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皇女殿下の御心は ―冷遇されし皇女、帝位を目指す―  作者: 白雪花菜
第二章 皇太子薨御

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8/8

第七話 昨年の誕生日の贈り物

更新忘れてました。すみません。

 ナタリーは、ユーリアとベルンハルトの様子を少し離れたところで見ていた。

 ナタリーから見れば、ユーリアとベルンハルトは仲の良い、友人同士に見える。その健全な関係をナタリーは歓迎していた。


――そろそろ、皇女殿下の誕生日だわ。


 ナタリーは、昨年のユーリアの十三歳の誕生日の頃を思い出していた。


 昨年の今頃、皇帝はユーリアと珍しく乗馬をしていた。

 女性の乗馬は大変珍しいが、ユーリアもその母たる皇后ヘレーネも当世風の貴婦人ではなかった。


 皇帝はユーリアの乗馬技術を見て、紫色の目を細め、感心している様子だった。

 また、誕生日を思い出したのか、欲しいものはないか、とユーリアに尋ねたのだった。


――では、お父様の駿馬のアレイオーンをいただきたいです。


と、ユーリアは言った。ユーリアの表情は子供らしさに溢れていた。紫色の瞳が輝いて見えたのだ。


 ナタリーには、ユーリアが幸福そうに見えた。


 だが、その数日の後、ユーリアと共に薔薇の宮殿に同行すると、その離宮の納屋には、青鹿毛の馬がいたのだった。――それはアレイオーンだった。


 ナタリーはその時、ユーリアの顔を伺った。ユーリアの表情は酷く固かった。


 その様子に、納屋で馬を磨いているケルンテン公ニコラウスは気づかないようで、嬉しそうに言った。


 ――お父様が誕生日にアレイオーンを下さったんだ。


 ナタリーは心臓が潰れる思いだった。ユーリアの気持ちを思うとあまりに惨かった。


 ユーリアは少し微笑みながら、「よかったね」と言った。


 だが、ユーリアは、足早に薔薇の宮殿を後にした。ナタリーは慌てて、ユーリアを追いかけた。


 ユーリアは何も言わずに、自室へと直行した。途中、どんな表情をしていたかは、ナタリーにはわからない。


 自室へ戻ったユーリアは珍しく、怒りが抑えきれなかったのか、聖書やら教科書やらを部屋中にばらまいた。


 ナタリーには、ユーリアを止めることができなかった。

 ユーリアの気持ちが痛いほどわかった。


 皇女は怒りの言葉を口にするわけでも、怒号を発するわけでもない。慟哭することも静かに涙するわけでもない。


 ただ、紫色の瞳を赤く変色させながら、本を投げただけだった。


 ――お怒りだね、ジュリー。


 不意に、皇太子エーミールが入室をし、声をかけた。


 ――近くまで来たから、寄ったよ。珍しく、随分暴れたね。


 エーミールは落ちていた本を拾った。


 ――泣いてはいないね。


 エーミールはユーリアの銀髪を――とはいえ、タンプレット(へアドレス)で覆われているが――を撫でた。


 ――お父様は、アレイオーンをニコラに……。


 ユーリアがそう言うと、エーミールは優しく答える。


 ――お前とケルンテン公は誕生日が近い。陛下は混乱されたのだろう。


 エーミールは、ユーリアを優しく抱きしめた。


 ナタリーは、麗しい兄による美しい妹の慰めを思い出しながら、“今年は、皇女には贈り物がなさそうだ”と思った。


 あの優しい皇太子エーミールは病に伏し、宮廷はそれどころではないのだ。


 だからこそ、ラーヴェンスベルク伯ベルンハルトとユーリアの友情が永遠に続くことを願った。


 ナタリーは、ケルンテン公ニコラウスとユーリアの関係性を危ぶんでいた。確かに仲の良い兄妹で麗しいが、アレイオーンの件のように、ユーリアを傷つけることが多々あるように思えるのだ。


 それに、今は皇太子の身が危うい。


 ナタリーは、果たして、皇太子の身にもしものことがあった場合、皇女ユーリアとケルンテン公ニコラウスが、平穏な関係を続けられるかどうか、疑問に思った。

アレイオーンとはギリシャ神話に登場する馬です。

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