13・南でも二つ名は有効みたいだよ?
鬼と呼ばれる人々が棲むという地域を目指してひたすら旅を続ける事10日余り、どうやらそれらしい地域に到着したらしい。
ここに近づくほどに見慣れた観光名所やら、知る人ぞ知るニッチなモノやらが多く存在している。
そんな中でも、アリカンテダムのそっくりさんが存在するのは驚きだった。
アリカンテダムというのは16世紀末にスペインで建設され、以後300年もの間、堤高世界一を誇ったダムの事。まあ、そんなことはニッチ過ぎて知らない方が当たり前な知識だけど。
そんな、重力式アーチダムがこの近辺には存在している。
ダム本体は石積み式アートダムとなっており、階段状という特徴までそのまんまだった。唯一の違いは、アリカンテダムの洪水吐があるのは右岸だが、ここは左岸に設けられている。それ以外の違いはどうやらないらしい。
さらに、同じアーチ式でも全く形状の異なるマルチプルアーチダムまで存在しているのには驚いた。
これもやはり、勇者の仕業であるらしいが。
マルチプルアーチダムに関しては、アリカンテダムとは趣が異なる城塞然とした佇まいをしており、サイフォン式洪水吐を備え、非常時には越流を考慮している。
といっても、これだって知る人ぞ知るダムではあるだろう。
大正時代に地元住民が建設に携わり、当時、ダム設計の権威と言われた人物が欧米の最新形式であるマルチプル式を取り入れ、地元にある石材を用いた石積み式五連アーチを備えたダムだ。
しかも、ダム建設でありがちな死亡事故が起きていないという逸話までついているのが、香川県にある豊稔池ダム。
そう、このダムのそっくりさんまである。
ダム。つまり貯水池があるという事は灌漑用水や上水道があるという事で、当然のように谷を跨ぐ水道橋なんてものが存在している。
それらも当然ながら、石造りなのでアーチ構造ををなしている。
勇者の橋同様のソレはやはり、同一人物の指導によるものであることをうかがわせ、ローマの水道橋よりも通潤橋の様なより後の時代の造形をしている。
魔法のある世界だからだろうか、使用する石も大きいように感じられるが、どうなんだろう?
その様な建造物を見ながら旅を続けていると、用水の先にある大きな都市へとたどり着いた。
これは少しガッカリする部分もある。
確かに、水を使う場所といえば都市というのは分からなくはない。
しかし、やはり農地こそ水を使うんじゃないかと日本人なら考えるだろう。
ダムや用水を見てまず考えたのは、この先に水田があるのではないかという事だった。
が、その様な話を聞く事は出来なかった。
それでも都市があるというのでやって来た訳だ。
この辺りの主要人種構成は、鬼族が七割程度、普通の人間もそこそこは暮らしている。そんな土地柄であり、他の魔族よりもより人間に近いらしい。
ただし、それは体質というか魔力といった類の部分であって、慣習や習俗関係という点では、北方普人族の様式とはまるで違っている。
海の向こうではどうか分からないが、なるほど、例のヒャッハー集団が冒険者というのが当たり前かといった、力がモノをいう世界に近い。
そんな土地の門番がいる街へとやって来た訳だ。
「次!ほう、一人旅とは珍しいな。どうだ?ちょっと相手していかねぇか?」
などと言って来る。
「男なんだけど?僕は男に興味ないから遠慮しとくよ」
ニッコリそう返しておく。
すると、ニヤニヤしだす門番たち。
「その顔と体で男か。ソイツはちょっと確かめねぇとな」
どうやら逆効果であったらしい。どうしよう?
身体検査だと言い出す門番たちに冒険者のタグを見せるが、まるで効果がない。
「そうかそうか。冒険者か。ソイツは余計に調べなきゃなぁ」
などと言い出す。どうなってんの?こいつら。
わざわざ門の前で騒ぎを起こすのも後々困るので、門番たちに連れられて詰め所へと向かった。
「火槍持ちとは良いご身分だ。北方の貴族令嬢か?」
などと聞いてくる。
外見は角が生えた以外は人間そのものだが、全体的に筋肉質で体格が良い門番たち。特に肌の色が赤や青という事も無く、どうしてそこまで恐れられているのかよく分からない。
「北方から来たけど、貴族じゃないよ?それに男だから」
そう言っても全く信じる気配はない。
「そうかそうか、じゃあ、ちょっと確かめねぇとな」
そう言って手をかけて来たので投げ飛ばしてやった。
「何しやがるんだ、このガキ!」
残りの門番が襲ってくるが、みんな投げ飛ばしておく。流石に止めを刺したりはしないけど。
「ほう、なかなかやるじゃないか」
そこへ新たな人物がやって来た。
厳つい門番共とは打って変わってさわやかイケメン系が。にこやかにやってきて、そして、僕を見て、銃を見て固まった。
「フォーティフォー・アリサカ・・・・・・か?」
うん?何その反応。
不思議に思ってその人物を見る。すると、僕の顔をじっと見つめて、そして少し考えてから口を開いた。
「この世界でアリサカといえば、聖槍アリサカくらいしかないはずだ。そして、可憐な少女の容姿。もしかして、君が『鮮血の妖精』ユウなのかい?」
さわやかイケメンがさわやかに問いただしてくる。まあ、角があるからどこか違和感があるのだけどね。
「こっちでも知っている人が居るんだね。その二つ名」
やれやれといった表情でそう答えると、さわやかイケメンよりも先に門番たちが反応した。
「鮮血の妖精・・・・・・、容赦なく魔族を襲うあの・・・・・・」
どんな噂だ、ソレ!
「ヒッ」
門番たちを睨むと急に怯えだした。しかも、なぜか顎をカタカタ、体をガクガクやっている。
「とんでもないのに手をかけちゃったねぇ、君たち」
さわやかイケメンがにこやかにそう言ってほほ笑んでくる。どうしろと・・・・・・




