し驚いた様子だ。
「ふふっ、驚いたわ。ルーティもこの町がとても好きなのね」
「うん、私はゾルタンが好き。オパララのおでん屋も、ゴンズやストームサンダーが騒ぐのも、ニューマン先生の診療所も、鍛冶師のモグリムのホラ話を聞くのも、冒険者ギルドのメグリアやガラディンも、タンタやアデミもワイヴァーンズレースで遊ぶのも、どれも楽しい」
「そう……ルーティは今幸せなのね」
ルーティは誰にでも分かるくらいのこぼれるような笑みを浮かべた。
「うん、幸せだよ」
俺はルーティのその言葉を聞いて、ますますこのゾルタンが好きになっていた。
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ですが、ここまでこれたのも皆さんのおかげです!
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