14・そっか、それではどうしようもないかもしれない
ガタガタ震える門番たちをさわやかに見つめるイケメン。
何だこの情景は。
「さて、ここは私が彼をとりなしておく。それで良いかな?」
と、門番に言う。とりなすも何も無いんだが・・・・・・
「お‥お願いいたします!」
と、言って尻もち付いたまま後ずさりをする門番たち。
それを二人で眺め、どうにか立ち上がって逃げていく連中に声が聞こえなくなったころ、イケメンが再び口を開いた。
「君はその姿で、元居た世界を生きていた。訳では無いと思うのだけど?」
などと聞いてくる。なぜわかるのだろうか。
「そうか、図星の様だね。おっと。そう警戒しないでくれて良いよ。もう気付いていると思うけど、私も地球出身でねぇ。巻き込まれ召喚と言うんだっけ?それなんだよ」
などと語り出した。
彼曰く、僕が召喚された際、一緒にこちらに来た2人の勇者が居た訳だが、どうやらそこに巻き込まれたという事であるらしい。
「それも、二重の意味での事故でね。召喚された2人と私は同じ地域の住人だった。彼らは普通に召喚されたんだけど、乗り物に乗っていたらどうなると思う?」
それはちょっと分からない。僕のケースとは状況が違うので。
「乗り物は召喚されずに地球に残ってるんだよ。そして、まだ魔法陣が消える前に、私はそれに轢かれてしまった」
やれやれという仕草をするイケメン。
「その後だよ。轢かれた私は考えてしまったんだ。『来世があるなら、イケメンに生まれ変わって私を見下す連中を見返してやりたい』とね。ただ、やはり、女のままでいいかも、とも」
などと言い出した。うん、それはまさに状況が似ている。
僕は、召喚時には意識があるやらないやらであっただろう。なにせ、流行の病気で病院に居たのだから。
朦朧とした中で考えたのは、理想の美少女の事だった。
そして、気が付いたら、よく分からない場所に居た。
初めは何が何だか分からなかったけれど、召喚されたんだという事が分かり、話を聞いていると、女だと言われた。
しかし、僕自身は意識だけでなく、しっかり体が男であることを確認していた。なにせ、股間に違和感がなかったから。
その後に確認しても、体の方は問題なかった。ただ、中年に差し掛かるメタボを指摘されるような体系だったはずが、小柄で細身の体系にはなっていたが。うん、スベスベ肌だよ?男だけど。
「それはまた、私と似たようなものだね。少々飛ばされる先が違ったみたいだけど」
と言って来た。
イケメンな彼女が飛ばされたのは、3年前の召喚の時ではなく、さらに以前であり、この地域の有力者一族への転生としてであったらしい。
「正確には血がつながってはいないと思うんだけどね。私は拾われたと言った方が良い」
勇者召喚に巻き込まれたことで、勇者チートなチカラの一部を得、有力者の目に留まり、養子になったという事であるらしい。
「文献として残っている訳ではないから、詳しい事までは分からないけれど、五百年前の召喚でも事故が起きて、この地域に転生者が生まれたらしい。それが、我々鬼族を統べる人物となり、二百年前や今回の氾濫においては正気を保った一因だと言われている。まあ、門番を見ての通り、そもそも気性が荒くて粗野なんだけどね」
との事だった。
どうやら、外にはほとんど知られていない話でもあるらしいが、似たもの同士である上に、僕がその召喚者という事で教えてもらえた。
そんな彼女に親近感が沸き、「ごはん」の話をしてみると
「ああ、地球でいうライスなら、南の大陸に行けばあるにはあるよ?ただ、君や私が知っている栽培環境とは異なっているから、実の方も少々違うんじゃないかな?」
という話を聞かせてくれた。
そのライスに似た食べ物は、水辺、湖や川に生える植物であるらしく、食用になる事から栽培化はされているが、その栽培環境が特異なため、広く伝播するような事にはなっていないという。
「君や僕の知る穀物であれば、水を張った畑や浅い沼地で育てるはずだね。だけど、その植物は君の首辺りまである水深を要するんだ。水草の一種で、浅い湿原や陸上の畑で栽培することはできない。どうしても草丈が2m近くになるから、1m以上の水深を必要とするらしい。そして、パエリアみたいな食べ方も出来るんだけど、粘り気が強くて調理法も限られているらしい。ピラフを作ってもうまく作れないだろうしね」
その話を聞て思うのは、ほぼ野生種の稲の状態であり、しかもモチ種を栽培化しているのだろうという事だった。
その為、湖や川での栽培となるので場所が限られ、まだまだ普及するには至っていない。
それじゃあ、なかなかお目に掛かれない訳だ。
当然というか、そんな状態だから地域の変わった食べ物的な地位にしかない。栽培法が特殊で利用法も限られるとあっては、そりゃあ、広まらないのも納得だね。
「そうだったんだ。でも、それなら、日本の食べ物でモチを使った和菓子のようなものを作れば普及しないかな?」
と、提案してみたものの。問題は日持ちするか否か。
確かに、そう言う点では無理があるか。
「和菓子!でも、日持ちしないものは無理かな?どうしても食べたいなら、向こうへ渡って食べることは可能だけど、持って帰っても育てる環境が整う保証はないね」
と言われてしまった。
確かに、北方では生育温度に達しない可能性があるし、この周辺でも環境を整えるとなれば一苦労だろう。そこまでして育てるメリットも見いだせない。
せっかく旅を続けて来たのに、結論がそんな事になるとは思わなかったよ。
ちょっと餅を食べに南の大陸へ渡る気もあるけど、向こうに住めるかどうかは分からない。
中途半端な終わり方ではあるけれど、結局、「ご飯」は食べられない世界だったんだよ。




