12・ナーロッパっぽい別の文化が発展している
頂上にある峠の宿場を過ぎると、これまでの道程がウソののようになだらかな道が続いていた。
しばらく進むとまた凄く連なった九十九折れが出現した。
こんな道を馬車で通るとかとビックリするような道だが、元の道は登山道レベルであったというのだから、雲泥の差だろう。もしかして、見えている獣道みたいなあの筋がそうとかいうのだろうか?場所によってはかなりの勾配を直登する道じゃないか。
「徒歩だとこんな回り道よりも良いと選ぶ人は居りますよ。ほら」
という商人が指す方を見ると、荷物を背負って山登りをする人が居た。
今では立派な橋が架けられているので、流される人は居なくなったそうだが、この街道が整備されるまでは、浅瀬を渡ったり河原を辿ったりと、今では考えられないような険しい場所が数多くあったという。今使われているのは街道が九十九折れで登る箇所に残された旧道くらいのモノだろうという。
そりゃあそうか。わざわざ危険な川渡や沢登りを日常の生活路にはしないだろうから。
そんな九十九折れを商人や御者は見事なテクニックで下りきった。
そこから先は、二日に渡り谷を通る事になった。谷といってもかなり広く、徐々に左右の山が低くなっていく。
二日目にはようやく目の前が開けて平地が見えてくるというほどの何とも気分的にはものすごく長い旅だった。
そこからさらに一日をかけてなんとか、石鹸の集まる南の街へとやって来た。
といっても、ここはまだまだ山裾の街なので、北方と大きな違いがあるようには見受けられない。
目的地はさらに三日ほどかかるそうだが、ここまで来れば僕たちの仕事は終わりだ。
護衛達成証明を商人にもらい、近くの冒険者ギルドへと向かう。
中世ヨーロッパがどうだったかは知らないが、江戸時代の日本では、両替商などが遠く離れた土地でも金銭を為替手形で引き出す事が出来たらしい。ほら、有名な時代劇でもやっている。
この世界における冒険者ギルドもそんな組織の一つだ。
なので、遠く離れた土地にあるギルドであっても、こうして受注した依頼の報酬が受け取れる。ナーロッパによくある魔法通信の様な話ではなく、ごくごく一般的な為替手形制度に近い仕組みらしい。僕も当初はオンラインシステムで瞬時に受注したギルドと通信でもしてるのかと思ったが、全くそんな事は無かった。信用経済の一種だった。
この様なシステムがあるからこそ、ギルドは発展している。そして、冒険者も信用が第一。各地を放浪するなら、偽証や詐欺を行ってはイケない。やればブラックリスト入りなので、受注したギルド以外では報酬が受け取れない。
ヒャッハー集団と若手冒険者たちと共に報酬を受け取り、近くの冒険者御用達の酒場で慰労会となった。
さすがにギルドにそこまで大きな酒場は併設されていない。
酒場と職業斡旋施設が一体化しているって、どんだけ大きいの?確かに、大都市でなら可能なのかもしれない。しかし、そんな事はごく限られた街だけの話で、普通は、周辺の商店と同じ規模の、こじんまりとした事務所があるだけだよ。そんな所に酒場を併設なんて無理無理。
ただ、ギルド直営酒場だとか、宿場というのは良くある話で、そう言う所だと、冒険者は割安で利用が可能だ。
もちろん、だからとツケ飲み、ツケ泊りをやれば、強制的に依頼受注による支払いを迫られたりはするが。
そんな、ギルド直営酒場での慰労会を敢行した。
「お前ら、ご苦労だったな。若い連中はこれから狩りに行くんだろう?気を付けろよ。んで、ゆう・・、ユウはどうすんだ?」
と、ヒャッハー隊長がすでに赤ら顔で開始を宣言する。いや、飲んでから開始ってどうなんだ?
有名人のヒャッハー集団に絡んでくるバカも居らず、楽しい慰労会を行えたが、残念ながら、ピラフやパエリアらしき食べ物はあったが、米ではなくクスクスを使っているらしい。
そして、依頼が終って久しぶりの酒であるらしい若者たちもはしゃいでいる。
「俺、ユウさんならありかもしれないです。他ではできない体験!」
などと、ごめん被りたいことを叫び出すのだ。
とうぜん、力で僕に敵わないので、軽くあしらって置いたが、酔いが醒めたら覚えているのかな?まさか、アレって本音だったり?
などとバカ騒ぎをしているが、僕が飲んでいるのは相変わらずクワスみたいな微アルコール飲料。
地球のクワスは東欧やロシアでライ麦パンを原料に作る飲み物らしいが、この世界では一般的な飲料として広範囲に広まっている。
ただ、ライ麦パンって黒パンといわれるモノであったと思うけど、ここではそんな黒糖パンやチョコパンのような色をしたパンはほぼ見ない。
これも勇者による影響であるらしく、千歯こきはドワーフの腕試し用となったが、精麦機は彼らがとことん追求した高性能な製品が各地に販売され、競うように貴族が買う事態となったらしい。
ただ、腕を競い合うドワーフ達にとって、性能が良ければそれで良く。何なら売り上げ金額よりも酒という金銭感覚の持ち主たちなので、売って売って酒を買いまくっているうちに価格崩壊が起き、機械が一般化し、今では精麦した麦を製粉する。だけではなく、ドワーフ製の複合機械も普及して、多くの地域でパンといえば白っぽいモノとなっている。ただ、クスクスは何故か黄色い。ラーメンのかん水麺のアレであるらしい。決してデュラム小麦が指定されている訳ではない。
まあ、召喚勇者とドワーフのコラボでかなり、文化的には進んでおり、ナーロッパっぽい別の文化が発展している。




