4話
空を見上げるパブロ。よく晴れている。自身の未来を暗示してくれている、といいのだが。
「俺は大学で『龍学』を究める。なにやるかはまだ決めてないけど。でもいくつあるかわからない、それぞれの国や市の『龍』を全部見たい」
生涯をかけて。それでも終わらないかもしれないし、終わってほしくないとも。そんな浅いものであってほしくないから。死ぬ瞬間に「あー、もっと知りたかった」なんて言いながら死ねたらベスト。ベター。
「僕は——」
そんな高尚な未来予想図なんて持っていない。だからこそ、この友人をシトは尊敬しているし、憧れてもいるし、羨ましくもある。自分の遥か先を見ていて。歩いていて。その背中に振り落とされないように。
でも、時々追いかけてその肩にかける手が、彼を立ち止まらせてしまっていないか。そんな不安に押しつぶされそうになる。そんなことをしてしまったら。自分の腕を斬り落としてでも。足手まといにならないようにしなきゃ。
パン、と軽く手を叩いたパブロがポケットから携帯端末を取り出す。
「そういや、また隣の市に流れてきた話聞いたか? 今度のは白と黒の……なんかよくわからない物体。結構重いものらしい」
手のひらサイズの画面に触れると、そこに映し出されたのは汚れでくすんではいるが、磨けばピカピカと光りそうな黒い塊。上部には蓋のようなものが付いているらしく、開閉するらしい。高さはそうでもなさそうだが、脚もついていて自立可能。折りたたむことも。
睨むように注視しつつ、シトは唇を尖らせる。
「なにこれ」
「いやだからわからないって。だいたいの素材は木らしいんだけど、表面には専門家によると『スタインウェイ』って書いてあるって。なにに使うのかはわからん、てとこまで」
端末を制服のポケットにしまうと、パブロは降参しつつ思考を巡らせる。これが楽しい。考えることが。答えの出ないことが。
様々な市で観測される、なんの前触れもなく。唐突に。いつの間にか。どこからともなく。『なにか』が出現する怪奇現象。専門家曰く『龍の歪曲』によって引き起こされるのだそうだが、なにひとつわかっていない。目的も。使い方も。異世界からのプレゼント、的ななにかだろう、と今のところ。




