5・後悔先に立たずって奴だった
「ヒヒャヒャヒャ、おい小娘。その不釣り合いな火槍を置いていきな」
街を出て少し歩いていると、そんなお下品な事を言う連中に出くわした。
「火槍なんてどうするの?」
火槍はこの世界では非常に高価な品だ。何といっても、その弾丸を発射するためには魔石を必要とする。
火槍には装薬の代わりに魔石の粉を詰めるのだが、その粉として利用できる魔石が非常に高価で、火槍それ自体も高いが、弾薬も一般人が気軽に買えるモノではない。そんな火槍を担いでいるとなれば、貴族か上級冒険者しかありえない。
貴族が有する兵団ですら、侯爵クラスでようやく100丁とか200丁揃えていれば良い方で、子爵だと、持っているのは貴族当人と直臣騎士が持つ程度。男爵だと火槍を手に入れたとしても年間に数発も撃てるかどうかというレベルになる。とにかく弾代が馬鹿にならない
そして、冒険者だと実用性というよりもステータスとして担いでいたりする。実際に使う場面などほぼ無い。よほど恵まれたパーティーの弓手が狙撃に使う程度。
そんなモノを、見た目15歳ほどの少女が担いでいるとなれば、上級冒険者だとは思われない。貴族のじゃじゃ馬令嬢が担いでいるように見えるだろう。
それにしてもだ、少し頭を使えば、貴族の令嬢が1人で歩いているなんてあり得るか?
「決まってんだろ。貴族に売るんだよ」
いや、何とも足が付きやすい事で。そんな奴を貴族が生かしておくと思ってるのだろうか?
「ついでに、お前もな」
などと、別の賊がニヤニヤ言って来る。
「へぇ~、貴族が買うの?本当に買うと思う?奪って足が付かないように始末されると思うんだけど?」
わざとらしく、やれやれといった風にそう言ってあげる。
「おい、調子こいてじゃねぇぞ」
と、凄んでくるが、本当に分かっていないらしい。
彼らにも分かるようにゆっくり背中から脇へと銃をまわし、銃剣を返す。
「大日本帝国陸軍が制式化した四四式騎銃。それが、コイツの本来の名称。これは鍛冶王が拵えたとされている聖槍アリサカって言うらしいんだけど。それを今持っているのは誰でしょう?」
にっこり微笑んであげた。
「へっ、鮮血の妖精みたいなことを言うじゃねぇか。そいつが聖槍アリサカだっていうのか?だったら余計に高値で売れるじゃねぇか。まあ、ハッタリだろうがな」
と、ニヤニヤこちらを見てくる。本当に学が無いのか、察しが悪いのか。そして、その中の一人が、僕の後方へと視線をやった。
まあ、居るのはさっきから分かっていたんだけど。襲い掛かるまで知らないふりをしておこう。
「その聖槍アリサカを寄こせば、お前は見逃してやるよ」
そんな事を言って来る賊。しかし、その中の一人は明らかに僕の後方へと視線を送っている。バレていないつもりらしいけど。
「う~ん。聖槍アリサカって、普通の弾が使えないの知ってる?これに弾を生成できないといけない。こんな風にね。『実包生成』」
後方に気付かないふりをしながら、クリップを取り出し、そこに実包生成を行う。
「ほう、ソイツは耳寄りなじょうほ・・・、ハァ?」
クリップを取り出したところまではニヤニヤしていた賊だったが、実際に実包生成を見て驚いているらしい。先ほど後方へと合図を送っていたヤツなど、実包生成を見て、あからさまに首を横に振っている。コイツは理解が出来ているらしいが、後方の奴は全く分かっていないよ?まさに襲い掛かろうとしている。
「まだ理解できないのが居るらしいから、実体験してもらね?」
そう言って、首を横に振り続ける賊へ微笑みかけてから、身体強化と共に、後方に忍び寄って来ている賊へと銃床を叩きつけて吹き飛ばす。
「だれか、体験したい人は他にも居る?」
前に居る賊にそう微笑みかけると、一瞬、何の事か分かっていなかったが、後方に居たハズの仲間がいないことに気が付いて一目散に逃げだした。
「んなバケモン相手に出来るかよ!!」
実包生成も、鮮血の妖精伝説の一節として非常に有名だから、こいつらも知っていたらしい。それを目にした以上、本人だと確信したんだろうが、もう遅い。
逃げる賊はちょうど5人。生成した実包を弾倉に装填してサクサク撃ち込んでいく。
この世界で賊に慈悲なんてありはしない。そんな事をすれば他の誰かが被害に遭うだけ。強者に遭って仕事に失敗した後にどんな事をやるのか。実際、こうして旅に出てすぐは、慈悲をかけて賊を見逃したことがあった。
しかし、何をどう間違ったのか、数日後に思い付きで道を引き返していると、襲われる冒険者と商人に遭遇してしまった。
襲っていたのは、見逃した賊だった。
僕を襲えなかった腹いせだろうか。金品を盗って逃げるのではなく、冒険者と商人を標的にしてとにかく八つ当たりのように殺しまくっていた。ただ殺すのではなく、うらみでもあるかのような凄惨なやり方で。さらに、僕を見た連中が言った。
「テメェーのせいだぞ。テメェーが通ったからこいつらはこうなったんだ。ザマァーねぇな」
連中も、僕を見て殺されるのが分かったのだろう。やけくそ気味にそんな事を言いながら、僕に殺されるまで、冒険者や商人を傷めつけていた。
あれ以来、賊を見れば容赦なく息の根を止めている。あんな事態は2度とごめんだ。あんな事態が起こらない様に、僕が賊を始末しなければならないんだと心に決めた。




