6・さあ、期待に胸を膨らませて
賊の討伐で時間を食ったが、再出発して石鹸の産地を目指すことにした。
石鹸の原料であるオリーブ産地といえば地球においては地中海沿岸。それはこの世界でも似たようなもので、温暖で、かつ乾燥気味な南方海沿岸部が産地である。
そして、地球においてはイタリアやスペインといったオリーブ産地には米文化がある。
という事は、この世界でも似たような文化があるのではないかと考えている。
ただ、この世界では東方世界に到達できないので、アジアイネに相当する稲がナーロッパ地域には存在しない可能性について考慮しているのだが、稲には二系統存在するので、アジアイネがなくとも、アフリカイネの系統が伝播している可能性がある。
うわさでしか聞いていない鬼の国というのが、南方海のさらに南にあり、西方はごく近くまで岬が迫った海峡になっているので、海の魔物が居る危険な海域を長期航海せずとも日中に渡海出来る距離なのだという。
ならば、アフリカイネ相当の。いや、もしかすればアジアイネ相当があっても不思議ではないのではと期待している。
じゃあ、なぜそれが僕らが召喚された国まで流通していないかって?
そもそも、麦文化圏であり、主に畑作を行う地域に稲が入り込む余地はない。
稲にも日本でなじみの水稲ばかりではなく、畑で育てる陸稲も存在はすれど、麦の栽培というのはその多くが秋に蒔いて初夏に収穫をする。
麦というのはMっ気が強い植物なので、寒さに当てないと結実できないらしい。まあ、中にはそうではない品種もあり、大麦などは裏作として春に播いて秋に収穫する事も多いそうだが。それ以外にも、北方においては、冬は長期に渡り土地が凍るので、地面が融けた春に播いて秋に収穫できる品種を栽培しているという。
が、当然のことながら、稲であれば、春に播いて秋に収穫するのが普通だ。
生産時期が一般的な麦とは逆なので、栽培自体が広がらない。そして、主食がパンであることも要因だろう。
麦に対してコメは実が硬いので、製粉して使うよりも、実をそのままの形で食べるのが主流になっている。その点でも、主食たりえない。
そんな米が栽培され、食されていたのが、ヨーロッパではスペインを中心とする地域であり、当然ながら、自生種からの栽培化ではなく、ムスリム勢力の進出や交易によるものだった。
その為、この世界で期待されるのも、海を挟んだ向こう側との交易による伝播だ。
何か耳寄りな情報があるなら、僕が向こうへ渡って探すのもありだと思っている。
そんな事を思いながら、南方への中継拠点となっている街へと到着した。
「これから南へ行くのかい?止めた方が良いよ」
と言われてしまった。
なんでも、冬の時期には峠にかなり雪が積もる上に、一番高値で石鹸が取引される時期という事で、盗賊も出没しているという。
そんな危険な道だが、そうは行っても、荷車が通れる安全な道が出来たのは、二百年前の召喚勇者の功績であるという。
銭湯や公衆衛生をひろめたのとは別の勇者がそれまで脆弱であった南北の通商路として、山脈を貫く峠道を開いたのだという。
その為、勇者街道などと言う俗称があり、とても険しい渓谷に穿たれた隧道や険しい地形に掛けられた橋を勇者洞門や勇者の橋と称してもいるらしい。どんなところなんだろう?
まずはこの街の冒険者ギルドへと寄り、護衛依頼や盗賊討伐依頼が無いかを確認すると、ちょうど南方へと帰る商人が護衛依頼を出しているのを見つけた。
その依頼をもって受付へ行くと、怪訝な顔をされる。
「あのう。この依頼は上級冒険者でなければ受け付けていないモノでして・・・・・・、え?」
僕の顔を見て駆け出し冒険者に見えたのだろう。しかもソロで護衛依頼を受けるなど、そもそも通るはずがない。
しかし、タグを見せると驚いている。
「失礼いたしました。貴方がかの有名な『鮮血の妖精』ユウさまでしたか」
どうやら、タグを見せなければバレなかったらしい。まあ、バレちゃったけど。
結果、こちらをニヤニヤ見ていた青年冒険者だとか、生暖かく見ていたお姉さんなんかが、顎が落ちんばかりに驚いている。
「たしかに、僕はユウだけど。そんな大声で言わなくても・・・・・・」
そう、受付に抗議したが、受け付けのお兄さんもそれどころでは無いらしい。
「あ、いえ。はい。それで、ユウさまがこの護衛依頼を受注していただけるのでしょうか?」
と、聞いてくる。
依頼内容は勇者街道を南方の街までである。金額も相応なモノではあるし、食事の面倒も見てくれるらしい。特に不満がある訳ではないのだが、一体何が問題なんだろう?
「何か、問題でも?」
そう聞いてみたら、なぜかお兄さんが顔を赤くしている。僕にはその気はないからね?
「ああ、可憐だ・・・・・・、オホン。いえ、ユウさまの様な方が受けるには少々安すぎるのではないかと・・・・・・」
と、こちらを窺って来る。
たしかに、もしこれが勇者への報酬としてならば、国を挙げての話になってしまうのだろう。
そんな事もあって、あの二人は召喚した国でのんびり暮らしているし、過去の勇者も色々内政には励んでいたらしい痕跡が随所にあるが、冒険者として自由に旅をしていたという風では無かった。
まあ、僕の場合、「ごはん」を求めて各地を巡っているので、中には警戒する貴族や王族なんてのも居た。やたら媚びを売って来るのも居た。
が、逆に、敢えて無視をするところも無くはない。そして、最近は貴族や王族に知られる前に街を発つことがほとんどだ。
だいたい、「ごはん」がその地域にない事が分かったならば、いつまでも居続ける意味がない。それに、媚びを売る貴族や王族に掴まると厄介ごとにしかならないのだから。




