10・僕も、この世界に毒されちゃったんだろうなぁ
事態に気が付いた賊、そして「鬼の牙」のメンバーが動きを止めた。
「お頭ぁ!!」
という声も聞こえてくる。
「おい、何やってんだおめぇ!」
と、ヒャッハー隊長も叫んでくる。
しかし、僕は平然と残りの賊共を始末して回った。
頭を倒され、戦意喪失した連中を処理するのは簡単だった。
当然だが、一人も逃がす気はない。逃げ出す連中も片っ端から突き、殴打し、踏みつけていく。
しばらくすると動く者は居なくなった。
惨状をただ茫然と眺める二組のパーティと商人が居るだけ。
そして、ハタと気付いた「鬼の牙」リーダーであるヒャッハー隊長が口を開いた。
「お前、本当にあの『鮮血の妖精』だったのか・・・・・・、にしてもよ、人質毎撃つこたぁねぇだろ」
と非難してくる。
他のメンバーも同様である。
え?なんで??
みんな何を言ってるのか僕にはよく分からなかったので、首をかしげてリーダーを見返した。
「何不思議そうな顔してんだよ。お前、あの人質も一緒にヤッただろうが!」
などと怒鳴り出す。
そんな時、こそこそ逃げ出す気配があったので、ソイツを捕まえてリーダーの前まで突き出した。
「コレに誰が頭か聞いてみなよ」
僕がそう言うと、ヒャッハー隊長も唖然としている。
意を決して声を上げたのは、新人パーティの盾役だった。
「か、頭は誰だ!」
逃げ場のない賊はガタガタ震えながら頭を指し示す。
「あの男?」
僕が人質を取っていた男を指すと、首を横に振った。
「じゃあ、誰?」
そう問うと、人質を指さす。
それを見たヒャッハー隊長が声を上げる。
「適当言ってんじゃねぇぞ、クズやろう!」
僕から賊を奪って締め上げようとしている。
「ウソなんか言ってねぇ!あの女がお頭だ!元は対魔大戦で戦功あった『暁の閃光』のルカだ!!」
この賊は多分、奴隷売却をやっていたんだろう。戦えるような体つきはしていない。ガチムチなヒャッハー集団に凄まれて平気ではいられなかったらしく、洗いざらい吐いてくれた。
確かにその名前は聞いたことがあった。
「暁の閃光」は勇者召喚以前から参加し、バンアレンさんのような個人技ではなく、複数パーティを指揮するクランとして名を上げていた。
際立った用兵によって巧みな戦術で北の魔族を撃退していたらしいが、かのグループが善戦していたので、僕ら勇者が彼らのいる戦線へ投入されることはなく、一度も会ってはいなかった。
戦後、彼らは多大な戦功から爵位の話まで出たそうだが、大所帯のクランという事で、伯爵位の俸給に値する莫大な財貨を褒賞として受け取っている。
当然ながら、それまでも苦しい戦いながら、何不自由ない支援を受けており、終結後には一生遊んで暮らせるほどの財貨を手にすることになった。
しかし、そんな大金を得て、計画的な生活ができるはずもない。
元は学もない様な農村の次男以下であったり、食い詰めて身売りされるかどうかという次女以下の者たちが大半だ。
浮かれて贅沢をすればあっという間に金をむしり取りに来る連中に身ぐるみはがされるだけに終わる。
「暁の閃光」に所属した多くの冒険者がその様にしてわずか数か月で受け取った褒賞をどこかで使い果たしてしまった。
だからと言って、いくらでも願えば支援があった戦時中の様な活動が平時の冒険者にできるはずもなく、流れ着いた先は奴隷狩りというハイリスクハイリターンの盗賊稼業であったらしい。
確かに先ほどは、一見して迫真の演技だった。
男はまさに人質を殺してやると殺気立っていたし、人質となった頭目の少女は恐れおののき助けを求めているように見えただろう。
しかし、僕の身体強化による瞬間的な動体視力は、二人が阿吽の呼吸で僕らを蔑んでいる視線を見逃さなかった。
「ああ、こいつらグルなんだ」
そう思わせるような隙が僕には見えていた。
そうでなくとも、高値で取引される若年女性を人質に取り、あまつさえ殺すなどありえない。そんな事をするくらいなら、一人でも連れ去って奴隷商に売れば、数か月は遊んで暮らせるというのに。
その後の事だが、捕まえた賊に吐かせたところ、町に居た若い男女は傷ひとつなく拘束されていた。
しかし、一定年齢以上と以下に関しては、何の躊躇もなく殺して埋めてしまっていた。奴隷狩りとしてはプロといってよい仕事ぶりだが、生かしておく価値は全く感じない連中だ。まあ、すでに捕まえた一人を除いて生きちゃいないけど。
そして、賊共については町はずれに集めて燃やした。
集めた賊の遺体の中心に、件の捕らえた賊を放り込むなり魔術師が三人がかりで火魔法と風魔法で生きたまま灰になるまで焼き尽くすという、ちょっとアレな光景を目撃してしまったが、やっぱりみんな、思いは同じだったんだろう。
そんな衝撃的な事態が起きた町だが、処理が終った頃には、笑顔こそ全くないが、生き残った者たちがさっそく宿場としての役割を再開させていく。
召喚前の僕だったなら立ち直れないような事件があった直後なのに、この世界の人々はたくましい。
いや、こうした気持ちの切り替えが無いと生き抜けない世界だと言って良いだろう。
魔物や魔獣の脅威が目の前にあるので人が死ぬのは日常であり、人の往来が多い宿場町周辺には野盗の類も出没しやすく、常に死と戦いが目の前にある。
それを普通に受け入れて、町の光景にホッと安堵できる僕も、かなりこの世界に毒されちゃったんだろうなぁ。




